小説『ソードアートオンライン~1人の転生者』
作者:saito()

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「それにしても、モンスターを見かけないなあ?」


雲の塊を切り裂いて飛翔しながら、キリトが呟いた。


『このアルン高原ではフィールド型モンスターは出ないんだ。

だからわざわざこちら側で会談を行うことにしたんだろうな。』

「なるほど、大事な話しの最中にモンスターが湧いちゃ興醒めだしな……。

でも、この場合は有り難くないな。」


『……なるほど。』


と納得する。


「え、どういうこと?」


リーファがきょとんとキリトを見ると、キリトがニッと悪戯っぽく笑った。


「さっきみたいにモンスターを山ほど引っ張っていって、サラマンダー部隊にぶつけてやろうと思ってたんだけどな。」

「……よくそんなこと考えるわねぇ。

サラマンダーは洞窟で襲ってきた時以上の大部隊らしいから、警告が間に合って全員でケットシー領に逃げ込めるか、もしくは揃って討ち死にか、どっちかだと思うよ。」

『大丈夫だ。そんなことにはならない。』


不敵な笑みを浮かべてリーファを見た、その時。


「「あっ、プレイヤー反応です!」」


不意にユイとレイが叫んだ。


「前方に大集団ーーー68人、これがおそらくサラマンダーの強襲部隊です。」

「さらにその向こう側に14人、シルフ及びケットシーの会議出席者と予想します。

双方が接触するまであと50秒です。」


その言葉が終わると同時に、視界を遮っていた大きな雲の塊がさっと切れた。

限界まで高度を取って飛んでいた眼下に、緑の高原が広がる。


その一角、低空を這うように飛ぶ無数の黒い影。

5人ずつ楔型のフォーメーションを作り密集して飛んでいるそれは、サラマンダー部隊に間違いないだろう。

その進行方向に目を向ければ、円形の小さな台地が見える。

ぽつりと白く横たわるのは長テーブルで、左右に7つずつの椅子が添えられ、即席の会議場といった案配だった。


椅子に座る者たちは会話に夢中のようで、迫り来る危機に気づいていない。


「ーー間に合わなかったね。」

『そうだな。だが、逃げる必要もないだろう。』


「え?」

「確かに、此処で逃げるのは性分じゃないな。」


目指す先ではシルフとケットシーたちが、接近するサラマンダー部隊に漸く気づいたようで、次々に椅子を蹴り、銀光を煌めかせながら抜刀した。

しかし、その姿は重装備の攻撃部隊に比べあまりにも脆く見える。


草原を這うように飛んでいたサラマンダーの先頭部隊が、一気に高度を取り、獲物を狙う猛禽類のように長大なランスを構えてぴたりと静止した。

後続の部隊も次々と左右に展開し、台地を半包囲する。

嵐の前の静けさのように、緊迫した空気が世界を包んだ。


サラマンダーの1人がさっと手を上げ、振り下ろそうとした、その瞬間。


対峙する両者の中央、台地の端に、巨大な土煙が上がった。


一瞬遅れて、ドドーン!という爆音が大気を揺るがし、キリトは隕石の如く速度を緩めずに着地した。


その場にいる全ての者が凍りついたように動きを止める。

薄れゆく土煙の中、ゆっくりと体を起こしたキリトが、仁王立ちになってぐるりとサラマンダー軍を睥睨した。

同時刻、途中でキリトと別れた俺たちは、勢いを殺さずにギリギリまで降下すると、着地の際の衝撃から守るようにリーファを抱え、シルフ側にふわりと着地した。

彼女を地に降ろし、サクヤの元へ行かせると、ゆっくりとキリトの元へ向かう。


キリトは胸を反らせ、一杯に息を吸い込むとーーー


「双方、剣を引け!!」


先ほどの着地音よりデカい声が響き、ビリビリとした震えが周囲を満たした。


まるで物理的圧力に晒されたかの如く、サラマンダーの半円が動揺し、僅かに後退る。


声音もさるごとながら、キリトのあの度胸の良さは流石だと思う。

SAOの最初の時期とは比べものにならない程の成長だ。

どうやら、リーファは無事サクヤと会えたようだ。

聞こえてくる会話では、、、

「サクヤ」

「リーファ!?
どうしてここにーーー!?

