小説『ソードアート・オンライン 第一章 〜アインクラッドと蒼騎真紅狼〜』
作者:大喰らいの牙()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第五話  


〜真紅狼side〜
デスゲームが開始してから、もはや二カ月。
時の流れと言うのは凄まじく早いモノで、つい最近の様に感じていた。
だが、たった二カ月で死者は二千人を優に超えていた。
その二千人の中にも色んな死に方をした奴が居て、一番多かったのは自殺と他殺だった。


俺が一番最初に(はじまりの街)を出ていった後、そこに残っていた他プレイヤーも俺と同じことを考えたらしく、前に進んだがそこに残った者たちが居た。
そいつ等は、ただただ外部からの助けを待つ者達だった。
だが、一週間以上過ぎても助けが来ないことを分かると、“狂乱の宴”だったらしい。


言わなくても判断できるが、めっちゃ狂ったらしい。
そんな中、一人の男がとある方法でこの世界から脱出を試みた。
その男は、「システム外に出れば、回線を切断することが出来るのではないか」と。
男以外にも残った連中までが男についていきこの城の外壁まで辿り着き、そこから飛び降りた。
だが、下に陸地などはなく、ただ絶叫の声がそこに響き渡り、最後は静けさだけが残ったらしい。


逆に他殺の方を触れるとしよう。
他殺で死んだ奴等は、他のプレイヤーに殺されていった。
一週間が過ぎた時から、『殺人ギルド』というのが出現した。
そいつ等はボロボロの黒いマントや骸骨マスクを被って顔を隠し、闇討ちを主とした戦法で他プレイヤーに多人数で挑むと言う、外道共だった。
コイツ等のせいで多くのプレイヤー死亡を加速させた。
対して、コイツ等に敵対組織があった。
『軍』と呼ばれるモノだ。
外の世界では“警察”に当たる組織で、コイツ等の本拠地は(はじまりの街)の“黒鉄宮”を占拠した。
コイツ等がやる仕事は、治安維持と犯罪プレイヤーの拘束。
だが、コイツ等も最近は過激になり、フィールドに出れば長時間フィールドを占拠するため、ときおり他プレイヤーとの激突があった。
だが、連中は大義名分を盾にして、過剰な挑発を繰り返して冤罪を創りだす連中も中には居た。
その為、プレイヤー間では『極力()には近づくな』と囁かれていた。
俺も何度かやりあったことがあるが、幸か不幸か俺のちょっとした変なスキルが発生して、無事におさまった。


()に出会った後、今度は『殺人ギルド』に出くわした。
連中は、俺が低レベルプレイヤーに見えたのか、不意打ちすらせず数に物を言わせて襲い掛かって来たが、そんなのが俺には通用しないのは目に見えていた。
本場の暗殺業を普段から使っていた俺に言わせれば、ゲームの中で多少触れた暗殺など所詮付け刃に等しい。
俺は、連中の攻撃を掠ることなく軽やかに避け、敵の四肢を砕き、叩き折った。
叩き折られたオレンジプレイヤーは、そこで痛みに呻きながら転がった。
何故、犯罪プレイヤーが“オレンジ”という認識になるかと言うと、犯罪を行ったプレイヤーはプレイヤー名表示の部分がオレンジに変わるから、そう名付けられた。
転がった連中を俺は掴みあげて、モンスターが蠢くフィールドに投げ飛ばした。
生き残った連中は、自分たちの末路が分かると俺に対して必死に命乞いを懇願するが俺は聞く耳持たずに、そこに居た半分を投げ飛ばして次を投げ飛ばそうとしたとき、モンスターが団体でやって来たのであった。
俺は、すぐさまその場から離れた。
(隠密)のスキルを使い、気配を悟られずことなく俺は戦線を脱出した後、村に戻った。


