小説『私と○○』
作者:粉屋 るい粉(こな屋さん@本店)

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―― 私と河童 ――



 私はもしかすると、河童に出会ったことがあるのかもしれない。
 小学校4年生の時だったと思う。私はケンちゃんとシゲと一緒に河童池へ泳ぎに行ったことがある。その頃の私達は、大人の言う『してはいけない事』をすることに情熱を燃やしていた。今思えば、馬鹿だなぁ…なんて思うが、その頃はそういったお馬鹿なことをするのが楽しかった。
 さて、その河童池の話だが、何故河童池で泳ぐことになったかと言えば、それはやっぱりケンちゃんの一言だった。

「河童池で泳ぐぞ!!」
 3人で今日は何をしようかと考えていた時のことだ。ケンちゃんはそう言って立ち上がると、1人スタスタと河童池のある方へと歩き出した。
「え…でも、兄ちゃん。河童池では泳ぐな。ってかあちゃんが言ってたぞ」
 ケンちゃんに追いついたシゲがそう言う。おいおい、私達は『してはいけない事』をするために集まったんじゃないか。私が口には出さずそう思っていると、ケンちゃんがシゲの頭を小突いた。
「馬鹿!! 俺達はかあちゃんがやるな、って言うことをやるためにいるんだろ? ルールは破るためにあるのさ」
 ケンちゃんならそう言うと思った。ということは決まりだ。
 今日は河童池で泳ぐ。そうなりそうだな
 私は先に行く2人の背中を見ながら、のんびりと河童池に向かうことにした。

 さて、河童池には着いた。着いたが、しかし。私達は重要なことを忘れていた。
 水着である。
 やれやれ、どうしたものか。なんて思っていると、ケンちゃんが服を脱ぎ捨てて全裸になる。
「フルチンで泳ぐぞ!!」
 さすがにそれは……
 私は少し引いてしまったが、よくよく考えればココにはケンちゃんとシゲの2人しかいない。この2人とは長い付き合いだ。構わないか。
 そう思うと途端に恥ずかしくなくなった。私もケンちゃんにならい、服を脱ぎ捨て全裸に。7月の暑い日差しの中、全裸になるというのは気持ちがいい。だが、誰かに見られたらどうしよう…という不安が大きく、今すぐ服を着たくなる。
「うおっ! 冷てえ!!」
 声のするほうを見てみると、池で泳ぐケンちゃんの姿があった。ケンちゃんは運動神経がいいだけあってすいすいと気持ちよさそうに泳いでみせる。
 これを見た以上は私も泳ぐしかないだろう。これだけ暑いのだ。さぞ、池の水は気持ち良かろう。
 私は、池に飛び込む。水飛沫が日の光でキラキラと輝いていてとても綺麗だ。
 こうして、私とケンちゃんは池で泳いでいたのだが、シゲは来なかった。どうやら河童が怖いらしく、さっきから池の縁でこちらを羨ましそうに見ている。羨ましいなら来ればいいのに、と思うと同時にシゲもまだまだ子供だな、なんて大人ぶった事を思っていた。

 泳ぎ始めて30分くらい経った頃だったと思う。
 突然、ケンちゃんが池の中でもがき始めた。ケンちゃんは泳ぎが上手いから、どうせ演技だろうと思って見ていた。シゲも私と同じだった。けれど、すぐに様子が変わった。
 ケンちゃんが沈んだのだ。
 それを見たシゲは真っ青になって
「河童が出た!! 河童が兄ちゃんをー!!」
と叫びながら、家のある方へと走っていった。
 私は、ケンちゃんを助けようと沈んだ場所へ泳いでいこうとした。すると、顔面蒼白のケンちゃんが勢いよく水から顔を出した。
 その時、私は見たのだ。
 ケンちゃんの後ろで30cmくらいの亀の甲羅のようなものが沈んでいくのを。

 ケンちゃんは無事だった。その後、自力で泳いで岸に上がり、「突然、足を攣ったんだ」とか、なんとか言っていた。
 そして、その後が地獄だった。シゲが大声で大人を呼ぶものだから、ケンちゃん達の親だけでなく、村役場の人や私の祖母まで来て、私達3人は大人全員から怒られた。私やケンちゃんは全裸のままでだ。今思い出しても恥ずかしい。
 その事件以来、私達が集まる時には必ずと言っていいほど、大人が集まってきた。何も村全体で監視しなくても……
 そうだ。すっかり忘れていた。
 あの日、家に帰る途中で祖母が教えてくれたのだが、あの池では女の子が1人亡くなっていたらしいのだ。

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