小説『【ボカロ小説化第三弾】からくり卍ばーすと【改稿版更新中】』
作者:迷音ユウ(華雪‡マナのつぶやきごと)

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 次の日レンは朝一番で『SR』に出勤した。今回の事件は特別捜査扱い。特別操作中は出勤しなくてもいいことにはなっているが今回はそうもいかない。メグの部屋から出る時、メグも連れて行こうと思ったが彼女が気持ちよさそうに寝ていたのでレンは置いてくることにした。
 しかし来てみたもののどうやらカイトはまだ出勤してきていないようだった。レンは今日が日曜日だということを思い出した。日曜日のカイトの出勤時間は数時間後だ。
 仕方がないのでレンはまず資料庫を訪れることにした。
 資料庫には『SR』新設当時からいままでの事件関連資料や地域の資料など数多くの資料がマイクロフィルムやCD−ROMに記録され保存されている。資料庫には数台のパソコンが配置されておりその場で資料を閲覧することができる。
 レンは資料庫に入るとまずある記録を探した。それは十年前の『例の事件』の記録。数えきれないほどの死者を出した地獄のような惨劇。
 資料はすぐに見つかった。マイクロフィルムが数枚とCD−ROMが二枚。とりあえずレンは被害者のリストの入ったCD−ROMをパソコンに読み込ませる。
 ずらりと並ぶ被害者の名前。失われた命の量。
 相当量あるので時間がかかると思っていたレンであったが、新設なことにそのリストが細かく地域別で分けられていることに気づき作業ははかどった。
 探し物はまもなく見つかった。
 『リン』の名前。そのまま横に見ていく。住所、年齢、と続いたあとの項目は『UN-Known(不明)』となっていた。そこは死亡確認の欄。
 レンは小さく息を吐いた。
 やはりリンの死亡は確認されていなかった。ようするに行方不明者である。もちろん事件では死亡者も多かったが行方不明者も多かった。身元不明の死体もたくさんあったし、第一死体が残っていないものも少なくはなかったらしい。
 そして万一生還している可能性もある。
 もし何らかの偶然が重なって”あの状況”から彼女が生還していたとしたら……、やはり昨日見た少女はリンだったのだろうか。
「なんなんだよまったく。何がどうなってるっていうんだ」
 呟いたところで意味はなかった。
 考えたところで意味はなかった。
 あの少女がリンなのだとしたら彼女はなぜ殺人を続けている? そんな思考を何度も何度も繰り返す。同じ考えだけがぐるぐる頭の中を廻りなんの解決にも繋がらなかった。
 ふいに資料室のドアが開く音がした。
 レンはゆっくりと振り向く。
「おうNo.2nd。今日は日曜だがなにか探しものか?」
 入ってきたのはカイトだった。カイトはレンに方へと歩み寄るとパソコンの画面を覗きこんだ。
「ほうあの事件か。お前がこの事件のことを調べるなんてな……。何か今回の事件と関連があるのか?」
「いえ…………ちょっと気になることがありまして」
 レンはそう口ごもる。
「気になること?」
 レンはしばしリンのことを言おうかどうか迷った。だがあの少女が誰であれ犯している罪には変わりはない、そう自分に言い聞かせレンは口を開いた。
「リンって覚えてますか。前話したことがあると思うんですが、俺の双子の姉です」
 カイトはうむと頷く。
「もちろん覚えているぞ。彼女がどうかしたのか?」
「昨日、今回の事件の犯人の顔を見ました」
「――――!」
 カイトはその一言だけでレンの言わんとせんことを全て把握した。
「カイトさん。死人は生き返りませんよね」
 自然とレンはそのようなことを聞いていた。認めたくはないがリンには死んでいて欲しかった。殺人を犯し続けるくらいなら……死んでいて欲しかった。それで自分の中の彼女の記憶は保たれるのだから。
「もちろんだ……と言いたいところだが実はそうでもないんだ……」
 現実とはいつでも悲惨なものである。
 時に当たり前の――常識さえも打ち壊す。
「……『からくり』って知ってるか?」
 ――『からくり』。それは人間を模して造られた人形の総称である。
「実は十年前……あの事件の前に『からくり』に関するある重大な研究結果が発表された」
 それはレンも知らないことであった。十年前……まだレンは幼かった。知らないことなど無数にある。
「その研究とは人体をベースにした限りなく人間に近い『からくり』を作るというもの。現代の錬金生物(ホムンクルス)と呼ぶものもいた。まぁこれは違うがな。しかし世間はこれに強く反発した。機械(からくり)といえども人間と見分けがつかなくなるようなモノは受け入れがたかったんだろう。政府からの圧力もあってその実験は凍結された。だがなそれからまもなくその研究にあたっていた第一人者が行方不明になったんだ。そんな時だったんだあの事件が起きたのは」
 当時その限りなく人間に近いからくりに関しては様々な意見が飛び交った。だがその大半は否定的なものであった。おおよそ悪用を恐れてのものだった。
「それでな、これは機密事項だがある一つの説が囁かれているんだ。この際だからお前に言う。絶対に漏らすなよ」
 レンはゆっくりと頷く。
「あの事件は『からくり』の実験台(モルモット)を手に入れるためにその研究者を含むなにか大きな組織が起こしたものだという説だ」


 現実とは聞きたくなくても、知りたくなくてもいずれ知ってしまう。
 カイトはそれからもいろいろと話してくれていたが、レンは最後の方はあまり覚えていなかった。ただ頭の中で次第につながりゆくパーツを止めることもできずぼうっと立ち尽くしていた。

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