これが二カ月間に起きた出来事だった。
俺は(ベーター)と間違われる程のスピードで進み、今では全プレイヤーの中ではもっとも攻略の進んでいるプレイヤーと言われていた。
俺が現在、仮の本拠地にしている階層は“第十四階層 水の都 (ヴェネチア)”どこぞの観光名所に似ている。
何故なら、NPCがゴンドラを動かしてる時点で似過ぎている。
だが、この都は悪くない。気分の問題だがな。


「そういや、今日は下の階層連中が、ボス攻略をするとか言ってたな」


今日の予定を思い返していると、俺はいまだに第十階層をクリアしていないギルド達と協力して、ボス攻略を手伝う事となっていた。
こんな約束(←結構、一方的だったが)をしたのには、理由がある。
第五階層の時、意気揚々に進んでいた俺の目の前に、一人の少女が傷ついてやってきた。
ちなみに、SAOの世界で女性プレイヤーと言うのは、かなり稀少で珍しい。それが故、ギルドに入れば女神として崇められ、ソロならアイドルとして建てられていた。その少女は、どうやら運悪く殺人ギルド『笑う棺桶』に遭遇してしまい、一対一であったが、レベルに装備の差が一方的過ぎたので嬲られながら逃げていたらしい。
そこに俺が通りかかったらしく、助けを求めてきたので、その時はいつも通りの対処をした後、放置の刑を執行した。そのオレンジプレイヤーがくたばったかどうかは、知らないが。
その後、流れ的にフレンド登録をし、彼女を安全圏まで送った。
しばらくして、その彼女からメッセージが送られてきて、内容は「手伝って欲しい」という短い文だった。
送り帰しに「何を?」と帰すと、「ボス攻略に。場所は第十階層に、午前10時に来てね!」と返信された後、拒否メールを送ったが反応なしですげぇ一方的な約束を付けられた俺であった。


「……ったく、すげぇ理不尽」


俺は、回復アイテムと転移結晶を数個ストレージに入れたことを確認した後、【刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)】の先を包帯で巻いた状態で肩に担いだ。
そして、転移結晶を取り出して叫ぶ。


「転移! ドンドルマ!!」


そこには、淡く青い球体が現れ、俺をすっぽりと包みこむ。次見た光景は、それなりに人の通りがあり、活気にあふれていた街だった。
この街の設定は、色々な違う街の特産品が流れるという物流の絶えない街だった。
さらには、狩人というNPCが居る為かモンスター狩猟、または討伐をする為に武具も豊富で低層装備を揃えるには、悪くない街でもあった。
実際にこの街を拠点にしているプレイヤーやギルドも多い。
俺は移転した後、会議を行ってそうな建物を探すとすぐに見つかった。
何故なら、そこには大量のプレイヤーが集まっていたのである。


「うげぇ、あの人波を縫って行くなんて絶対にヤダなぁ……………帰っちゃおうかな」
「………だれが、帰るのかしら?」
「んなもん、俺が………………って……………あ」
「私は帰っていいって、言ったかしら? ガロン君?」
「あー、取り敢えずレイピアから手を離してくれると凄い嬉しいです、アスナさん」
「逃げるからダメ」


即答された。
逃げ道がねぇ。


「じゃ、行くわよ?」
「帰っちゃ………「チャキ」………すいませんでした」
「今度こそ行くわよ!」


そう言って、俺はアスナに抵抗できずのまま、引き摺られていった。
〜真紅狼side out〜


〜アスナside〜
私がメッセージを送って、そして当日。
会議室に居た私は、団長に断りを入れてから、抜け出した。
約束の場所に行ってみるとめんどくさそうな顔で、いかにも「帰りたい」という表情の真紅の髪の男が居た。
それに加えて、全身黒く染まっているかのように服を着ている姿は、目が痛い。
それにしても、あんな服でなんで防御力があるのかしら?
絶対おかしいわ。


『………帰っちゃおうかな』
「―――だれが、帰るのかしら?」
「んなもん、俺が………………って……………あ」


私の姿を見ると、ガロンは「やっちまった」という表情をしていた。
ここまで来て逃げられるのも困るので、レイピアの柄に手を置いておく。
私は彼を引き摺るように、会議室まで向かう。
途中、建物の前で待機している他プレイヤーがこちらを見ていたが気にしないで中に進む。
そして、会議室の前まで連れてきたら、彼を立たせる。


