小説『VOCALOID POKER《声劇専用・台本》』
作者:silence(Ameba)

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【ハッピーシンセサイザ】




ある学園の廊下での風景が広がる。
一人の少年が廊下を歩いていた。
彼の名前はユウキ。
その容姿は幼く、可愛らしい印象を受けるが内向的で何処か人の視線に過敏に距離を取ろうとしているのが解る。
そんな時、彼の耳には微かながらにも確実に聞こえる陰の声だった。

生徒A:アイツだろ?ユウキって

生徒B:今回も学年トップだって

生徒C:やっぱり金持ちは違うよな。

生徒D:でも勉強だけが取り柄ってのも悲しいもんだよな。
家でも勉強だけしてたりしてw

生徒E:知らないの?
あの子バンドやってるんだって

生徒F:知ってる。
もっぱらの噂だよね、最近先輩たちと一緒にいるって

生徒G:嘘でしょ?あの子先輩たちじゃ釣り合わないんじゃないww

生徒達:はははははは
生徒達:ふふふふふ

生徒たちが子バカに笑う。
その声にユウキは、たまらず走り出した。
人気のない廊下までユウキが俯き気味に廊下の壁に寄りかかると、小さなため息がこぼれた。

(自信消失気味に)
ユウキ:はぁ・・・

そんな時、階段から生徒が降りてくる。
ユウキを見つけると少女の声が弾む。

ラン:あれ?ユウキ♪ユウキも今終わったの?

ユウキ:あ、うん。ラン先輩も・・・

ラン:もう!!ランで良いっていつも言ってるでしょ?
いつまで経っても慣れてくれないんだから。
部室まで一緒にいこう、皆待ってるよ♪

ユウキ:うん!!

ユウキの顔に笑顔がこぼれた。
部室に着くと既にメンバーが揃っている。

ラン:お待たせ〜♪

リョウ:遅ぇぞ

(苦笑い気味に)
ラン:ゴメンゴメン、へへ・・・

(ナレーション)
ユウキ:リョウさん、ランさんは僕の先輩。
リョウ先輩は、あんまり感情を出さないから最初は少し苦手だった。
ラン先輩は、リョウ先輩とは反対で、いつも元気で僕を気にかけてくれる。
勉強しか取り得がなかった僕をこのバンドに誘ってくれた先輩だ。
先輩達は否定してるけど学校内ではベストカップルって噂がたってるくらい、2人の息はぴったりだ。

リンネ:ねぇ、文化祭で披露する新曲出来た?

(気後れと自信なさげに)
ユウキ:う、うん

ヒアタ:・・・ハッピーシンセサイザ・・・

(ナレーション)
ユウキ:こっちがリンネとヒナタ。
クラスは違うけど僕と同学年のメンバー。

ラン:へぇ〜、いい曲じゃない。
ねぇ、リョウもそう思うでしょ?

リョウ:え?・・・んん、まぁな

ラン:もう!!相変わらず、反応薄いんだから!!
そんなんじゃ、そのうち反応と一緒に脳みそもハゲるわよ

リョウ:・・そんなわけねぇだろ

(少し冷や汗気味に)
ユウキ:か、歌詞は、まだ出来てないんだけど。

リンネ:ゆっくり考えていけばいいんじゃない?

ヒナタ:ユウキが感じることを書けばいいと思う

ユウキ:うん、そうだね。
近々、書き上げるよ

(ナレーション)
ユウキ:僕にとっては、こうして皆といることは新鮮で、凄く楽しい時間。


練習が終わり・・・


ラン:お疲れ、今日はここまでにしましょ。
もうすぐ夏休みだから、皆で練習頑張ろう♪

メンバー:はい!!

ラン:じゃ、また明日ね♪
リョウ、帰るわよ。

2人を校門で見送りながら3人は、口をついた。


ヒナタ:相変わらず仲良いよね、あの2人。
ベストカップルって言われるの解るなぁ。

ユウキ:本当に付き合ってないのかな?

