かつて『血界王』と呼ばれていた。最強の吸血鬼の一角として存在していた。
その名で何百年も生きていた。強さ故の寿命の長さ、それはいつしか孤独を招いていった。
寿命が訪れた時は、思った以上に安らかなものだった。身体が灰となっていくが痛みはなく、肩から重荷が下りたような感覚だった。
そして全身が灰となり、俺は俺という存在を終えた。
そう思った。だが、違った。
終わりは始まりで、死亡は誕生だった。
気付けば俺は若い男女(それもかなりの美形)に囲まれていた。
次に気付いたのは身体の異変。何やら軽いうえに思うように動かない。その時、目の前の二人の目に俺の姿が映っていたことに気付き、異変の原因も分かった。
目に映っていたのは赤ん坊。赤ん坊となっていた俺だった。
〜〜
「っ」
目が覚めた。カーテンを閉めきり薄暗く、部屋の片隅にギターやベースなど置かれている、自分の部屋。
「……久々に見たな、あの日の夢は」
あの日、俺が悪魔として生まれた日。
『……ミソラ御飯』
「ん、ディーナも起きたか?」
体内に存在するモノから声が掛けられる。
「おはようディーナ」
『……おはよう』
吸血竜ヴラディーナ。
それが俺の体内に存在する竜の名前だ。
こいつと一緒になったのは14年前、転生して3年目のことだった。
〜〜
悪魔として生まれてから、平凡な日々だった。
変わったところと言えば悪魔・堕天使・悪魔祓いの三つから狙われていることだった。
新しい両親ははぐれ悪魔というものらしく、かなり悪名が高いらしい。しかも実力は最上級悪魔クラスだとか。
そして両親はある神器を持っていた。
それは『吸血竜の心臓』。
封印される程強力なものらしく、両親はそれを盗んだことも追われているらしい。
だが、度々やってくる奴らは全員両親に抹殺されていた。それほど両親は強かった。
だがある日、その平凡は崩れる。
異常に強い悪魔祓いがやって来た。ただそれだけしか言えない。
その悪魔祓いは純粋にただ強かった。能力も何もない、そこには暴力的なまでの圧倒的な強さの壁。
そいつはまず俺を殺そうとした。しかし、殺されたのは俺を庇った母だった。
父はその悪魔祓いに攻撃を仕掛ける。だが軽くいなされ、心臓を抜き手で貫かれた。
そして気付けば俺も殺されていた。同じように心臓を潰されて。
再び味わった死。
だがそれは以前のものと違い、痛く、苦しく、受け入れがたいものだった。
『生きたい……?』
その時聞こえたのはひとつの声。あどけなさと威厳の二つを感じ取れるものだった。
『生きたい?』
どう返事しただろうか。言葉にしたのか、首を動かしたのか、覚えてはいない。
だが、確かに肯定した。
死にたくない、死んでたまるか、と。
その瞬間意識は途絶え、気が付いた時には血塗れの俺と両親の死体、そして血溜まりに沈む肉塊となった悪魔祓いしかいなかった。
〜〜
「さて、行くか」
朝食を済ませ、制服に着替える。
「いってきます」
誰もいない家の鍵を閉め、学校へと向かう。
駒王学園へと。