小説『俺の幼馴染は極度のツンデレ女』
作者:散々桜()

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女に免疫があるかorないか、と聞かれると、女性陣はなくとも、男性になると答えが三つに分かれるだろう。
一つは、免疫がある奴。
二つは、免疫が無い奴。
そして三つ目が、わからない、と応える奴。
一つ目の答えを言う奴は純粋な心の持ち主と言えよう。必ず、男性は女性に免疫を持ってしまう。嫌とか、生理的とかそうゆうのではなく、単に「抵抗」がある、という意味だ。
二つ目は、見栄を張っている奴だ。免疫が無い? 馬鹿にするな。例えの話だが、急に目の前にいた女子が服を脱ぎ始めたら「抵抗」してしまうだろう。
そして三つ目、三つ目は……答える価値が無い。単に馬鹿なのだ。
まぁ、今の説明からすると、要は「慣れているか」それとも「慣れていないか」ということであろう。
さて、どうでもいい説明はもういいだろう。
今現在、俺こと「秋島 氷河(あきしま ひょうが)」は、ある女に目をつけられていた。
ある女と言っても想像がつかない。それはそうであろう。だが、言っておこう。
「想像がつきにくい」
そう。無理だ。俺の口からでは到底無理だ。
一言で言ってしまえば、「ツンデレ」という物になるのであろうが、奴は趣味が多すぎる。
その趣味が、全く持って想像つかないのだ。
と、もうすぐでSHRが始まる。これは、又後ほど。



♯1.夕空×カラス



ここは、私立聖楼学園。
そこに通う俺「秋島 氷河」は、ここの2年だ。
全校生徒200人の普通高。それぞれ5クラス分ある。ちなみに俺は2−4だ。
部活の種類も豊富で、学校行事や学校の環境などなど、ほとんどがピカイチと言っていいほど、素晴らしい私立学園だ。だがまぁ、その分金はかかっている。
今は夏真っ最中の7月10日。もうすぐで夏休みに入るわけだが、そんなことはどうでもいい。今日もまた、奴が来てしまったのだから……。

「何やってんのよ、氷河。顔が死んでるわよ」

そうだよ。今来たこの子さ。
2−4の女子。名を「未来 恋歌(みらい れんか)」と言う。つーか、「未来」って苗字すごいよな。まぁ、別にいいけど。
こいつは、容姿端麗、頭脳明晰、スリーサイズもバッチリ(らしい)、髪は茶髪のショートヘアだ。
いわゆる『マンガのヒロインのような女子』ということ。まぁ、確かに考えてみても、容姿端麗の上に頭脳明晰とくれば、どんな奴でも漫画のような人間になってしまうだろう。
コイツはスリーサイズもいいらしいから、『ヒロイン』までつけられるほどだ。
ちなみに、なんでスリーサイズがいいかって言うと、他の男子軍がアイツの事で大盛り上がりしている時に、“たまたま”俺の耳に聞こえてきたからだ。“たまたま”だからな。

「ホラ、行くわよ。全く、私の声が聞こえてないって言うの?」
「へいへい」

言われなくても聞こえていますよ、恋歌さん。
ただ、自然と無視したいだけだ。――と、こんなこと言うと絶対に腹一発喰らうからな。うん、やめておこう。
ちなみに、どうして目をつけられているかと言うと、これは単に俺たちが幼馴染というだけだ。さっき、俺が言いすぎただけかもな。まぁ、でも、いつも一緒に居るようなもんだから、他の奴らからは「付き合っている」などという者もいるが、誰がこんな奴と。正直NOだ。

「氷河! 足が遅いわよ! 離れてるじゃない!」
「あーわかった、わかった。すぐ行くから待ってろ」

歩く速度が落ちていたか。だが、俺は離れていてほしいんだがな。
あ、そうだ。名前で呼び合っているのも幼馴染だからだ。それ以外には理由が無い。

「あ、また秋島君と一緒に居るんだね、恋歌ちゃん。いいな〜、私も男が欲しいよ」
「何言ってるのよ。コイツはそんなんじゃないわ。私だってもっといい奴がイイの」

おーい、聞こえていますよ。何気にグサッ、と来るんだが。
つか、別の男がいいんならそれでいいだろ。なんでいつも俺なんだ? 分からん。
俺だってなぁ、高校生活はそりゃあもう楽しめると思ったよ。だがしかし、誰かさんのせいで、女子は一人も近づくことなく、話すことくらいしかできんのだぞ。何してくれるんだ。この魔女が。
そうこうしている内に昇降口に着いた。これから下校だ。やっと家に帰れるのか、やれやれだ。ちなみにさっきのは夕方のSHRだったんだよ、そこのキミ。