い、いや、そもそもこれは一体ーー」

「簡単には説明できないのよ。

ひとつ言えるのは、あたしたちの運命はあの人たち次第、ってことだわ。」

「……何がなにやら……」


女性シルフにしては秀でた長身、黒に近いダークグリーンの艶やかな直毛を背中に長く垂らし、その先を一直線にぴしりと切り揃えている。

肌は抜けるように白く、切れ長の眼と高い鼻筋、薄く小さな唇という美貌は刃のような、という形容詞が相応しいだろう。

身に纏うのは、前合わせの和風の長衣。その帯に無造作に差してあるエモノは、リーファのものより更に二寸も長い大太刀だ。

裾からは真っ白な素足が覗き、深紅の高下駄を引っ掛けたその姿は、一目見れば忘れられないだろう。


もちろん、彼女がトップに選ばれたのは美貌によるものだけではない。


デュエル大会では常に決勝に進む程の剣の達人であり、公正な人柄で人望も厚い。

その隣にいる、小柄な女性プレイヤーは、、、、


とうもろこし色に輝くウェーブヘア、その両脇から突き出た三角の大きな耳はケットシーの証だ。

小麦色の肌を大胆に晒し、その身に纏うのはワンピースの水着に似た戦闘スーツで、その両腰には巨大な三本の爪が突き出たクロー系の武器を装備している。

臀部には縞模様の長い尻尾が伸び、本人の緊張を写してぴくぴくと震えている。


その横顔には、睫毛の長い大きな眼とちょっとだけ丸く小さな鼻、愛嬌のあるその顔はとても可愛らしく、驚く程の美少女振りだ。

彼女がケットシー領のトップ、アリシャ・ルー。

白い長机の左右にシルフとケットシーが6人ずつ並んでいる。

皆揃って呆然とした顔で立ち尽くしており、ケットシーの中にもちらほら顔を合わせたことがあるものも混じってはいるが、注目すべきはシルフの有力者たちだ。


やはりな、シグルドの姿はない。



そして、再びキリトが叫ぶ。


「指揮官に話しがある!」


あまりに大胆不敵なその声と態度に、圧倒されたかのようなサラマンダーのランス隊の輪が割れた。

空に開いたその道を、1人の大柄な戦士が進み出てくるのが視界に入った。


炎色の短髪を剣山のようにつんつんと逆立て、浅黒い肌に猛禽に似た鋭い顔立ち。

その逞しい体を、レアアイテムであろう赤銅色をしたアーマーに包み、背にはキリトのものに勝るとも劣らぬ剣を装備している。


深紅に光るその双眸が私の方を見た瞬間、奴の眼が細められた。

そしてそのままキリトの方を見ると、そのままガシャッと音をさせて彼の前に着地した。

サラマンダー領トップ、モーティマーの弟、ユージーンだ。

根っからの悪人ではない。



それと、確か階級は将軍だったか?


ユージーンは無表情のまま、キリトを高い位置から睥睨した。

よく通る太い声が流れた。


「ーースプリガンがこんなところで、何をしている。

それに、貴様はダークエルフのサイト!