リンネ:本人達は違うって否定してるよね。
先輩達、幼馴染みなんだってさ。
でも、よく2人で買い物してるの見るけど私も本当の所は解らないんだよね

ヒナタ:ああ、そっか、リンネは新聞部だもんね。
でもリンネが解らないんじゃどうしようもないよね。

リンネ: ねぇ!!こっそりあと着けてみようか♪

ヒナタ:行く行く♪ユウキは?


さすがは女の子。
2人の誘いに苦笑い気味にも、その後の一言は急に顔色を曇らせた。


ユウキ:ぼ、僕はいいや。
早く帰らなきゃいけないから・・・


2人の誘いを断ると、ユウキは家路に着いた。
そこに待っていたのはユウキの母親だった。

母:あら、ユウちゃん帰ったの?
そう言えば最近、成績が落ちてきてるわね。
バンドなんて辞めてしまいなさい!!

(母の剣幕に逆らえずに言葉を濁す)
ユウキ:そ、それは・・・

(少し心配ながらも弱々しさを出しながら)
母:いったいどうしたの?
最近の貴方、おかしいわよ。
昔はあんなにママの言うことを聞く良い子だったのに…。
…あ、そうだ♪
ママ、ユウちゃんの大好きなケーキ買って来たのよ。
一緒に食べましょ♪
そしたらまた、お勉強してくれるわよね♪

ユウキ:うん・・・


夏休みに入り、練習の時間も熱心になって来たころ。

(嬉しそうに)
ヒナタ:歌詞が出来たってホント!!

ラン:やったじゃない、ユウキ♪
ご褒美に、お姉さんがギュウってしてあげよう!!

リンネ:これで文化祭も盛り上がるね♪

皆のテンションあがる中、ただ一人ユウキだけが、その顔に影を落としていた。

ユウキ:うん、そうだね・・・

ラン:ユウキ?


そして、文化祭も間近に迫ってきたある日。
リンネが部室に血相を変えて入ってきた。

リンネ:大変!!!
ユウキが海外に留学するって!!

ヒナタ:えええ!!!

そんな中、部室のドアが開き、ユウキが部室に入ってくるとメンバー達はユウキに詰め寄った。

ユウキ:あの・・・

リンネ:ユウキ!!

ヒナタ:ユウキ!!本当なの、留学するって!!

ユウキ:うん・・・

リンネ:もうすぐ文化祭じゃない!!
メインヴォーカルのユウキがいなくなったら・・・

ユウキ:・・・ごめん・・

それまで黙っていたリョウが静かに口を開いた。

リョウ:何で黙ってた?

ユウキ:それは・・・・

リョウ:俺達に気を使っているつもりか?
それとも、俺達には話すことでもなかったってことか?
お前の人生だもんな、誰にも口出しする権利はないよな

ユウキ:そんな事・・・!!

リョウ: お前のやりたい事って何なんだよ!!
バンドも誘われたから断れなかっただけかよ!!
結局、お前はそうやって俺たちと一線置いてたってことだろ!!
それでも俺は、お前のこと・・・!!
・・・ッ、お前がいなくてもライヴは俺達が絶対に成功させてやるよ、
勝手に留学でも何処でも行けばいい!!

ラン:リョウ!!

そういうと、リョウは部室を出て行った。
それを見るとユウキも俯いたが、ユウキもたまらず部室を出て行った。

ユウキ:僕・・・僕、ゴメン!!

ラン:ユウキ・・・

しばらくの時間が過ぎ、ヒナタが寂しそうに口を開く。

ヒナタ:皆、バラバラになっちゃたね・・・

リンネ:あんなリョウ先輩初めて見た。
リョウ先輩は、ユウキの事どんな風に思ってたのかな・・・
ユウキがこのバンドに入ってきた時も良い反応はしてなかったし。


その質問にいつもは明るいランが、いつになく真顔で答えた。


ラン:実はね、ユウキをバンドに一番入れたがっていたのはリョウなのよ。

ヒナタ:え?でもバンドに誘ったのってラン先輩でしょ?

