小説『ソードアート・オンライン 第一章 〜アインクラッドと蒼騎真紅狼〜』
作者:大喰らいの牙()

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第三話  デスゲーム


〜真紅狼side〜
最初に起こった現象は、頭の中でフラッシュバックが発生した。
実際に目では見ていないが、俺は無意識に“目を閉じる”という行動をしてしまった。
そして、光の奔流が収まった後、俺は目を開けると巨大な浮遊城が目の前に浮かんでいた。
まさに“ファンタジー”という一言に尽きる。
俺から言わせてもらえば、すでにこの世界も元の世界も十分ファンタジーに当たるような物だが、ここの住人にとっては“この世界”がファンタジーにあたる。


この浮遊城の名は―――――“アインクラッド”


俺が居る場所は、どうやらこの世界に訪れたプレイヤーが最初に踏む土地―――(はじまりの街)というらしい。
本来なら、この世界に入るまでに色々なパラメーターを弄るのだが、先に決めていた為、俺はすんなり入れた。
といっても、パラメーターを他のプレイヤーに見えない様に確認してみると、初期状態にしては色々とぶっ飛んでいた。



【アバター名 ガロン


取得スキル  敏捷 Lv.MAX
       気配察知 Lv.MAX
       隠密 Lv.MAX


ユニークスキル (真絶・二刀流)
        (宝具解放)
        (武人の極み)
        (投影)
        (?????)


(?????)は解放条件が揃っていない為、表示することが出来ません】



明らかに敏捷と隠蔽は『七夜』の影響かな。さらにランサーの修業のもとで拍車が掛かったか。
となると、そこには表示されていないが筋力や回避力もエライことになっていることは間違いない。
そして、装備の方も明らかに最初に手配されるモノとは違い、その姿は俺がいつも着ている黒コートに、黒のスーツで白いシャツだった。
これも、絶対に異常なことになっていることに違いない。
俺は一瞬だけ「やりすぎたかな」と思ったが、すぐに「まぁいいや」と能天気な性格が出てきて、そんなことは霧散した。


「さて、そろそろ本当のゲームの始まりの合図が出る筈なんだが………」


約500m先に二人のプレイヤーが困惑していた。
おそらくこの世界から出る為の(ログアウト)ボタンがないということなんだろう。
すると、俺の目の前にシステム表示で【Warning!! System Announcement】という表示が頭上に出た後、俺達は突然飛ばされた。
飛ばされた場所は、(はじまりの街)の中心点。
だが、その(はじまりの街)の背景は血液のように垂れながら空を支配しており、誰もがその異常性に怯える。
すると、その異常な空に突然、真紅のローブを被った人物が出現した。
しかし、そのローブの人物の顔が無いことに気が付いた。
そして、その謎の人物は喋り出す。


『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』


そのローブの人物は悠長に喋った。
周りのプレイヤーは、色々と語り合っていたが、次の言葉で俺以外の全員が絶句した。


『私の名前は茅場晶彦。今やこのゲームをコントロールできる唯一の人間だ』


そこからは、俺達の置かれている状況を逐一報告し、さらにはこのゲームからの脱出方法を教えてきた。


『脱出方法は、ただ一つ。この城の頂を極めてもらいたい』


その言葉に、プレイヤーたちは抗議の声を上げた。
βテストを受けた数千人ですらクリアできなかったこの城の頂を極めることは無謀に等しい。と、抗議の声を上げた。
だが、ゲームマスターである茅場晶彦はそんな抗議を涼しそうに聞き流し、機械のプログラムのように、どんどん進めていく。


『―――最後に、キミたちがこのことを現実と認識するように、私から贈り物がある。アイテムストレージ欄から確認してくれ給え』


一斉に広場にシステム音が響き、ストレージから取り出した。
それは(手鏡)というモノだったが、それを覗きこんだ瞬間、プレイヤーの顔元に光が包み込み、現実世界での自分自身の顔が映る。


