小説『国境の橋 』
作者:ドリーム(ドリーム王国)

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 彼等との仕事に対する相違から工事予定は当然のよう大幅に遅れた。
 監督は状況を日本の本社に説明するが、本社では依頼された政府には小言を言えない。
 だからその辺は臨機応変に対応し親善が最優先だと、現場任せの答えが返ってきた。
 これは慈善事業なのだ。現地の人間はその辺を理解しようとしない。己の損得だけで生きている。
 この橋造りは日本国の援助で行なっているのに俺達は何しに来たのだと、すっかり意欲を無くした。
 あの若い責任者に言っても返って来る返事は、それが習慣だからと開き直る。
 監督は言った。仕方がない郷には入れば郷に従えだ。我慢しろと言われた。
 親善が第一と耳にタコが出来るほど聞かさせてはいるが……
 ベトナム人とラオス人の仕事ぶりにはイライラが募るが、監督の云うとおり怒っても仕方がない。

 監督以下スタッフ六人は現地のレベルに合わせるしかなかった。
 十二月も終わりに入り日本では正月になる為、日本人スタッフを含め全員が三日間の休日となった。
 勿論ラオスも一月一日は祭日として休日となるが、ラオスでは単なる祝日に過ぎない。
 このラオスの正月は四月十三日?十五日でビーマイ・ラーオはラオスの新年(水掛祭り)と呼ばれて、お互いに水を掛け合って無病息災祈念する行事があるそうだ。

 あれからビオランとは取れる休日の半分いつも一緒だった。
 今では日本人スタッフを問わずラオス人、ベトナム人の現場仲間では公認の仲となった。
 今日は元旦とあって祐輔は初めてビオランのアパートに招待された。   
 ラオスの主食であるカオニャオ、餅米を蒸して籠に入れたものを手にとって千切って食べるらしい。
 それに野菜、魚、肉などの料理を出してくれた。

 二人は食事を終えたあと、ビオランは祐輔が好きな珈琲を出してくれた。
 祐輔の好みを知っているのか町で飲む珈琲より美味かった。そんなビオランが祐輔をしみじみと見つめている。
 その魅力的な眼で見つめられ裕輔はドキッとする。
 祐輔は生まれて初めて恋をした。ただビオランには過去に恋の経験があるかは知らないが過去は過去だ。
 ビアランは大きな眼に黒い髪を掻きあげてから真面目な顔をして言った。
「私……ユウスケが好きよ」

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