小説『愛と幸せ、それから死と』
作者:ララ()

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  籠の外へ出ようと、必死にもがいて苦しんで

  それであたしは何を得るの?

  この病気に縛られるあたしは、籠の中で歌うカナリヤと同じ

  主からのご飯だけを受け取って

  後は気ままに歌だけ歌い、徐々に加速する死だけを待っているの

  一人ぼっちは嫌だと、涙を流すのはもう止めた

  人は一人っきりで生まれて一人っきりで死んでゆくのだから

  孤独を恐れてなんて、生きていけないわ

  あたしの中の病魔は、いずれあたしを食い尽くす

  すぐに全てを飲み込んで、そのままあたしを支配するのでしょう

  あたしの愛した人も

  あたしの憎んだ人も

  あたしを幸せにしてくれた人も

  あたしを悲しませた人も

  今じゃ、みんなが懐かしい
  
  会いたくて恋しくて、まるでか弱い小鳥のように

  病室という籠の中で泣いた日もある

  病魔が身体の中で踊るたび、あたしは身もだえる様に歯を食いしばった

  一日中目を覚まさない時は、このまま永遠に眠れないのだろうかと

  夢の片隅で考えていた

  あたしがどんなに苦しんだとしても、どんなに泣いたとしても

  この地球は回り続けて

  時が止まりゆくことなんてありえない

  太陽が見えて、沈んで、月が見えて星が見えて、沈んで、また太陽が見える
 
  そんな短調な日々が、籠の外では起こっているのね

  あたしはそれが羨ましかった

  いつしかこの足で大地を蹴って

  透き通るような青空を眺めたかったのに…

  小鳥は空を飛べるから、この籠から逃げることが出来るのでしょう

  でもあたしは違う

  未来へと羽ばたく翼はもう捨てた

  今あるのは、ただこの瞬間を生きるための翼だけ

  逃げられない、飛び立てないあたしは

  今日も一人ぼっちの夜を迎えるの

  夜空の星たちや大きな月は、籠の中で歌うあたしを見て涙を流しているのかしら

  嗚呼、あたしはあたしが憎らしい

  こんな忌々しい身体さえなければ

  こんな病魔さえいなければ

  こんなか弱い気持ちさえなければ

  どこへでも飛んでゆけるのに

  この命が枯れるまで、あたしは後、いくつの幸せに出会えるだろう

  この命が燃え尽きるまで、あたしは後、どれだけの苦しみを乗り越えるのだろう

  愛を忘れたあたしが

  人を幸せにすることなんて出来ないのでしょうけれど

  あたしは最後まで幸せを感じていたいから

  籠の中にいる、たった一匹の孤独な鳥であっても、

  あなたを幸せにしてあげたい

  この命のある限り、人へ幸せを配りたい

  あたしは長く生きなくても構わないから

  それが、たとえ今日一日だけの命だったとしても

  孤独を恐れず生きていたい

  あたしは、病魔という檻の中の、病室という籠の中で今を生きている

  そんなあたしは、まるでカナリヤのよう

  必要な分だけ食し、後は死のみ待つ存在だけど

  この残った命の枯れるまで、あたしは“愛”と戦い続けたい












  愛と幸せ、それから死と。





  始まり始まり。





 

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