「ほら、立って!」
「ヘイヘイ。アスナさんよ、お前ギルドに入ったのか?」
「ええ。聞いたこともあるかもしれないけど、【血盟騎士団】っていうギルドにね。そこで副団長をやってるわ」
「なるほどねぇ」
「そういうアナタも物々しい異名が付いたじゃない。『ジョーカーキラー』さん?」
「うっせ! 好きで付いたわけじゃないんだよ!」
「まぁ、でも、この異名は仕方がないわよ。『笑う棺桶』のメンバーの大半を倒してきたアナタだもん」


この男との『笑う棺桶』との記録は凄いことになっていた。
当時、『笑う棺桶』と言えば、全プレイヤーが怯えるほどの殺人ギルドであったが、突然、メンバーが激減し始めた。
数百人は超えていたギルドメンバーがある時を境に一気に減少して、十数人まで減ったのだ。
プレイヤー間の噂話では、「『軍』の一斉摘発」とか「仲間割れを始めた」という噂が多々あったが、一人のプレイヤーがこの男と『笑う棺桶』の戦いを見て、真実を知ったプレイヤーは話を広めてしまった。
その為、『笑う棺桶』を死神=ジョーカーという風に認識したらしく、『死神殺し』つまり、『ジョーカーキラー』と名付けられたらしい。


「取り敢えず、入るわよ」
「ウィ」
「失礼します」
『どうぞ』


私から先に入り、すぐあとにガロンが入っていった。
そして、ようやくボス攻略済みのガロンを含めた作戦会議を始めることにした。
〜アスナside out〜


〜真紅狼side〜
アスナのあとに入ると、そこはもうなんというかバカみたいな息苦しさがあった。


「こちらが、『ジョーカーキラー』こと、ガロン君です」
「どうも、ソロで活動中のガロンです」
「キミの異名は風の噂で聞いている。私は、『血盟騎士団』団長のヒースクリフという。よろしく頼む」


血盟騎士団の制服とは違って、赤をベースにした騎士鎧を着ていた。
俺から見て左側には、他にも血盟騎士団には入っていないが、ソロで活動している連中のなかでも暫定的な代表をやってる奴などが居て、右側にはアスナ達。つまり、血盟騎士団のメンバーの中でも、それなりに地位が高い者たちが居る。


「さて、ガロン君、いきなりだが十階層のボスの特徴を教えてくれないか?」


ヒースクリフは、口を開き会議を始めた。


「………ボスの名は“キマイラ”。大きさはさほどデカくない。ライオンの一周りぐらいあると思ってくれ。こいつは、オールレンジで近距離なら角や牙、爪で攻撃し、中距離なら爪と尻尾の蛇でのコンビネーションアタック。長距離だと火炎ブレスと毒ブレスを放ってくる。予備動作を見分けることが出来れば、さほどは苦労しないが、ちょっと厄介だ」
「何故かね?」
「お前等の中に“ベヘモス”と戦ったことのある奴は居るか?」


俺は訊ねてみる。
すると、アスナとその他数人が手を上げる。


「私、戦ったことがあるわ。低階層に出現する強敵モンスターよね?」
「そうだ。出現率は低いものの高い攻撃力と堅い防御力。その上、体力まで序盤にしては尋常じゃないモンスター。六人でようやっと倒すことが出来るモンスターだが、アレは能力が高いだけで狩りやすい。それとは対称なのがキマイラだ。キマイラは、ベヘモスよりかは全部が下回っているが、一つだけ奴に勝ってる部分がある。………それは、攻撃範囲の広さだ」
「攻撃範囲?」


