小説『VOCALOID POKER《声劇専用・台本》』
作者:silence(Ameba)

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【ヴェノマニア公の狂気ver.3 】



ナレーター:静かな夜にそれは、黒く生える草木に重くのしかかって進んでいた。
青い瞳に映る闇は、その月光を捕らえていた。

カイト(♂):・・・紅い月・・・そのまま夜空に溶けてしまいそうな潜血のようだ・・・

ナレーター:旅人が、この街に着いたのは朝靄も消えかかる頃だろうか。


(人がまばらに歩く中、カイトは一人の街の住民に声をかけた)

(女性声・旅の疲れで少し疲労の漂うか細い声で)
カイト(♀):もし?人を探しているのですが・・・

住民:人探しかい?悪いけど今は、それどころじゃないんだ。
尋ね人ならあそこの(かわらばん屋)に行ってみるといいよ。

(話もそこそこに立ち去る街の人間にカイトが歩き出した時だ。
ヒソヒソと話す婦人の話が耳に入ってきた・エキストラSE
)

婦人A:聞きまして?あの噂
婦人B:ええ、何でも若い女性が次々と居なくなるとか・・・
この間も隣の村で被害が出たそうですわ

(その声を聴くとカイトは、遣り切れなさに小さく声なき声を漏らした)
カイト:っ・・

(かわらばん屋に着き、ドアを明けるとそこにはいくつもの人の悲痛が響いていた。)
住民A:うちの娘の行方が解らなくなってしまったんだ!!
住民B:早く女房を探してくれよ!!
住民C:妹が・・・妹が・・・


(町外れにある教会にたどり着く)
神父:おや?旅のお方ですか?

カイト(♀):神父様・・・納屋でもどこでもかまいません。
済まないが一晩、寝床を貸していただけませんか?

神父:町の宿はいっぱいだったのですか?

(何かふくみのある感じに)
カイト:・・・・・・。

(穏やかに)
神父:何か事情がありそうですね。
かまいませんよ、これも神のお導きでしょう。
どうぞ、こちらへ。

(教会内を歩いていると、大聖堂とは別に小さな聖堂があった)


カイト(♀):神父様、この聖堂は?

神父:ああ、そこは昔使っていた所なんですよ。
どうぞ・・・ご案内しますよ。

(聖堂に入る)

神父:立て直した後も、ここだけは手放せませんでした。
私がこの町に来て、沢山の人に出会った場所ですから。

カイト(♀):そうだったのですか、
あ・・・。神父様、これは?

(カイトは燃え焦げた聖書を見つける)

(少し悲しそうに)
神父:・・・・。
もう、何年も前のことです。
私が聖堂で祈りを捧げている時に突然燃え出してしまって・・・。
昔、ここに良く来ていた少年に同じものを差し上げたことがあるのです。
彼の身に何もなければ良いのですが・・・。

カイト(♀):・・・そうですか。


(朝になり)

カイト(♀):お世話になりました。

神父:いえ、これからどちらへ。

カイト(♀):・・・フィアンセの所に行こうと思います。
もうすぐ、挙式をあげるもので。

(にこやかに)
神父:そうですか、どうかお気をつけて、最近物騒なこともありますから。
馬車をご用意できれば良いのですが・・・

カイト(♀):いいえ、一晩お世話になっただけで充分ですから。
お気使いなく、神父様。

神父:そうですか、神のご加護があらんことを。



(夜・・・ヴェノ公邸にて。
屋敷にのドアをノックすると扉が開いた
)
ヴェノ公:これは美しいお嬢さん

(うっとりとして)
カイト(♀):ああ・・ヴェノマニア公様・・・私を覚えておいでですか?
貴方に恋焦がれ、今宵・・・貴方の元へ参りました

ヴェノ公:それは光栄な・・・さぁ、こちらへ。
一緒に踊りましょう。


(カイトはヴェノ公の胸に飛び込む)

カイト(♀):嬉しい・・・やっと貴方の胸の中に入れて・・・

(クスリと笑った後、ナイフで刺された痛みに気が付きます)
ヴェノ公:クス・・・美しい・・。っ!!!

(してやったりとばかりに)
カイト(♂):まんまと掛かったな、ヴェノマニア公爵。

(自分の胸に染まる血を見つめ、声を失い)
ヴェノ公:う・・・ああ・・・あ・・貴様は・・・

カイト:貴様に名乗る名などない。
俺の恋人を返してもらいにきた。
・・・・悪魔め・・・
その薄汚い手で何度、彼女に触れたんだ・・・?


(ヴェノマニア公は、その場で倒れこんだ)
ヴェノ公:うぐ・・・!!!

カイト:欲にまみれた(貴様の顔)にはぴったりだ。


(怒りと達成感から彼もまた、ヴェノマニア公の周りにいた人間達と同じことを口にしていた。
やがて術が解けると次々と女達は屋敷から逃げ出してゆく。
毒に苦しむヴェノ公の脇を一人の少女が通り過ぎた
)


(苦しみながら、途切れ途切れに)
ヴェノ公:・・・っ・・グミ・・ナ・・・待っ・・

(冷たく一言だけささやく)
グミナ:・・・さよなら

(心の声ですから普通に言ってかまいません)
ヴェノ公:待ってくれ・・・俺はまだ何も伝えていない・・・。
君に伝えたいことがあるんだ。
好きだと・・・愛していると・・・
行かないでくれ・・・グミナ。
・・・待ってくれ!!!!


(皆が屋敷を出た後、ひとつの足が、もう喋ることのないヴェノマニア公に近づいた)

(悲しそうに)
神父:ヴェル・・・やはり君だったのだね。
彼は純粋な少年だった。
神よ・・・彼の御霊を救いってください。
そのためならば私は・・・

(どことからともなく風が吹いてきた)

悪魔:神父・・・・
エグリマティアス神父・・・
彼を救いたいか・・・その浮かばれぬ魂を

(驚き振り返る)
神父:!!!!

(神父の持っていた聖書が床に落ちると、聖書はたちまち炎に包まれていったのだった。)


―END―



エグリマティアス=ギリシャ語で罪人という意味です。





【掲載場所】
こえ部
http://koebu.com/koe/17f934dc3f6d0f31529837b5616b10a1c79d6bdd

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