小説『愛と幸せ、それから死と』
作者:ララ()

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  あたしは窓の外の、大きなカエデの木を見つめていた

  凍てつくような寒さのなかで、木枯らしに枝を揺さぶられ

  残り少ない葉を一気に地へと散らす

  あたしは、その散ってゆく葉をいとおしそうに眺めた

  この葉たちが全て散ったとき

  それがあたしの最期なんだって、幼いころからずっとそう思い続けていた

  大きな手のひらの様なカエデの葉が

  まるであたしを手招きするかのように、ゆっくりと地へ落ちる

  あたしは窓を開けた

  冷たい風が、あたしの身体を芯まで凍らせた

  けれどあたしは、構わず身を乗り出す

  まって、散らないで、とカエデの木へ向かって大きく手を伸ばした

  カエデの葉は、まるで笑うように

  風に巻かれて消えていく

  だめ、散ってしまわないで

  もう少しだけ生きていたいの

  あなたがあたしの命なのだから

  あたしはふと見つけた

  大きなカエデの枝の間に、小さな子ツバメが息絶えているのを

  その小さな身体は、この寒さで固くなっていることだろう

  親たちと南の方へ旅立てなかった

  その哀れな子ツバメを見て、あたしは心を痛めた

  あたしより、ずっとずっと短い一生だったでしょう

  きっと、もっと空を飛んでいたかったでしょう

  もっと、幸せに生きていたかったのでしょう

  カエデの木はそれを見ていたように

  風に逆らいながら、3枚の葉を落とした

  大きな葉は、まるで子ツバメの布団のように

  小さな身体に覆いかぶさった

  その3枚の手のひらは

  まるで子ツバメの母親のように、冷え切った身体を守ってくれる

  もうこれで、寒くなんかないね

  さびしくなんかないね

  遠いところにいる母親を愛おしく思い出しながら

  やっと幸せに眠れるね
  
  よかった、あなたに幸せがめぐってきたことを

  誰より喜んであげたいな

  幸せはメリーゴーランド

  あなたの幸せはあたしの幸せになる

  あたしの幸せは世界中の幸せになるわ

  
  
  







  死を見て幸せを見た今日は、

  良い日なのか それとも否か








  それでもあたしは、今日を生き抜いた

  これが幸せなのかしら?

  必ず明日も、巡ってくることが。







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