小説『俺の幼馴染は極度のツンデレ女』
作者:散々桜()

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「ダイエット」
それは、多くの女性(+男性)が気にしているであろう、肥満、つまりは体重を減らす行為のこと。
このダイエットには様々な種類がある。
バナナダイエット、トマトジュースダイエット、朝ダイエット、食料減量ダイエット……などなど。
だが言っておこう。結局はカロリーを多く取らないこと。そして、運動して体重を減らすのが一番なのだ。
バナナダイエットは効果があまりない。それに感じられないのだ。朝ダイエットや、食料減量ダイエットも、結局中身がカロリーの多い物であればそれほど大差もない。トマトジュースダイエットに至っては論外だ。
あれはな、痩せることは確かにある。というか痩せる。だが、塩分の取りすぎて死んでしまうのだ。死んだら意味が無い。つーか、塩分の取り過ぎで死ぬなんて馬鹿げてるし嫌だろう?
ちなみに言っておくが、恋歌はもちろんダイエットなど不必要だ。
言っただろ? スリーサイズ完璧だって。
女性(男性)たちは、こうやってダイエットに励み、苦労している人もいるというのに、アイツはガツガツ食っているからなぁ。
ああ、俺は……ナイショさ。



♯2.屋上×財布



7月11日。今は昼休みの時間だ。
朝のHRを終え、4時間みっちり学業に励み、腹が減った今、食にありついている。
俺が食べているのは売店で買ったパンと牛乳、それにおむすび。なんて普通のお昼ご飯であろうか。周りの奴らでは、弁当や俺と同じように売店で買ったパンを食べている奴等。ちなみにこの学校には食堂が無い。おかしいだろ、普通あるって。
何でか、って言うと、他の事に金を費やしているとかどうとかこうとからしい。
まぁ、今更食堂もいらないが……。
俺は静かに食事をしていた。別に一人で食べていると言うわけではない。
今周りにはちゃんとした――いや、していないな。馬鹿ばかりの集まりだ。そいつらと食事をしている。ただまぁ、聞いててもさっぱりなんだよなぁ、こいつらの話。

「なぁなぁ、あの雑誌見たかよ! 「週刊バイブル」!」

今熱心に雑誌のことを話している鷹野健也(たかの けんや)。
同じ2−4で、成績は中の下。まぁ、普通と言えば普通のランクだ。
健也は野球が大好きだ、とか言うくせに、今まで野球の話をしたのはほんの数回。おい、本当に好きなのか? 野球。

「ああ、見たさ。巻頭のあの子、俺ドストライクだったなぁ! 引き締まった胸、それをわざと強調するかのように押し上げる2本の腕! 髪もセミロングと、まさに俺の好みが凝縮されていた!」

ただの変態馬鹿の日高考(ひだか こう)。
台詞通り、胸が大好き(巨乳限定)、グラビアアイドルには目が無いと言う奴だ。
はぁ、俺はつくづく呆れている。まぁ、言わないでおこう。こいつは精神弱いからな。

「アホ共が。そんな話をしてどうする! グラビアアイドルなど、ただのHな奴らの集まりではないか! そんなものを見るよりかは、もっと学業に励んだらどうだね、健也、考」

ものすごーく真面目な話をする佐田雄志(さだ まさし)。
本当に真面目な奴だ。学業では毎回学年ランクトップ10には必ず入っていると言うほどの頭の良さ。俺は雄志の頭脳が欲しくてたまらない。決して馬鹿ではないが、あったほうが色々得するからな。
唯一こいつとは話がかみ合うと思ったりもした。だが、欠点が雄志にもあるんだよなぁ。

「いいか諸君! 宇宙は広い。洗礼で、礼節で、ダイナミックで、そして、未知なる世界!
そう、未知なる世界と言えばなんだ? 決まっている。未確認飛行物体&未確認生物(UMA)のこと!! なぜUFOは地球まで来れるのか? どうして宇宙人は我々を敵対視しているのか!? 相互理解する必要が――っ、んー! んーっ!」

雄志が熱く激しく語り始めたのがうんざりしたのか、健也が口を手で抑え、腕を考が抑えている。うん。今のはナイスだ。
そう、雄志は極度のオカルト好きなんだ。UFOだの、UMAだの話し始めたらきりがない。いつもいつも、何か一言喋ったら語り始めるんだよな〜、コイツは。
というわけで、ろくな奴がいないと言えばいないのだ。
じゃあ、なんでこいつらと関わってるかと言うと、俺が入学した当時から、クラスも別れることなくずっと一緒だからだ。そういう意味では、本当に仲がいいメンバーだ。

「ふー、ごちそう様」
「なんだ、氷河。もう食い終わったのか? はえーな」

まぁ、お前等みたいに俺は騒いでないからな。

「じゃ、俺はちょっと用事があるから。じゃあな」

パンや牛乳のごみを袋に入れ、ごみ箱に捨てる。
3人に別れを告げ、一刻もこの場を立ち去ろうとした俺だが、そうはいかなかった。
何者かの手が、俺を足止めする。

「フフン。行かせないぜ氷河。お前が行く所、用事、それは全てお見通しだぁ!」

考だった。考の手が、俺の腕をがっしりと掴んでいる。
何だと言うのだ、全く。

「何だよ。お見通しは結構。いいから行かせろ」
「いーや! それが行かせるわけにはいかんのだよ。わかってるんだぜ? お前また恋歌ちゃんのところに行くんだろ?」

…………。
見抜かれるとすごくムカつくような……。

「どうした? 黙り込んだってことは図星だな。氷河も隅に置けないな〜」

いや、まぁ、そうなんだが。そうなんだが、だが!
何故か、イラつく。これが、特定の人に対する気持ち?
だとしたら間違ってはいない。俺は今、特定の人に対する『気持ち』が十分にあるからなぁ……。

