そこに唯は一人で立っていた。
すごい形相で、手には布団たたきを持って。
唯は僕の近くまで走ってくると、布団たたきをすごい勢いで
ぶんぶん振り回し始めた。
「えいっ、えいっ!
オニめ、おにいちゃんをいじめるな!」
ぼろぼろと涙をこぼしながら、がむしゃらに布団たたきを振り回す。
「唯の、だいすきな、おにいちゃんにひどいことしないで!」
あっけにとられて僕は唯を見ていたけれど、やっと状況が少し分かってきた。
どうやら妹は僕を守ろうとしているらしい。
いるはずのない鬼から僕を。
その小さな体で。
僕は唯をからかってやろうと、イジメてやろうと思ったのに。
妹をうっとおしいと思ってる、本当はいなかったらいいと思っている
ヒドイ兄ちゃんなのに。
そんなひどい僕を、唯は必死に守ろうとしている・・・・・・。
唯を見ている僕の視界はだんだんぼやけてきた。
いつの間にか、僕の目にも涙が出てきているらしい。
「もう、もういいよ、唯。
『オニ』ならいなくなったよ。
唯が追っ払ってくれた・・・」
「ほ、ほんとう・・・?」
唯はひっくひっくと泣いている。
よく見ると、布団たたきを持っている両手はガタガタと震えている。
こんなに震えるほど怖かったのに、僕を守ろうとしたのか・・・・・・。