「――?」
「あ、いやいや。別になんでもないよ。悪いね」

まさか目が合うとは。思いもしなかったな。
俺たち二人はお互いの靴を取り、上履きと履き替え、昇降口を出た。
さて、これからは完全に一人の状態だ。うるさい女は消えてくれる。やったね、ハッピー。

「じゃあな、また明日。怪我すんなよ」

よし。これで充分だろう。あとは、静かに下校するだけ。
たまには、鳴くカエルの声でも聞きながら帰るのもいいだろう。
それじゃ! 俺は帰らせてもらいます。

――ガシッ

何かが俺の制服の裾を掴んだ気がするが、きっと気のせいだ。
うん、そうだ。だって恋歌が俺を止めるわけもないし、止める必要もないからな。
よし。では、また歩き始めるとしますか。

――ガシッ

まただ。また何者かによって歩くのを食い止められる。
しかも今のは妙にさっきより力が強い。頼む。お願いだから帰らせて。
よし。ではもう一度。

――ガツッ

ねえ、待って。今「ガツッ」って聞こえたんだけど。どれだけ力入れてるの、怖いよ。
はぁ、一応後ろを振り返るか。
そう思い、俺はゆっくりと後ろに顔をやる。そこには、茶髪のショートヘアで容姿端麗な恋歌がいた。
顔を俯かせて、黙ったまま俺の制服の裾を掴んでいる。身長も俺の方が高いため、妙に年下の子供のようにも見える。だが、来ている制服や膨らみのある胸などの点から、高校生というのがしっかりと認識できた。
何故、恋歌は俺を止めるんだ……?

「おい、離せよ。俺が帰れないではないか」
「し、知らないわよ。そんなの」

うわー、聞きました? 人が帰りたいと言っているのに帰らせくれないなんて。なんてひどいんだ。

「俺に何か用あるのか?」
「そ、それは、その。………も、もちろんあるわよ。だから止めてるんじゃない」
「はぁ〜。じゃあその要件を言ってくれ。それやったら帰っていいんだろうしな」
「な、何で言わなきゃいけないのよ! 馬鹿じゃないの!」

カチン。うん、来たよ。ちょっとイラついてきたよ。
俺も日本の男。黙って聞いていられるわけが無い。ここはひとつ言ってやろう。

「要件も言えないのに止めるなよ! 言わないんだったら帰る!」
「な、何よ。ふ……フン! あーいいわよ。どうぞ帰ればいいんだわ! べ、別にアンタじゃなくても大丈夫だし!」

じゃあ、なんでまた止めるんだよ。突っ込みどころ満載だな。

「そうかい、そうかい。じゃ、他をあたるんだな。俺は帰らせてもらうぜ。じゃあな、恋歌」
「ええ、事故って死んでね。さようなら!」

何だと言うんだ。全く。
これだから女子と言う物は分からん。まぁ、いい。これで俺はようやく帰れるのだから。
俺は赤く染まった夕空と、凛々しく輝く赤い太陽を背に、通学路を通り、帰宅して行った。
ちなみに、恋歌はと言うと。本当に知らん。あの後どうしていたかもな。
はぁ〜。また明日恋歌に会うとなると、なんか、無性に抵抗があるな。

「おとなしくしとけば可愛いのによ、恋歌」

独り言をつぶやく。誰もいない道だったため、小さい声でつぶやいたつもりでも、大きく聞こえた。歩くことを止め、少し、その場で立ち止まる。
俺の背に温かみを放つ太陽。それを、真正面に向ける。偉大さと、自分のちっぽけさを感じる。
何でもない行動が、なぜか自然と起こる。俺は再び、太陽を背に歩き出す。
そして、顔を少し上げて、また一言呟いた。

「幼馴染……か」

――カア、カア――

おっと。誰もいないと思ったら、カラスがいたか。
空を見上げ、鳴いたカラスに目をやる。2羽のカラスが、木の上で仲良く寄り添っている。
まるで、その光景は、

「まるで、恋人同士だな。アイツら」

俺の放った声は、どこか、羨ましそうだった。

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