アスナは首を傾げる。


「ベヘモスの攻撃範囲は基本的に目の前の奴しか攻撃しないから、そのことを頭に入れれば一人でも狩れるが、キマイラの場合だと、とにかく攻撃範囲が広いんだ。その上、不意打ちは出来ねぇ。蛇が後ろをカバーしているせいで、うかつに殴れない。しかも、蛇の攻撃は麻痺と毒の噛みつき攻撃があるからどうにもならん」


全員は、険しい表情で話を聞く。
ボスの中でも異常状態攻撃は、厄介な部類に入り、ソロで挑む場合は攻撃を食らわないことが条件でとてもシビアだ。
パーティーでも、二人以上が異常状態に陥るとかなり危険区域に身を置くことになるので、死亡率の確率が跳ねあがる。


「では、ガロン君。キミはいったいどうやって“キマイラ”を突破したのかね?」


ヒースグリフの言葉のあと、全員が俺に顔を向ける。


「俺はこの装備があったから、突破できたな」


全員は、【刺し穿つ死棘の槍】と【黒獄・纏】と【常闇】を見る。


「この装備は、何か特殊な装備なのかね?」
「ああ」
「どんな力があるか、教えること出来ないか?」
「武器は無理だが、防具はいいぜ」
「では、防具だけでも頼む」
「いいだろう。この【黒獄・纏】は異常状態攻撃を完全に無効化、かつ、被ダメージを30%軽減させる。【常闇】は常に気配遮断のスキルが有効になり、人、モンスター問わず、先制攻撃が可能だ」
「………、キミの主要武器は槍かね?」
「いいや、俺は全武器使用可能(オールレンジ)だ。今日はたまたま槍を使いたい気分だったから、持ってきただけさ」


そんなことを言うと、ヒースクリフ以外は、「全武器使用可能なんて、そんなこと出来るのか?」や「“気分”だと? 舐めやがって!」と憤りを見せてる者も居た。


「情報提供感謝するよ、ガロン君。作戦はこうだ。盾装備者を五人程用意し、敵の攻撃を凌ぎながら、敵の攻撃直後を狙ってスイッチでアタック。だが、深追いせず、一度攻撃を当てたらすぐに離脱。これを繰り返していくことにしよう。あと、回復結晶と解毒結晶を各々多めに持って来てくれ。集合時間は今から一時間後。では、解散!」


ヒースクリフから発せられた言葉により、ギルドの代表者は外に居る仲間に知らせる為に次々と部屋から出ていく。
そして、最後には俺、アスナ、ヒースクリフとその他のギルドメンバーが残った。


「俺は、今回、戦闘に参加した方がいいですかね?」
「キミは、危険な時だけ頼みたい。キミが表立って戦闘に参加すれば、不満を言う者も出てくるからな」
「そりゃ、まともな意見だ」
「………そーいえば、私、ガロンがモンスターとの戦闘みたことないわね。普段のスタイルってどうしてんの?」
「俺か? モンスターの隙さえあれば、殴りに行ってるぞ? さらには、殴ってる最中に仰け反りとかが発生したらラッシュを掛けるけどな」
「それって、危ないじゃない!」
「そうか?」
「アナタってつくづく大概ね」
「おおう、酷い言われようだ」


そんな雑談をしながら、時間が過ぎていった。



一時間後・・・



かなりのプレイヤーが集まっていたらしく、中には道中で出会ったソロのキリトやギルド『風林火山』のリーダー、クラインの顔もあった。
時間になり、ヒースクリフ達が出てきて、「では、出発」と言おうとしたところで、一人の男がその言葉を遮った。


『ちょっと待ってくれんか!?』


声を出した者を誰もが見る。


「……キミは?」
「ワイはキバオウって者や! ヒースクリフはん、アンタの説明は分かったんだが、ワイみたいな一部のプレイヤーには“回復結晶”みたいな高価なモノはない! そこでワイ等にも平等に分けてくれんか!?」


