小説『私と○○』
作者:粉屋 るい粉(こな屋さん@本店)

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―― 私とザリガニ ――


 私が小学校五年生の時だった。
 所謂、”家庭の事情”というヤツで祖母の家に預けられていたことがあった。
 それまでにも祖母の家がある村には毎年、長期休暇の度に行っていたので、そこでの友人はそれなりにいて寂しいといったことはなかった。
 特に仲が良かったのは、ケンちゃんとシゲの二人だった。この二人は兄弟で、ケンちゃんが私と同い年、シゲが二つ下で、村では悪ガキとして有名な二人組。私が関わるようになってからは三人組として村には認識されていたが。
 いつのことだったかは定かではない。
 確か、半袖のシャツを着ていたから暑い季節だったのだろう。
 その二人とザリガニ釣りに行ったことがあった。
 場所は河童池。
 小さい頃にこの2人と泳ぎに行った時、河童が出たことから私たち三人はここを”河童池”と呼んでいた。正式な名称は知らない。
 余談だが、この池は遊泳禁止。
 それを知りながら泳いでいた私たちは河童と遭遇し、大騒ぎをしながら大人の元へ行き、こっぴどく怒られたのは今となっては、いい思い出だ。
 さて、ザリガニ釣りについてだが、釣り道具はいたって簡単。
 タコ糸の先に餌となるスルメやよっちゃんイカなど駄菓子屋で買えるイカや魚の練り製品を結びつける。
 そして、それを池に放り込み、少しの間静かに待つだけ。
 一、二分待って、引き上げるとザリガニが餌をその大きな鋏でしっかりと挟んでいる。
 これが面白いほど釣れるのだ。何度糸を垂らしても数分後には食いついてる。まさに入れ食い状態である。
 私はテレビゲームより、こういった泥臭い遊びが大好きな子供だったので夢中で釣っていた。バケツの中でザリガニが窮屈そうにする度、池に戻してあげ、そしてまた釣る。これの繰り返し。
 確かあれは遊び始めて一時間くらい経った頃だったと思う。
 いくら好きとはいえ、さすがに飽きがきていた私は釣り糸を横に置き、大きく伸びをした。
 その時、ふと後ろで何かが燃えている事に気づいた。
 田舎なので、野焼きか何かだろうと思ったが、それにしては近い。気になって振り返ると、ケンちゃんとシゲが焚き火をしていた。
 こんな暑い時期に焚き火とは酔狂な。
 呆れ顔で見ている私を余所に、ケンちゃんが焚き火を指差し、一言。
「始めるぞ」
 その声を合図に私の釣ったザリガニをシゲが奪い去り、火の中に放り込んだ。
 唖然とする私。
 ケンちゃんがにかっと笑う。
「あれ? どうしたんだよ。もしかして知らなかった? ザリガニって焼けば食えるんだぜ」
 知らぬも何も、私は食べる為に釣ったのではない。
 そう言おうとしたが、パチパチと音を立てて焼けているそれを見たくなくて、私は目を逸らす。
 ケンちゃんたちとのズレや、さっきまで生きていたザリガニが”調理”されている状況に居心地の悪さを感じた私は無言で背を向けた。
 後ろからは「醤油が欲しい」なんて呑気な声が聞こえてきた。



 その数日後。
 どうやら、河童池で火があがっていることに気づいた村人が私たち三人を見ていたらしく、祖母やケンちゃんの両親に話が回り、お説教の荒らしが訪れた。
 最初は「火遊びは良くない」という内容だったのに、ケンちゃん達が「ザリガニを食ってただけ」と言ったことで余計に怒られ、純粋にザリガニ釣りを楽しみ、ザリガニを食べていなかった私まで巻き添えを食らってしまった。
 その後もケンちゃん達との関係には変化は無かった。
 が、あの一件以来、ザリガニとの関係はいくらか悪化してしまったように思える。

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