ラン:リョウに頼まれたからよ。
自分じゃ怖がられるからってね。
ユウキ、たまに屋上で歌ってるのを昼寝していたリョウが聴いてるのよ。
あの2人、性格はまったく違うけど根本的な所は似ているのかもしれないわね。
だから、そんな不器用な所をリョウは自分と重ねていたのかもしれない。


(ナレーション)
ユウキ:それから僕は部室に顔も出せず、文化祭はやってきた。


一方、舞台裏では・・・・

ヒナタ:ユウキ・・・本当に来ないのかな・・

リンネ:今日が出発って言ってたから・・・

リョウ:いい加減にしろ!!
言ったはずだろ、ライヴは絶対成功させるって!!
次にユウキにあったら、どんな顔して会うんだよ!!
『ユウキがいなかったから失敗した』っていうのか!!
そんな事してユウキが喜ぶと思うのか!!

リンネ:そうだね!!ユウキは居なくても私達にはユウキの歌がある!!

ヒナタ: これはユウキが私達、全員に書いてくれたものなんだよね。

ラン: うん!!やろう!!ユウキに届くぐらいにさ!!



母:いよいよ出発ね♪

ユウキ:・・・うん

ユウキは母と共にタクシーに乗ると、頭の中で思考をめぐらせた。
過去の仲間の言葉、母の言葉が浮かんでは消え、浮かんでは消えてゆく。

&amp;amp;#12310;過去の声・エコー&amp;amp;#12311;
ラン:ねぇ、何か部活に入ってるの?
まだならウチの軽音部に入らない?

リンネ:これ、いい曲だね♪

ヒナタ:ユウキが笑ったの初めて見た気がする
そんな顔もするんだね♪

リョウ:お前の本当にやりたい事って何なんだよ!!

母:最近、成績が落ちてきてるわね。
バンドなんて辞めてしまいなさい!!
貴方は勉強だけしていればいいのよ。
良い大学に入ってお医者様になるの♪

リョウ:結局、お前はそうやって俺たちと一線置いてたってことだろ!!
それでも俺は、お前のこと・・・!!


目を伏せると、ユウキは母に小さく口をついた。

ユウキ:母さん・・・
やっぱりアメリカに行くの春まで延ばせないかな・・・?

母:何を言ってるの、ユウキ!!
推薦状も戴いているのよ?
どうしたの?最近の貴方おかしいわよ。
急に髪型を変えてみたり!!

ユウキ:・・・でも・・今日は学園祭で・・

母:学園祭なんて、どうでもいいでしょ?
貴方は、これから素晴らしい所で勉強できるのよ?
お医者様になるのが夢だったじゃない。
やっぱり学校のお友達のせいなのね。
こんなくだらないことに巻き込んで・・・!!
こんな事なら、もっと早くにバンドなんて止めておくべきだったわ。

そんな風にいう母親にユウキの小さな拳は硬くなった。
普段、母の言いなりになっていたユウキは、恐る恐るながらも、口を割った。

(オズオズしながらも精一杯)
ユウキ:・・・う・・・うるさい!!!

母:っ!!な、なんて事を!!
ママは貴方の為を思って言っているのよ!!

(一声目はしっかり、二声目は段々迫力負けして)
ユウキ:勉強なんて何処でだって出来るよ!!
友達のこと・・・悪く言わないで・・・。


徐々に小さくなっていくユウキの声だったが、次ぎの一言は意思の強いものだった。


ユウキ:僕には、やりたい事があるんだ!!

母:・・・・ユウキ・・・

不意にユウキは運転手に意思を表し、そこには迷いがなかった。

ユウキ:運転手さん、目的地を変えてください!!


学校に着くとユウキは会場に走った。


舞台にて

ラン:これは今は、ここには居ないけど私達のために一所懸命になってくれた仲間のユウキに・・・

そんな時、会場の扉が開き息を切らしたユウキが入ってきた。

ユウキ:はぁはぁはぁはぁ・・・
僕・・・僕!!やっぱり歌いたい!!!

メンパー:ユウキ!!!

リョウ:クス・・・遅えよ。
ラン、インカム!!

ラン:OK!!ユウキ♪

ユウキ:うん!!
聴いてください!!ハッピーシンセサイザ!!


ED〜間奏

ユウキ:これから僕達は別々の道を行くのかもしれない。
それでも、皆は僕の大切な仲間なんだ!!





【掲載場所】
こえ部
http://koebu.com/koe/1d05ee715fa8da8d98377836528c1fb5f479c249

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