どちらにせよ殺すには変わりないが、その度胸に免じて話だけは聞いてやろう。」


キリトは臆する風もなく、大声で答えた。


「俺の名はキリト。

ウンディーネとスプリガンの大使だ。この場で襲うということは我々4種族を敵にするということでいいんだな?」


「ウンディーネとスプリガンの同盟の大使が、護衛の一人もいない貴様だと言うのか。」


「護衛ならいるぜ!おれだ!」

俺が腰の刀に手をかけながら言い放った。


「ふん。たった1人の護衛で何ができるんだ?」

ユージン将軍は完全に馬鹿にした態度で返答をした。

「俺、1人でもお前らくらいなら余裕でけちらせるからな。」

「それに、この場にはシルフ・ケットシーとの貿易交渉に来ただけだからな。

だが会議が襲われたとなればそれだけじゃすまないぞ。

4種族同盟を結んでサラマンダーに対抗することになるだろう。」


しばしの沈黙が世界を覆った。


ーーやがて、


「たった一人の護衛とたいした装備も持たない貴様の言葉を、にわかに信じるわけにはいかないな。」


ユージーンは突然背に手を回すと、巨大な両手直剣を音高く抜き放った。

暗い赤に輝く刀身に、二匹の龍の象嵌が見て取れる。


あの巨剣の名は、(魔剣グラム)だったか。

「お前が30秒間俺の攻撃に耐え切ったら大使だと認めてやろう。」

「気前がいいね。」

キリトも飄々と言ってるけど、案外乗り気だな、あれは。


そして、キリトも背から愛刀を抜いた。

こちらは鈍い鉄色、装飾の類は一切ないが。

しかし、慣れ親しんだ剣だ、きっとどの武器よりも手になじんでいるはずだ。

翅を振動させて浮き上がり、ユージーンと同じ高度でキリトがホバリングする。

俺も、腰の闘鬼神に手を添えて2人の戦いの行く末を見守ることにした。

そして、邪魔者があれば斬る。


空中で対峙する2人の戦士は、相手の実力を測るかのように長い間睨み合っていた。

高原の上を低く流れる雲が、傾き始めた日差しを遮って幾筋もの光の柱を作り出している。

そのひとつがユージーンの剣に当たり、眩く反射した、その瞬間。


予備動作なくユージーンが動いた。


びぃん!と空気を鳴らして、超高速の突進をかける。

右に大きく振りかぶった大剣が宙に紅い弧を描き、キリトに襲いかかる。


だが、キリトも流石の反応速度だ。


無駄のない動きで頭上に愛刀を掲げ、翅を広げて迎撃態勢に入った。


ユージーンの剣を受け流し、カウンターの一撃を叩き込むつもりなのだろうが、奴の剣には(エセリアルシフト)という、剣や盾で受けようとしても非実体化してすり抜けるエクストラ効果がある。

