小説『俺の幼馴染は極度のツンデレ女』
作者:散々桜()

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「…………」
(すー……すー……)
「…………」

「黙ってりゃ可愛いのにな〜」



♯26.握った手×幼馴染?



――トントン
無音で静かな場所に、一瞬音が入り込む。
音は、儚く消えていく。

「入るぞ?」

一声かけるが、返ってこないだろうと思う。
健也から聞いた事。俺は、学校にいる中忘れていたが、下校中ふと思い出し、今こうして来たのだ。
家の鍵は開いており、無防備な状態だった。
家には誰もおらず、台所には「温めて食べてね」とだけ書かれたメモ帳と、そばにはご飯と少量のおかずがお皿に盛り付けられ、置かれていた。

(鍵かけてないなんて、防犯にどれだけ自信があるんだ……)

家に入って部屋の前までこうして来たのだ。今更引き返すことなども到底できないであろう。
そんなことを考えながら、約数分後。返答はやはりなかった。
予想していたことなので驚きはしない。むしろ返ってきたほうが驚いただろう。
俺はドアノブに手をかけ、右方向に回す。
――ガチャ
再び静かな空間に音が入り、そして儚く消えていく。
それが、何故か気にもかかる。
部屋に入ると、ベッドの上でひとりの少女が横になって寝ていた。
おでこには冷却シートが貼ってあり、今は苦しい顔もせずすやすやと寝息をたてて心地よさそうに寝ている。
どうやら、見たところ安静なようで、体も治ってきているのであろう。
俺はカバンを下ろし、床に膝をつき少女の頭を撫でる。
こんな元気いっぱいの子でも、風は引くのだと改めて思う。

「……そうか、俺たちは幼馴染なのか……」

当たり前なことを小声でつぶやいた。
今まで、振り返ってきて幼馴染なんて感じるシーン、一つもなかったような気もする。
一人の女の子として接してきた。そんな風に、ふと思ってしまった。
――今でも。
こんな風に、部屋に入って、横たわる幼馴染をただ見つめ、頭を撫でて。
実感なんて一つも沸かなかった。いや、相手と自分の感じ方は違うが。

――こいつも、俺を一人の男として見ているのか?――

いや、んなわけないか。
少々考えすぎたようだな。疲れてきた。
俺は、目を閉じ、頭をベッドに預けた。
しばらくの間、俺は完全にこの少女を――恋歌を、一人の女性として捉えてみよう。
俺は、恋歌の手を握ったまま、深い眠りについていった。
窓から射す夕焼けの日差しは、二人っきりの空間を、さらに深めていった。







(…………)

(……!?)

目が覚めて、目にした光景を私は一瞬否定した。

(どうして氷河がここで寝てるのよ!?)

いつもいつもガミガミ言っているコイツがどうしてここで寝ているのか、状況が全くつかめなかった。
今は、すやすやと寝息を立てている。見ただけでわかる、熟睡中だ。
いや、問題はそれだけではなかった。
手が、握られている……。

(〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!)

声にならない声とはこのことなのだろうと思った。
私の顔がどんどん熱くなっていくのがわかる。
ほ、火照ってる。

………………。

でも、今くらいは甘えてもいいかな。
べ、別にコイツが手とか握ってるのがいけないんだから!!

「アンタがいけないんだからね……起きたとき勘違いしないでよ……」

私は、両手で氷河の手を、しっかりと握った。
暖かく大きな手は、ぬくもりが感じられた。


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