そのキバオウという男の眼は、ヒースクリフでは無く俺に向いていた。
コイツ………そういうことか。


「例えば、アンタの隣で余裕そうな男が分けるとかは出来んか?」


ああ、やっぱり来たな。
ソロで活動し、一躍有名になるとそのおこぼれを肖ろうと、群がって来る連中が居た。


そいつ等の目的は主に二つ。
一つ目は、低レベルでもハイレベルのアイテムをゲットできると言う事。


二つ目は、高レベルであるプレイヤーのアイテムの消費力をワザと高めさせて、陥れること。


要は、陰湿な嫌がらせだ。
この手の連中は、揉め事になっても自分たちは責められないということを自覚していることが非常に性質悪い。


「………ガロン君、アイテムの余りはあるかね?」
「別にかまわねぇよ。一人一つずつだ。ヒースクリフ、あとでそいつらに渡しとけ」
「………すまないね。今ここで諍いは面倒なのだ」
「おい、キバオウって言ったか?」
「なんや?」
「今回は特別として渡してやるが、代わりに俺はお前等が危機に陥っても助けないからな。そのつもりでいろ」


すると、キバオウは信じられないという表情をして、抗議の声を上げた。


「ふ、ふざけるんなや! アンタ程のハイプレイヤーがワイ等を助けないなんてどういうことや!?」
「俺は、最初は“回復結晶”を持っていないアンタ等なら、多少は助けてもいいと思ったが、アンタ等は今ここで結晶を得た。なら、助けなくても自分で助かる方法を得たと言う事だ。そんな奴を守らなければならない義理がどこにある? それにだ、アンタ等だけがメリットだけを得て、俺はデメリットしか得られないなんて理不尽だろう? アンタが言う様に“平等”に取引をしただけだ」
「そんな理屈………!! 「なら、結晶を今すぐ返せ」………くっ!!」
「守って欲しいなら、結晶を返せ。嫌なら、自分でどうにかしろ」
「この………(ベーター)が………!!」
「その(ベーター)におこぼれを肖ったバカはドコのどいつだ?」


キバオウは、憎たらしそうに俺を睨んでいたがこれ以上言っても勝てないと判断したのか、おとなしくなった。


「では、行くとするか」


ヒースクリフの掛け声とともに、参加しているプレイヤー達は咆哮した。
〜真紅狼side out〜


〜キリトside〜
血盟騎士団の団長、ヒースクリフの掛け声とともに俺達は出発した。
ガロンが案内役を買い、ボス部屋まではモンスターにも出くわすことも無く、無事に辿り着いた。


「さて、諸君準備はいいな?」


ヒースクリフは問いかける。
それに応える様に、それぞれ武器を構える。


「では、ガロン君、扉を開けてくれ」
「ああ」


バァン!


ガロンは、足で蹴飛ばすかのようにブチ開けた。
これには俺たち全員ビックリした。


「………ガロン、貴方もしかしていつもこんな開け方してるの?」
「別にボス部屋なんだから、恐る恐る開けなくたっていいだろうが」
「諸君、突撃!」


ヒースクリフは剣を掲げる。
それと同時に、多くのプレイヤーが中に入っていく。
俺も中に入り、武器を構える。
すると、それに呼応するかのようにボスが出現した。


ズシンッ! ズシンッ!


「グルルルルルッ!!」


キマイラが登場した。
登場したキマイラは突然、距離を取り始める。
その動きを見たガロンは、のんびりとした声で警告してくる。


「毒のブレスが飛んでくるから、そこから左右に回避しろよー。キマイラの方に近づきながら回避したら、蛇の攻撃に喰らうから気をつけろー」
「全員回避だ!!」


フシュゥゥゥゥゥ………


キマイラは紫色の息を吐き、直線状に伸びてくる。
その攻撃を回避した俺達は、攻撃を開始する。


「スイッチだ!」


盾装備の男が叫ぶと、攻撃隊の俺達は単発スキルを出しては、離脱という行動を繰り返していた。


「はあああっ!」


アスナの番になった時、レイピアの四連撃(クワトロ・スプラッシュ)がクリティカルヒットしキマイラのHPゲージが大幅に削れ、ゲージが二本目を切ったした。


「うおりゃぁぁあああ!」


次にクラインがスイッチし、カタナの単発スキル(ホリゾンタル)を放つ。
攻撃を終えたクラインはすぐさま離脱する。


「次、頼む!」
「おおおおおおっ!」


俺の番になり、片手剣の四連撃(バーチカル・スクエア)を繰り出し、残り少しになったとき事態は起こった。
一部のプレイヤーが、行動パターンから外れ勝手に突撃し始めたのだ。


