小説『オニが出た日』
作者:夢色真珠()

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 僕はちょっぴり出てしまった涙をこっそり手でこすりとると
ポケットにしまってあったハンカチで唯の涙をそっと拭いてやった。

 「おにいちゃん、このハンカチ、くしゃくしゃよ」

 そう言いつつも唯は嬉しそうだ。

 「『オニ』はもういなくなったのね?
  やったね、おにいちゃん!」

 唯がにっこりと笑った。
その笑顔に応えるように、僕も笑った。
二人で笑ったら、なんだか本当に嬉しくなってきた。


 「おいで、唯。
  一緒に家に入ろう」

 僕が手を差し出すと、唯はちょっと驚いたようだけど
すぐに嬉しそうに手をつないできた。
いつもだと、唯と手をつなくのを嫌がる僕だから。

 「家に戻ったら、何して遊ぼうか?」

 「え?
  でも、おにいちゃん、しゅくだいがあるんでしょ?」

 「そんなの後でいいよ。
  今はお前と遊びたい」

唯の目がみるみる輝いてくる。

 「うん、あそぼう!
  えっとね、お人形さんごっこがしたい!」
 
 「『お人形さんごっこ』かぁ〜。
  いいよ。唯がそうしたいんなら」

今までお人形さんごっこなんて、まともに付きやってやったことがない。

 「でも、『おとうと』や『赤ちゃん』の役は止めてくれよ」

だって、僕は唯の『お兄ちゃん」だからね。

 「じゃあ、おにいちゃんは『おうじさま』ね!」

 「王子様ぁ?」

 ちょっと恥ずかしいけど、兄ちゃんの面目は保てるか。

 「いいよ、唯。
  では、いっしょに行きましょうか?
  唯お姫さま?」

 そう言うと、妹は本当に嬉しそう。

 手を繋いでいる唯の小さな手のぬくもりが心地いいと
心から感じる、秋の夕暮れだった。



   ―  完  ー




 

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