『………以上で(ソードアート・オンライン)正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君―――――健闘を祈る』


その言葉を言い切る前に俺は気が付いた。
茅場晶彦が俺に視線を向けていたのだ。
顔が無いのに消える瞬間まで、ただずっと俺に視線を向けていた。
だから、俺は誰にも聞こえない様に口パクで喧嘩を売った。


『その首―――――俺が貰い受ける』


刹那、顔がない茅場晶彦が嗤ったように見えた。
そして、そこから広場には普通の人間としては当然の反応を見せた。


『嘘だろ………なんだよこれ、嘘だろ!』
『ふざけるなよ! 出せ! ここから出せよ!』
『こんなの困る! このあと約束があるのよ!』
『嫌ああ! 帰して! 帰してよぉおお!』


悲鳴。怒号。絶叫。罵声。懇願。そして咆哮。
周りは感情の渦に巻き込まれていた。
だが、GMであり茅場晶彦のことだ。本当にこの壮大な浮遊城の頂を極めなければ出してもらえないだろう。
その場で叫ぶことは誰でも出来る。
だが、そんなことをしても前には進めない。
ここで動けなければ、一生前には進めない。
だからこそ、俺は誰もが叫んでる中、為すべきことを今一度確認した後、次なる目的地へ向けて歩き始める。
その行動に、誰もが注目する。
俺は人の合間を縫って、広場の端まで辿り着き次の街に行く為の道に踏み出そうとした瞬間、近くに居たプレイヤーに呼びとめられた。


「おい、アンタ。どこに行くつもりなんだ!?」
「どこって、この城の頂だが? 泣いたり叫んだりなんてことはしたければ、勝手にすればいい。俺にとっちゃそんなモノ、現状を動かす材料になりやしねぇ。それよりかは、さっさと次なる街や村に移動しながらモンスターを倒しつつ、上の階層に目指した方が合理的だと思うがな」
「アンタは、なんでそんなにもこの状況を受け入れることが出来るんだ!?」
「受け入れなければ、始まらないからだ。帰りたいという気持ちがあれば、自然に足が動いてる筈だ。だが、お前等の足は一切動いていない。ただただ、泣き叫んで絶望しているだけ。―――泣きたいなら、勝手に泣け。叫びたいなら、勝手に叫べ。だが、一言だけ言っておこう。いつまでもそんなことしてる奴は………臆病者だ」


そう吐き捨てて、俺はアイテムストレージを開いてるフリをしながら、コートの下から“王の財宝”より、【長槍 鬼神】を出現させる。
その出現した異様の得物に誰もが息を飲んでいた。
俺は肩に担ぎながら、一万人のプレイヤーの一番手に(はじまりの街)を出発した。
〜真紅狼side out〜


〜???side〜
俺とクラインは始めてすぐに仮ではあるがパーティーを組んだ。
といっても、クラインが俺の行動を呼んでβテスターだと判断したらしく、口早に「レクチャーしてくれ!」と頼みこんできたので、その口の早さと勢いに負けて、武具と戦闘のレクチャーをしていたら、突然の強制テレポート。


そして、そこで打ち明けられた真実を聞いて、パニックに陥った。
「そんなバカな話があるか」と………。
隣に居たクラインも怒号を上げていた。
だが、このゲームを創った茅場晶彦ならやりかねないと俺はどこか確信していた。
その茅場晶彦から、最初で最後の贈り物を受け取った俺達プレイヤーが手にしたのはなんと………(手鏡)だった。
俺達は、「何故手鏡なんかを………?」と思ったが、その意味が次の瞬間理解出来た。
自分の素顔が反映されていたのだ。


「おまえ………クラインか!?」
「そういうお前ンは、キリトか!?」


一万人のプレイヤーの素顔が顕わになる。
そして茅場晶彦は、消えていった。
その後に起きたのは、悲鳴と怒号の感情の嵐。
俺達は、いきなり仮想世界で囚人に成り果ててしまい、誰もが絶望している最中、俺はある人物に目が外せなかった。