「なっ、おい止せ!」
「キリト! アイツ等って確か、キバオウってやつといっしょに居た奴らじゃなかったか?!」
「ということは、手柄を独り占めしたいが故に暴走したか!!」


キバオウと共に居た奴等は、勝手に攻撃し始めたがキマイラのバーが減ることは僅かしかなく、逆に反撃を食らって一気にバーが半分まで減っていた。
さらに、蛇の噛みつきが追撃し、一気にレッドゲージまで持っていかれた。


「ぐううぅぅ!」
「くそがぁ!」
「し、死にたくない!」


キバオウの仲間たちは呻く。
俺は叫ぶ。


「おい、なにやってる!? 早く、結晶を使え!!」
「キリト、アイツ等はすでに結晶を使ってる!! このままじゃ、死ぬぞ!!」
「なんだって!?」


キマイラは、キバオウ達の前に立ち、強靭な爪を振り下ろしていた。
誰もが、キバオウ達を助けようと必死に走ったが、距離があり過ぎていた。
だが、振り下ろされる直前に俺達の横を高速で駆け、動けないキバオウ達を助けた男が居た。


「……ったく、なんで助けちまったんだろ」
「ア、アンタ……」
「ガロン!!」
「は、離せ! ワイ等がアレを倒すんや!」


助けてもらっていたキバオウはガロンの腕の中でじたばた暴れていたが、ガロンはキバオウの襟を掴むと、壁に投げ飛ばし壁に叩き付けた。


「団体行動が出来ねぇ雑魚は引っ込んでろ」
「全員、手を出すなよ! 俺の戦いを見せてやる」


そう言って、ガロンは武器を構えた。
〜キリトside out〜


〜アスナside〜
ガロンは赤い槍を掴み、切っ先に巻き付けてあった包帯を剥ぎ取り、姿勢を低くした瞬間、姿が消えた。


『消えた!?』


私達は、消えたガロンの姿を探すと、黒い剣士が叫んだ。


『あそこだ!』


ガロンは、キマイラの懐に潜り込んで刺突を叩きこみ、ソロでの経験なのかそこから離れ、蛇の攻撃に注意しながら側面に回り込み再び攻撃を繰り返していた。
その攻防は、剣戟の舞だった。
キマイラの爪や角攻撃を弾いては、僅かな隙をも見逃さず、攻撃を放つ。
そして、刃を引く動作をせずに柄を回しては、石突で追撃を放つ。
そのような攻防が、目の前で行われていた。
ガロンの武器とキマイラの攻撃が接触する度に、火花が散りそしてキマイラのHPバーが見る見るうちに減っていく。


「ガアアアアアアアアアアァァッッ!」


キマイラが大きく息を吸い込む動作を見て、ガロンはその場からすぐさま離れる。
バックステップの跳躍力が通常の人よりも大きく、立った一回の跳躍で私達の所まで下がってきた。
私は彼に回復結晶を使おうとしたが、彼のHPバーは僅かしか減っていなかった。


「―――仕留めるか」
「え!?」
「無理だ! まだ半分以上残っているぞ!?」
「普通ならな………。だからこそ、この槍の真価を見せてやるよ、キリト」


彼は、私達に離れているようにいうと紅い槍を回転させて姿勢を低くし、構える。
すると、突如、その槍から紅い奔流が湧き出て、威圧感を放つ。
キマイラも渾身の一撃を叩きだすつもりなのか、力を溜める仕種を見せていた。
緊張が高まる中……………ガロンが先に動いた。
ガロンは弾丸のように飛び出し、キマイラの攻撃範囲ギリギリの所から槍を放った。


