小説『ソードアートオンライン~1人の転生者』
作者:saito()

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その後菊岡の話しを聞き俺たちはデスガンなる人物の調査を依頼された。

しかも今回は調査協力という名目で報酬もでるみたいだし。


そして、菊岡と別れた後、俺と和人は東京メトロの大手町駅で下車をした。

2025年12月7日の日曜日。今日は明日葉と明日奈にダブルデートをしようと誘われたのだ。

愛する人に誘われては断るわけにはいかない。


あのALO事件から早いもので、もうすぐで一年経つ。

ーー明日奈がこの世界に戻ってきて、もう一年か……

彼女の体は順調に回復しているが、まだ全てを思い出とするのは難しいだろう。

それに俺たちにとっては全てを思い出にするのは無理な話だ。

俺も死にかけたくらいだからな。


広い歩道に整然と敷き詰められた石材の上を2人で歩きながら、冷たい風に揺れる街路樹の梢を見上げる。

この寒さの中、コートの襟やマフラーに顔を埋めて行き交う人々の中をゆっくり歩いていく。

それらは全て現実のものだが、あの世界と何ら変わりないものだと思う。

確かに、あの世界で生きていたのだから。

待ち合わせ場所に近づくに連れて、見知った顔が見えてきた。

明日葉と明日奈だ。


2人で仲良く話しながら俺たちの到着を待っているようだ。


その美しい2人の姿に道ゆく人は目を思わず二度見をしている人も。

俺たちもそんな姿に目を奪われている聴衆になっていた。


「彩斗君??」

明日葉に名前を呼ばれて始めて気がついた。

「どうしたの?ボーとして。

彩斗君にしては珍しいね。」


「うんうん、和人君もだよ。」


「あ、ああ。すまない。

2人の美しい姿に思わず見惚れてしまったんだ。」

「ま、まあな。

道ゆく人の中には二度見している人もいるくらいだしな。」


なんとか、ごまかしその場を切り抜けようとした。


「もう///彩斗君ったら………」

「和人君も……。

あ、それよりも今日は服装がいいわね。」


「服装がいい、のか?」


和人がいまいち理解できない様子のようだ。


「そっか〜、よく見るとそうだね。」

全員の服装をよく見ると明日奈と明日葉お揃いのが白のツイード。その下にアイボリーのニットと、赤いアーガイル・チェックのスカート。

和人も黒のジーンズにジャケットと全身黒で固めている。

俺も今日は下は黒のカーゴパンツ、インナーも黒のシンプルなシャツで羽織が赤の長い陣羽織みたいなものだ。

「今日はなぜか黒い服しかなくて……」

「それは和人が洗濯物を部屋に溜めてるからだろ?」

「ごもっともです………」

「彩斗君は相変わらずの主婦っぷりね。

どうしてそんなに家事が上手いの?」


「ほんとね、いっそ明日葉ちゃんが男の子だったら釣り合いが取れたのにね。」


「もうお姉ちゃん!」

「うふふ、冗談よ。

でも、明日葉ちゃんも花嫁修行しないとダメよ?」

「うぅぅ………」

「さて、談笑に花を咲かすのもいいが、そろそろ行かないと日が暮れてしまうぞ。」

和人の合図で俺たちは歩を進めた。


揃ってお濠に架かる橋を渡っていく。

古式な白壁の大手門前は、朱色の混じり始めた西日に照らされ、黒々とした影を橋に投げ掛けていた。

日曜ではあるが、季節のせいか観光客の姿はほとんどない。

分厚いコートを着た警察官の横を通過してもんをくぐっていく。

小さな詰所でプラスチックの入場票を受け取り、銀色の柵を抜けた。

その向こうには、此処が東京都心の更に中央だということをあまり信じさせないほどの、静謐な木立が広がっている。


今回、待ち合わせ場所を(大手門前)と指定したのは和人だ。

皇居そのものは非公開ではあるが、お堀内部の(東御苑)と呼ばれる北東の一角だけは曜日を選んで一般公開されている。

まぁ、此処を待ち合わせ場所に指定したのはちょっと用事があったからなんだが……


「……そういえば、なんでデートの場所を皇居にしたの?