その為に、ダガァァァァン!!という爆音と共に、キリトの胸の中央に炸裂した斬撃は巨大なエフェクトフラッシュを爆発させた。

キリトの姿は暴風の中の木の葉のように叩き落とされて地面に突き刺さった。

俺の肩に座っているレイとユイが心配そうに見つめている。

「大丈夫だ。キリトはそう簡単には負けやしない。」

2人の小妖精はコクリと頷き、戦いに眼を向けた。


そして、直ぐに土煙の中から矢のように飛び出す影があった。

ホバリングするユージーン目掛けて、一直線に突進していく。


「ほう……よく生きていたな!」


嘯くユージーンに向かってキリトは、


「なんだよさっきの攻撃は!」


お返しとばかりに愛刀を叩きつける。

ガン、ガァン!と撃剣の音が立て続けに響いた。


他のものには捉えきれない程のキリトの連続攻撃を、ユージーンは的確に両手剣で弾き返していく。


そして、連撃にわずかな間が空いた、その瞬間だった。


再び、ユージーンの剣が牙を剥き、横薙ぎに払われる剣を、キリトが反射的に己の剣で受けようとする。

しかし、先ほどと同じように刀身が霞み、直後キリトの腹に深々と食い込んだ。

「ぐはぁぁっ!!」

肺の中の空気を全て吐き出すような声を上げながら、今度は宙をくるくると吹き飛ばされる。

キリトは、翅をいっぱいに広げてブレーキをかけ、どうにか踏みとどまる。


「……効くなぁ……。

おい、もう30秒経ってんじゃないのかよ!」


喚くキリトに、ユージーンは不敵に笑った。


「悪いな、やっぱり斬りたくなった。首を取るまでに変更だ。」

「この野郎……。絶対泣かせてやる。」


キリトは愛刀を構え直した。


ユージーンが翅から赤い光の帯を引いてスラストをかける。


その攻撃を、キリトがランダム飛行で危なっかしく回避していく。


絡み合う2本の飛行軌跡が空に複雑な模様を描き、時々パパッとエフェクトの光塵を散らしてはまた離れる。


キリトのHPは既に2度の被弾によって半分以上減少している。

と、不意にキリトが振り返り、右手を突き出した。


なるほど、先ほどのスペル詠唱はこれか。


彼の手が黒く輝き、ボン、ボボボボン!と2人の周囲に真っ黒な煙がいくつも爆発した。


幻惑系の包囲魔法。所謂煙幕だ。

それらはモクモクと広がっていき、空域を覆い尽くす。

黒雲は地上にも及び、さぁっと周囲が薄暗くなった。

みるみる視界が悪くなる中、突然、耳元で囁き声がする。


「サイト、ちょっと借りるぞ。」

『ああ、構わないが、使えるのか?』

俺は率直な疑問をぶつけてしまった。

しかも、あいつは運の悪いことに鉄砕牙の方を抜いてしまった……

「時間稼ぎのつもりかァ!!」


厚い煙の中央からユージーンの叫びが響き渡った。

次いで、スペルの詠唱が耳に届く。


すぱっ!と赤い光の帯が放射状に迸り、黒煙を切り裂いた。


ディスペル(無効化)された煙が忽ち薄れ、視界が戻る。

空にホバリングするのはユージーンひとりだけ。

キリトを探しているようだが、見つけられないようだ。


ケットシーの一人が呆然と呟く声が聞こえる。


「まさか、あいつ、逃げ……」


「そんなわけない!!

