小説『オニが出た日』
作者:夢色真珠()

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 そこに唯は一人で立っていた。
すごい形相で、手には布団たたきを持って。

 唯は僕の近くまで走ってくると、布団たたきをすごい勢いで
ぶんぶん振り回し始めた。

 「えいっ、えいっ!
  オニめ、おにいちゃんをいじめるな!」

ぼろぼろと涙をこぼしながら、がむしゃらに布団たたきを振り回す。

 「唯の、だいすきな、おにいちゃんにひどいことしないで!」


 あっけにとられて僕は唯を見ていたけれど、やっと状況が少し分かってきた。
どうやら妹は僕を守ろうとしているらしい。
いるはずのない鬼から僕を。
その小さな体で。

 僕は唯をからかってやろうと、イジメてやろうと思ったのに。
妹をうっとおしいと思ってる、本当はいなかったらいいと思っている
ヒドイ兄ちゃんなのに。

 そんなひどい僕を、唯は必死に守ろうとしている・・・・・・。

 唯を見ている僕の視界はだんだんぼやけてきた。
いつの間にか、僕の目にも涙が出てきているらしい。

 「もう、もういいよ、唯。
  『オニ』ならいなくなったよ。
  唯が追っ払ってくれた・・・」

 「ほ、ほんとう・・・?」

 唯はひっくひっくと泣いている。
よく見ると、布団たたきを持っている両手はガタガタと震えている。

 こんなに震えるほど怖かったのに、僕を守ろうとしたのか・・・・・・。



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