その男は身長が180近くあり、華奢な体つきをしていた。
さらには着ている服装も他のプレイヤーとは違っていた。………色だけは俺と同じだが性能は全く違うモノだろう。
その存在自体が目立つ物だが、もっとも際立たせていたのが髪の毛だった。
髪が赤い………いや、紅かったのだ。
どこまでも色褪せていない紅。
その男の目は、周りのプレイヤーとはまったく違う目をしていた。
何かを決意した目だと、そう判断するのはそんなに時間が掛からなかった。
そして、その男は人の合間を縫って、(はじまりの街)のこの広場から出ていこうとした時、他のプレイヤーから呼びとめられた。
それから、色々と話していて、他のプレイヤーもそちらに注目が集まっていることを確認した上で、クラインを掴んでその場から、少し離れた。


「ちょっとこい、クライン」
「………な、なんだよ」
「よく聞け、俺はアイツと言ってたようにこの街を出て、隣の村に向かう。お前も来い」


すると、クラインはぎょっとした目で俺を見る。


「お前も知っているだろ? このゲームのシステムはプレイヤー同士のリソースの奪い合いだ。なら、とにかく自分を強化しなければ、すぐに他のプレイヤーに食われることになる。今までは、食われても復活エリアがあるが、今は違う。食われる=死だ」
「だ、だけどよ、このゲームを買う為にダチと徹夜して並んだんだ。そいつらを見捨てることは………俺にはできねぇ。でも、大丈夫だ。今までお前に教わったテクを使いこなして、生き残ってみせる。だから、キリト………お前は先に行け」


クラインは無理矢理笑っていた。
内心は震えているのだろう。
俺だって、本当は叫びたいがそれをどうにかして押し潰している。


「そうか………わかった。一応フレンド登録をしておこう。なんかあったら、メッセージを飛ばせ」
「ああ。そうだな」


フレンド登録をし終わり、俺はフィールドに出る為に細道に入る手前で、クラインが叫んだ。


「おい、キリト! おめぇ、本物は案外カワイイ顔してやがんな! 結構好みだぜオレ!!」
「お前もその野武士ヅラの方が十倍似合ってるよ!」


また逢えると信じて、お互い軽口を飛ばして別れた。
俺は、次の村まで光の見えない暗い森を必死に駆け抜けた。
〜キリトside out〜


〜???side〜
兄がこのゲームの類が好きだと言っていて、必死の思いで獲得した(ナーヴギア)を被ろうとした瞬間、携帯に電話が掛かり、しばらくしてから電話が終わると「急に仕事の予定が入ったから、それ使っていいぞ、アスナ」と言った兄は、鞄を持って出掛けてしまった。
私は兄に感謝して、箱を開けて説明を読み、電源を入れてドキドキしながら、ゲームを始めたら、いきなりこんなことに巻き込まれてしまった。
このゲームを創った茅場晶彦の宣言により、この城の頂をクリアするまでは出ることが出来ない。
その言葉を聞いた時、私は崩れ落ちそうになった。


だけど、崩れ落ちそうになった傍らで視線の先にやたらとその場には似合わない男が立っていた。
その男の人は、周囲から浮いた存在だった。
何故なら、髪の色が紅かったのだ。
そして他のプレイヤーが絶望の声を上げてる最中、その男の人は何か決意に満ちていて、力強かった。
茅場晶彦の最後の言葉を言い切る時、私はあることに気が付いた。
真紅のローブを被っている顔のない茅場晶彦が、その男の人を凝視していた。
その男の人も真紅のローブを凝視し、何か呟いた後、男の人は(はじまりの街)を出ていった。


「……そうよね。あの人の言う通り、足を動かさなければ始まらない」


去っていく直前で、あの男の人は「動きたいなら足を踏み出すことだ」と言っていた。
私は、どうにかして次に進む人達を探して前に進んだ。
〜アスナside out〜


必ず、クリアしてみせる!

-3-
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