リーファの強い否定の叫びが聞こえた。

そして、高らかな笛の音に似た、力強いその飛翔音。

近づいてくる。そして、どんどん大きくーーー。

そこには、キリトの姿があった。

「ははははっはははは。何だその錆び刀は?それで俺と戦おうってのか?」

ユージンがキリトの左手に握られている刀を見て大笑い

キリトの左手に握られているのは俺の鉄砕牙だ。

その姿を見た、サラマンダーの連中もユージンに続くように大笑いしている。

キリトも流石にびっくりしたらしく俺に視線を合わせてきた。

「すこしだけ、時間をくれ。」

俺はユージンに言い、キリトの元に翼を広げ飛んだ。

「お前、使えないのにとるなよ……」

「いや〜、もしかしたらとか思ったんだけど……ダメか〜」

「全く……呆れた奴だな。仕方ないお前にはこいつの方がお似合いだ。」

俺はキリトから鉄砕牙を受け取り腰の鞘に納刀した。

そして、メニュー画面から新たな剣をオブジェクト化した。

白い剣。

そう。彼のもう一本の愛刀ダークリパルサーだ。

「ほら、こっちのほうがいいだろ?」

俺はキリトに手渡した。

「こ、こいつは、助かる!」

キリトは嬉しそうな顔をし、ユージンに振り返った。

俺は再び元の位置に舞い降りた。

「またせたな!」

「ふっ、剣が一本増えた程度で!」


キリトの二刀装備を苦し紛れと見たか、ユージーンの頬に不敵な笑みが浮かんだ。

ユージーンの魔剣が、重々しい唸りを上げて振り抜かれる。


交差する軌道で、キリトが左手の刀を振り降ろす。


ぶん、と赤黒い剣が振動した。

(エセリアルシフト)によって透過した刃が、吸い込まれるようにキリトの首筋へーー。

しかし、ぎゃいん!と鋭い金属音と共に、その切っ先が大きく弾かれた。


受け止めたのは、キリトが僅かな時間差で斬り上げた右手の剣だ。


針の穴を通すような、完璧なタイミング。


驚愕の気配を洩らすユージーンに向けて、キリトが雷鳴のような雄叫びを放った。


「お……おおおおああああーーーー!!」


直後、両手の剣が、霞む程の速度で次々に打ち出された。


左の刀が滑らかに切り払い、それと完全に連動して右の愛刀が突き出される。

それを引き戻しつつ、再び刀が左下から飛ぶ。

同じ軌道を戻る刃に引かれるように剣の攻撃が叩き込まれる。

二本のキリトの愛刀の剣光が融けあい、その連続攻撃はまるで夜空にいくつもの流星が飛んでいるかのようだった。


ユージーンは後退しつつもシフト攻撃を多用して対抗しようとするが、連続での透過ができないその剣は、次々と二段構えのパリィに弾き返される。


「ぬ……おおおお!!」


地上に向けてどんどん押し込まれるユージーンが野太い方向を放った。

防具の特殊効果か、薄い炎の壁が半球上に放射され、僅かにキリトを押し戻す。


その瞬間。ユージーンは魔剣を小細工抜きの大上段に構え、ごっ!という大音響と共に、真正面から撃ち込んだ。


対するキリトは、臆することなく突進で距離を詰め、左の刀を雷光の如き速度で振り下ろした。



しゃぁん!と甲高い金属音が流れ、眩い火花が宙に円弧を描いた。

エセリアルシフトが発動するよりも速く剣の側面を弾かれ、ユージーンの撃ち込みはキリトの左肩を掠めて背後へと流れた。


そしてーーー


「ら……ああぁぁぁぁ!!」


凄まじい気勢に乗せて、キリトの右手の剣が、真っ直ぐに突き込まれた。


ドッ!という重い音を立てて、黒がねの刃がユージーンの体を貫いた。


「ぐあっ!!」


キリトの神速の突きと、双方の突進のスピードが相乗効果をなしたそのダメージは凄まじいものとなり、ユージーンのHPバーが一瞬でイエローに突入する。


だがキリトはそこで止まらなかった。


右手の剣を素早く引き戻すや、尚も再度攻撃態勢に入ろうとするユージーンへと、左の剣で凄まじい速さの連続技を浴びせた。

一呼吸で4発も繰り出された垂直斬りの軌跡が、宙に美しい正方形を描いてユージーンの巨躯を包み込んだ。

「…………!!」

驚愕の表情を浮かべたユージーンの上体が、右肩口から左腰にかけて、無音でスライドした。


ぱっ、と正方形の光が四方へ散る。


直後、巨大なエンドフレイムを巻き上げ、アバター全体が燃え崩れた。


誰一人、身じろぐものはいない。


シルフも、ケットシーも、50人以上のサラマンダー部隊も、魂を抜かれたように凍りついている。


無理もない。それほど、この戦いはハイレベルなものだったのだ。