「……つに……。別に……」
「ん?」

考がきょとんとしている。
強く握りしめていた手を、若干弱め、俺をまじまじと見つめる。
哀れ考。もう、謝っても遅いからな。

「別にいいだろうがあああああああ!!!!!!」
「のわぁ!?」

雄たけびを上げた瞬間、俺は考の手首を持ち思いっきり捻る。
これが柔道で鍛えた力だ、考。――いや、鍛えてないけど。別に。
考はそのまま床に落下――戦闘不能――そして体は動かなくなった。

「じゃあな」

かっこよく決まったな。俺よ。
考をすぐさま保健室へと運ぶ健也と雄志。考は完全に気絶していた。
何故俺がこうまでして恋歌のところに行くのかと言うと、それには理由があった。

「行かないとなぁ……アイツは人の金を使いやがる」

そう。人の財布から金を取り出し、それを使うのだ!
何と言う行為。もはや犯罪だ。本人曰く『奢りよ! 奢り!』らしい。
というわけで、俺は金を無駄に使い果たしたくないがために行くのだ。アイツを待たせるとしまいだからな。
確か今は屋上に居るって言ってたな。昼休みになると、必ずと言ってもいい程、恋歌は必ず屋上にいくみたいだ。何がいいかは知らんが。
と、ふと廊下にあった時計に目をやる。時刻は1時45分だった。
昼休みは、1時〜2時の1時間。ということは残り15分。
え……後15分?

「って! ヤバい、全く時間が無いぞ!!」

ヤバい。大変だ。一大事だ。
そう。俺の財布が一大事だ!!
俺は急いで廊下を駆け巡る。日ごろからいつも屋上には行っているんだ。道は迷うことが無い。ただ、どれだけ速く行けるか、だ!
途中、ぶつかりそうな人たちに「ごめん!」と謝りながら先を急ぐ。廊下を駆けていく。その風が、より一層急げと言っているようにも感じた。何度も角を曲がったりして、俺はようやく屋上へとつながる階段に辿り着く。
その階段を一気に駆け上がり、屋上のドアを開けた。
そこには――

「あれ? 恋歌?」

恋歌の姿が、どこにもなかった。
いつもある姿はどこへ? 必ず、俺を見つけた途端『遅いわよ!』と言ってくる、あの姿はどこに?

「遅いわよ! あと10分よ!? 何してるの氷河! 一人でどれだけ待ったことか!!」

な〜んてな。居るよ、屋上の端っこに。
ただ、ドアを開けた瞬間、日光の日差しが眩しくて見えなかっただけだ。
いや、正直に言うと、居なかったことを願った。だって財布が守れるんだもん。

「全く! よくこうまで私を待たせられるわね! 出しなさい、財布!!」

スタスタと、腕を組みながらこちらに歩いてくる。
キリッ、とした眉が、完全に『怒り』を現していた。怖いな、この人。
俺はいやいやながら制服ズボンのポケットから財布を取り出す。つーか、何でホント金取るんだよ。悪党だ、悪党。

「はぁー……。また、亡くなって行く」
「い、嫌なら、もういいわよ………」

ん? 今、なんか声が聞こえたぞ?
まさか恋歌か? いや、だまされるな。コイツがこんなこと言うはずがない。
確認のため、俺は一度聞き返した。

「? 今、何て言ったんだ?」
「だ、だから! 嫌だったらもういい、って言ってるでしょ! 聞こえないの? この馬鹿!」

おお!! 本当か? 本当か恋歌!
神が与えた心なのか、それとも、天使が悪魔を倒したのか……。
そんなことはどうでもいい! 嬉しい。こんなに嬉しいことはない。
と、俺が心の中で喜びに浸っている中、恋歌が口を開いた。
小さく、まるでリスのように。

「そ、その代わりに……わ、私の……ばに、いなさいよ、ね」
「ん?」

小さすぎるだろ、声。
あまりにも小さかった。予想の範囲をはるかに超えていた。
何を言ったのかはわからなかった。仕方がない。もう一度聞き返そう。

「わりぃ、恋歌。今、聞こえなかった。もう一回言ってくれるか?」

すると、恋歌の表情が一瞬にして変わった。
さっきまでは、少し落ち着きを取り戻したのか、怒っていない、逆に誤りの表情を浮かべていた。はずなのに……。今、このたったコンマ0.5秒で、

「うるさいわね! ちゃんと聞いてなさいよ! もう知らない。バイバイ!」

―――!
な、なんて野郎だ……。
恋歌はそういうと、屋上をさっさと立ち去って行った。
一人ぽつん、と立つ。なんて孤独感を感じるんだ。
しかし、本当にさっきは何て言っていたんだ?

「でもなんか、少し頬が赤かったな。あの時」

今でもずっと、日差しは屋上を照らしていた。

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