小説『我が家のエクスカリバー』
作者:オデキ()

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第三話 『レッツパーリィ』


「はぁ……」
「どうしたんだ。ため息なんかついて」
 とってもアンニュイな俺に話しかけてきたのは枯木桐一郎(かれきとういちろう)である。
「……何でもねぇよ」
「ふむ、そうか」
 と、それっきり話しかけてこない。言いたくないことだと察してくれたらしい。
 なんというか枯木は、妙に老成している部分がある。俺に相談したい悩みがあればすぐに相談に乗ってくれるし、逆に聞かれたくないことは全く聞いてこない。常に落ち着きがあり、とにかく頼りがいがある男なのだ。女にもモテるらしい。正直何故俺なんかとつるんでいるのか分からない。
 と、まぁ。友人自慢はこのくらいにして。そんな出来た友人にも相談出来ない悩みが、今の俺にはあるのである。


―――――


 ガチャリ、と鍵を開けて我が家の扉を開く。
「ただいま」
 返事は帰ってこない。
 玄関で靴を脱ぎ、リビングへ向かう。
 リビングに入った俺を出迎えたのは、一本の剣。この剣こそ、伝説の聖剣、エクスカリバーである。すごいぞーかっこいいぞー。
「そしてお前は何をやっている」
 友人にも話せない悩みの種、目の前で今まさに我が家のタンスを漁っているアホ勇者に話しかけてみる。
「む……帰ってきたのですか」
「なんで不満げなんだよ」
「いえいえ、そんなことはありませんよ」
 すごく白々しいです。
「なあ、マリノ」
「私の名前はマリノルア?ヴィ?ローファニア?ユーフィガルドですよ、篠村さん」
「俺の名前は篠崎だ」
 というかね。どうでも良いんだよそんなことは。
「タンスは漁るなって何度言ったら分かるんだよテメェこの野郎ぶっ殺すぞ畜生!ぶっ殺す!」
 いかん。喋っているうちに怒りが溢れ出して殺意の波動に目覚めてしまった。
「おーおー怖い怖い。野蛮ですねぇ」
「コーホー」
 いかん。怒りに囚われてダークサイドに墜ちてしまった。
「あのねぇ、勇者様。君は居候の身なんだよ。そこの所分かってる?」
「分かっていますよ。さっきのはほんの出来心です。ふふふふふ」
 なんだこいつ。いつにも増してウザったいぞ。
「なんだよお前。何か良いことでもあったか」
「よくぞ聞いてくれました!」
「うおっ」
 びっくりした。急に大声だすなって。
「ふふふふふ。先程連絡が入りましてね。私のパーティーのメンバーがもうすぐこちらへやって来るそうです」
「パーティー?」
「勇者はパーティーを組むものなのです。そんなことも知らないんですか?篠崎さんは馬鹿ですねぇ」
 なんだこいつ腹立つ。
「ていうか連絡とかとれるのかよ。あと向こうからこっちに来れるってことはこっちから向こうにも行けるんじゃないのか」
「私たちの世界の電話はこの世界のものよりずっと優れているのです。異世界間通話など訳ないのですよ」
 お前の世界の世界観がよく分からねぇよ。
「そして世界の行き来についてですが、前にも言った通り世界から世界に移動するには一部例外を除いて莫大な魔力を必要とします」
 例外ってのはそこに刺さってるエクスカリバーのことだったか。
「流石の私にもそれほどの魔力はありませんし、世界間の移動が出来る魔術師などごく一部なのです」
「だったらそのごく一部に来てもらえば良いんじゃないのか」
「それがそうも行きません。魔術師は、何も自分の体内の魔力だけを使ってるわけではないのです」
 さっぱり分からん。ていうか魔力ってのがどんなものかすら俺は知らないわけだからな。
「一流の魔術師には、体内の魔力量に加えて、空気中のマナを魔力に変換する力も要求されるのです。そしてこの世界は、マナの量が圧倒的に少ない。それがこちらから向こうにいけない理由です」
「マナだ魔力だってよく分からんけど……まあなんとなく分かったよ」
「篠崎さんにはそのくらいが限界でしょうね」
 なんでいちいち人を小馬鹿にするかねこいつは。
「でも、だとしたらお前のパーティーのメンバーとやらはは自分の世界に帰るあてもないのにこっちに来るのか。意外に人望あるんだなお前」
「ふふん。彼らは私を信頼し尊敬していますからね」
 薄い胸を張るマリノ。本当に嬉しそうだな。
「ぬわああああああ!!」
 突然、誰かが叫ぶ声が聞こえた。女の声だ。
「な、なんだ今の声……?」
「この声は……」
 マリノが駆け出す。声が聞こえた方向、我が家の二階へと。
「お、おい待てって!」
 後を追って階段を駆け上がる。
 マリノは、俺の部屋の前で立ち止まっていた。
「どうしたんだよ。声が聞こえてきたのはここからか?」
「ええ。恐らくフィルです」
「フィル?もしかしてさっき言ってたパーティーのメンバーか?」
「ええ、そうです」
 返事をして、扉を開ける。
 少女はそこにいた。
 赤い髪。赤い目。赤い服に身を包み、腰には細い剣を差している。
 少女、フィルは「いたた……」とか言って頭を押さえている。
 しかし、そんなことはどうでもいい。
「俺の部屋が……」
 フィルが出現した俺の部屋は、むちゃくちゃな惨状だった。家具や机、ベッドが全て粉々になっている。
「くっ……転移に少し失敗したか」
 とか呟くフィル。少し失敗したってレベルじゃねえぞ。
「フィル!お久しぶりです!」
「勇者様!よくぞご無事で!」
 感動の再開とかやってる場合じゃないんだよ。
 どうすんの。俺の部屋どうすんの。声も出ないよ。どうすんの。
「ところでフィル。他のメンバーはどうしたんですか?」
「あ……あのですね……他の皆は、用事があるとかで……」
 人望ないね、勇者様。

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