「刺し穿つ―――――――――――――――――――死棘の槍!!!」


何か叫んだ後、槍の一撃がキマイラから外れるがその直後、槍があり得ない動きをした。外した筈の槍の切っ先がキマイラの心臓を穿いたのだ。


「グガアアアアアアア………ァァァ………」


キマイラの断末魔が聞こえ、そしてポリゴンがパキンッ!と音を立てて、ガラスの破片のように消えていった。
システム音が鳴り響き、彼の前には【Congratulation!】とシステム表示がされた。
私達は、その表示が出たことに歓喜した。


『うぉおおおおおおおおおおおおっ!』


私は、トドメを刺したガロンの方を見ると再び切っ先を包帯で巻く作業に移っていたので彼に「お疲れ」と言おうと彼に駆け寄ろうとした時、彼に助けられたプレイヤー、キバオウが激怒していた。


『なんてことしてくれるんや!』
『・・・・・・・・・・・・・』
『アンタが出しゃばったせいで、ワイ等の手柄が無くなったやないか!』
『・・・・・・・・・・・・・』
『なんか言ったら、どうなんや!?』
『・・・・・・・・・くだらん』
『この………(ベーター)がぁっ!』


キバオウはガロンに向かって刃を振り上げる。
私達は、駆けつけようとするがガロンは槍を宙に飛ばして、キバオウの気が逸れた瞬間、顔面にガロンの拳がめり込んでいった。
めり込んだ拳をそのまま振り抜き、再び壁に叩きつけられたキバオウ。
その時だった、キバオウのHPゲージが減ったのである。
少ししかないHPがさらに減り、ほんの僅かしかHPしかなくなったのである。
そして、宙に飛ばした槍を再度掴み、壁に叩き付けたキバオウに切っ先を向ける。


「悪かった。ワイが悪かったから………勘弁してくれぇ!」
「やめなさい、ガロン!!」
「……アスナか」
「ボス攻略が出来た時なのに、何をしてるのよ!?」
「自殺願望者が居たもんだから、殺してやろうかと………」


ガロンは、冷徹な目でキバオウを見る。
その視線に、キバオウは「ひぃ!」と小さな悲鳴を上げて、仲間の影に隠れた。


「やめなさいって、言ってるでしょう!」
「………わかったよ」
「それにしても、さっきガロンの打撃がキバオウのHPゲージを減らしたけど、どういうことなの? それに先程の槍の動きは何?」
「ここに来る前に新しく“スキル”が発現してな。今使うのが初めてだ」
「格闘スキルってこと?」
「そうだな。次にこの槍についてはあまり大人数が居る場所では明かしたくないな。数人程度にしか教えられねぇ。………知りたいなら、後ほどメッセージを送れ。あと、攻略ボーナスはいらねぇからアスナ達で話し合って分けろ。じゃあな」


ガロンは、そう言って一足早くボス部屋を出ていき、転移結晶でホームに帰っていった。
〜アスナside out〜


あの槍が気になるわ。



―――あとがき―――
すみません、十階層の名前はモン○ンの街の名前で、十四階層の名前は許してください。
思いつかなかった。
というよりも、十四階層の街の名は、生きている内に行ってみたいですね。
もちろん、ゴンドラを乗りに。


作中で真紅狼が装備している防具の詳細を書いておきます。


防具の種類:コート


防具の名前:【黒獄・纏】 こくごく・まとい


能力:異常状態完全無効化と被ダメージを30%軽減させます。


色:黒と暗い紅




防具の種類:ズボン


防具の名前:【常闇】  とこやみ


能力:常に気配遮断のスキルが有効になり、人、モンスター問わず、先制攻撃が可能


色:漆黒



こんな感じです。
また今度、新しい装備が出てきたら、あとがきにて記入しますので。

-5-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ラジオCD ソードアート・オンエアー Vol.2
新品 \2930
中古 \1880
(参考価格:\3150)