キリトくんって歴史好きなんだっけ?」

「や、そういうわけじゃないよ。

主な理由としては……ちょっと前まで、俺たちヤボ用で近くに呼び出されてたからなんだけどさ……」


『まぁ、そっちはまた後で説明するよ。』

「それよりさ、皇居ってちょっと面白い場所だと思わないか?」

「……面白い?」

「どのへんが?」

なるほどな。俺は和人の言いたいことを理解した。


『南北に約2キロ、東西に1.5キロ。

北の丸公園や外苑を合わせると面積は230万&#13217;。

千代田区の約20%を占めているんだ。

バチカンやバッキンガム宮殿と比べてみても此処の方が圧倒的に大きい。

まぁ、ベルサイユ宮殿には負けるがな。』

「平面だけじゃないぜ。

下には地下鉄やトンネルが一本も通ってないし、上はどんな航空機も飛行禁止。

つまりこの場所は、東京のど真ん中を垂直に貫く、巨大な進入不可エリアってわけだ。」


2人は俺たちの説明に、宙に左手の指先を器用に動かしながら東京の地図を思い浮かべて、なるほどと頷く。


「そう言われてみれば、都心の幹線道路は大抵が感情何号線、放射何号線って言うね。」

「うん。確かその中心って、ぜんぶこの場所なんだよね……」

『うん。つまり東京は京都みたい碁盤型ではなく、同心円状の放射型都心なんだ。』

「しかも、その中心は物理的だけじゃなく、情報的にも完璧に“近く”遮断されている。


ほら、彼処に監視カメラがあるだろう?

あのセキュリティシステムは、完全にスタンドアローンなんだが、此処は独自のクローズドネットが構築されているから、外部からは一切接続できないことになっている。」


「そういえば、なんか不思議な形のカメラだね。」


指差した先にある上端に黒い球体が固定されたポールがひっそりと立っていた。

言われなければカメラではなく、照明灯にしか見えないだろう。


『次世代のセキュリティ技術の実験中らしいからな。』

「ーーともかく、この場所は、東京の中央であると同時に隔離された(異界)でもある……なんて、大げさな言い方かもだけどさ。」

「あはは、ちょっとね。」


そんな会話を4人で交わす間に、遊歩道は巨大な石垣を回り込み、急な上り坂へと変わった。

暫く無言で足を動かすと、視界が一気に開けた。

向こう側が霞む程の広大な薄茶色の芝生。その周囲には木立もある。

季節が真冬なのが残念だが、春になればさぞ気持ち良いだろう。


「確か、此処が江戸城の本丸跡だったね。」

「あぁ。よく歴史ドラマの舞台になる大奥は、芝生のちょっと北側だったらしいよ。」

「行ってみよ!」

明日葉が俺の手を引いて小走りで走り出した。


人影はあまり無いが、そのほとんどが外国からの観光客のようだ。

途中で可愛らしい金髪の姉妹を連れた夫婦とすれ違った。

「Excuse me?(すいません。)」

「わ、わ、英語だ。

変わってくれ」

和人が急に英語で話しかけられてんてこ舞いになりながら助けを求めた。

「わ、私もそんな……」

「私も……」

「はあ、仕方ない。俺が話を聞いてみる。」

俺はその外国人に応えた。

「Yes?(どうしました?)」


「Could you take a photograph?(写真を撮ってくれませんか?)」

「Sure.(いいですよ。)」

「Thank you.Please take this camera.Can you know how to use? (ありがとう。このカメラで撮ってださい。それと使い方分かりますか?)

「Yeah, I know.(ええ、分かりますよ。)」

「Let's it?3,2,1.(行きますよ?)」

「Thank you.You also photograph.(ありがとう。あなたたちも撮ってあげますよ。)」

「俺たちも撮ってくれるそうだ。」


俺たちも4人ならんで撮ってもらい画像のデータを携帯で受け取り、幼い子供たちと手を振って別れた。


「ふぅ、びっくりした……」

「急に英語なんてびっくりね。」

「本当だな、彩斗がいなかったらどうなっていたことやら…」

「それにしても、彩斗君は英語がペラペラね。」

「ほんと、びっくりよ」

「まったく、彩斗にできないことはないのか?」

三人にあれやこれやと言われてしまった。

「とにかく、英語は基本だぞ?

それに俺の場合は母がイギリス人だから自然と話せるようになったんだ。

まあ、仕事でもつかうがな。」


「けど、さっきの姉妹は可愛かったね」

唐突に明日葉が言い出した。


「そうだね〜。わ、私もいつかその、…………」

明日葉が急に顔を赤くしながら言葉を濁した。


「どうかしたのか?」


俺は明日葉の顔覗き込むように見た。


「わ!」

「だから、どうかしたのか?」


「そ、その、私たちもいつかはあんな風に慣れたらいいねってこと!」


急に明日葉に大声で言われてびっくりしたが

「そうだな。慣れたら、いいな………」


そっと明日葉の手を繋ぎながらいった。


「和人君、わ、私たちもね?」


「そ、そうだな。」

なんだか、恥ずかしくなってしまい、言葉に詰まったところで明日葉が切り出した。


「そ、そういえばなんで近くに呼び出されていたの?」


「あ、ああ。

それについてなんだけど、俺たちALOをやめようか思うんだ。」


「「ええ!どうして?!」」


2人の声があたりに響いた。

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