このALOで、防御や回避といった高等技術を使えるのは一握りしかいないから、見映えのする戦闘などはデュエル大会の上位戦でもなければ見ることもできない。


だが、今のキリトとユージーンの戦いは明らかにそれ以上と言っても過言ではないだろう。


流れるような剣舞、空を裂く高速エアレイド、そして何より、ユージーンの天地を砕かんばかりの豪剣と、それを打ち砕いたキリトのあの二刀流ーー。


そして、それを皮切りに先ずはサクヤが張りのある声で

「見事、見事!!」

そう言うと、両手を高らかに打ち鳴らす。


「すごーい!ナイスファイトだヨ!」


アリシャがそれに続き、直ぐに背後の12人も加わった。

盛大な拍手に混じって、口笛を鳴らしたり、「ブラヴォー」と叫んだりの大騒ぎだ。


そしてそれは、指揮官を討たれた筈のサラマンダー部隊にも広がり、割れんばかりの歓声を上げて長大なランスを立てて旗のように振り回す。

今まで無法者だったサラマンダーたちも、キリトたちの戦いを見て胸にくるものがあったのだろうな。

輪の中で今回の立役者となったキリトがいる。

「や、どーもどーも!」

気障な仕草で四方にくるりと一礼すると、リーファたちの方に向かって叫ぶ。



「誰か、蘇生魔法頼む!」



『頼めるか……?』

「解った。」


サクヤが頷くと、すっと浮き上がった。

着流しの裾をはためかせながら、ふわふわと漂うユージーンのリメインライトの傍まで上昇し、スペルワードをの詠唱を開始する。


やがて、サクヤの両手から青い光が迸り、赤い炎を包み込んだ。


複雑な形状の立体魔方陣が展開し、その中央で残火が徐々に人の形を取り戻していく。

最後に一際眩い閃光を発すると、魔方陣は消滅した。

キリトと俺とサクヤ、そして蘇生したユージーンは無言のまま舞い降り、台地の端に着地した。

再び、周囲を静寂が包む。


「ーー見事な腕だな。

俺が今まで見たなかで、最強プレイヤーだ、貴様は。」

「そりゃ、どうも。」

「貴様のような男がスプリガンにいたとはな……。

世界は広いということかな。」


「俺の話し、信じてもらえるかな?」

「………………」

その間に不安を覚えた俺がユージンに言った。

「信じないなら、それでもいい。

だが、その時はここからサラマンダーが生きて帰れると思なよ。」

ドスの聞いた声で俺がユージンに言うと、誰もがまた一悶着になるのではと不安な顔色になった。



その時、台地を取り囲むサラマンダー部隊前衛の長槍隊から、1人のプレイヤーが歩み寄ってきた。


ガシャリと鎧を鳴らして立ち止まり、左手で尖った面頬を跳ね上げる。

無骨な顔つきのその男は、ユージーンに一礼してから口を開いた。


「ジンさん、ちょっといいか。」

その声は震えていた。

「カゲムネか、何だ?」

「こいつは、本当にまずいですよ……。

昨日もたった一人で俺たちサラマンダーを全滅させるし、さっきルグルーのとこでも重盾装備の奴がこいつによって倒されてる。

ここで、逆らうと本気でサラマンダーは全滅させられますよ」

カゲムネとかいう奴は余程昨日のことが恐かったのか、なんとかユージンに認めさせようとしている。

「そうか、

それに、現状俺も領主にもウンディーネとスプリガンと事を構えるつもりはないからな。

だが、ダークエルフ貴様、スプリガンのお前も、もう一度戦ってみたいものだな。正々堂々とな。」


「のぞむところだ。」

「いいだろう。」

俺たちは頷きあった。

そして、サラマンダーの大軍勢は一糸乱れぬ動作で隊列を組み、ユージーンを先頭に鈍い翅音の重奏を響かせながらたちまち遠ざかっていった。


無数の黒い影はすぐに雲に飲み込まれ、薄れていくと、やがて完全に消え去った。

「まったく、サイトも相変わらずじゃないか……」

「ふっ、まどろっこしいのは嫌いなんだ。」

「それにして、きみきみ、ほんとにあのサラマンダーの大群を1人で壊滅させられるの〜?」

「ほんとうだ、にわかに信じ難い話だ。」

2人の領主から疑問をなげられた。

まあ、当然だ。

俺が答えるよりも先にキリトが答えた。

「サイトなら、やりかねない。

サイトの持っている妖刀はとんでもない威力を秘めているらしいからな。」

「ああ。あの程度のサラマンダーなら対した事はない。」

「うそ〜信じられない……。」

「おそろしいやつだ。敵でなくて本当によかった。」




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