様々な場所に死角と言うものが存在している。例えば、大手デパートの従業員専用の部屋。『そのデパートで働いている従業員は、清掃員が使っていると思い込んでいる。そして、清掃員は、そのデパートで働いている従業員が使っていると思い込んでいる。』結果的に防犯カメラなども設置されていないので使われていない。そして、そのデパートに買い物に来ている人はその部屋に近づくものなど皆無だ。
燠破 彗燐は、あらかじめ渡されていた鍵を使い普段は施錠されっぱなしの鉄の扉を開いた。
キィィと鈍い音が鳴り響きゆっくりと扉が開いた。その扉の向こうは小洒落たバーのような作りだった。手前には5人ぐらいが座れるソファがある。そのソファの近くには小さいテーブルが設置されていた。ソファの向かって奥にはバーカウンターのような物まであった。扉の外と中では世界が全くもって違った。
「いらっしゃーい。」
入ってきた燠破を見つけたのか、奥から陽気な男の声が飛んで来た。カウンターの側に立っているのは燠破より、背の小さい大学生ぐらいの男だった。首には、携帯電話を5つぶら下げている。その男の通り名は人材派遣。
「あぁ、軽そうに見せてるのは接客業だからさ。話しかけやすい雰囲気作ってる訳。嫌なら、変えるけど?」
「いや、大丈夫だ。」
燠破が、言うと人材派遣はニヤリと笑った。燠破は、預かっていた鍵を人材派遣に投げそれを人材派遣は片手で受け止めケースの中にしまった。人材派遣は、この仕事が終わったら他の場所に移動するだろう。
「で、あんたのお探しの商品は何かな。今は施錠系の『センサー潰し』がお買い得かな。それとも、強盗用の人材と車でも派遣しようか?」
強盗や窃盗は複数の人間で行うケースが多々ある。そうした場合、役割分担をするのが当たり前だが、中には人手が足りないといった問題もある。それを解消するのが人材派遣だ。
「にして、最近はメールが多いいからさ。あんたみたいな直接会いにくるのは久々かな。」
「まずかったか。」
「いや、この程度じゃリスクにならん。あんた、なんか飲んでくか?」
燠破は、カウンターの奥にある棚に目をやり、底にある分厚い缶を見てわずかに眉をひそめた。
「シンナーを飲む気は無い。」
人材派遣は、少しだけ笑った。
「大丈夫だ心配するな。そこにあるのは、全く違うものだ。アルコールはそっちの冷蔵庫だ。」
「まぁ、断っておこう。」
人材派遣は、特に顔を変えずに直様話題を切り替えた。
「で、あんたのお探しの商品は何なのかな。」
「いや、俺はそっちじゃない。」
「?」
燠破は、少し間を開けニヤリと笑った。
「俺は捕まえる方だ。」
人材派遣は、少しだけポカンとした顔になった。しかし、燠破が拳銃を引き抜くのをみると慌ててカウンターに隠れた。
燠破は、構わずに引き金をパンパンパンと3発引いた。
(野郎……ッ!?)
人材派遣は、カウンターのバーに身を隠したまま裏手にあった防弾チョッキやサブマシンガンに手を伸ばす。銃器にマガジンを差し込み、スライドし初弾を装填する。すると、気がついたら燠破からの銃弾は止んでいた。
(弾切れか?)
人材派遣は、サブマシンガンを手に持ちながらカウンターバーを出て銃器を構えた。
そして、何故か人材派遣の喉が干上がった。燠破は、人材派遣に向けて右手を向けていた。そこには、拳銃は握られていなかった。
人材派遣は、サブマシンガンの引き金を引こうとした途端、サァァと、砂のようにサブマシンガンが消えて行った。
「えっ?」
人材派遣が、何が起こってるのか分からないままダンダンと、2発の銃声が鳴り響き人材派遣意識を削り取った。
燠破は、人材派遣が息をしていることを確かめ携帯電話を取り出した。登録された番号へ電話をかけるとすぐに電話が繋がった。
「回収だ。」
電話が応答する。
「これからこいつのアドレスを探る。下部組織に連絡しろ。護送車でも用意しろ。一方通行がいない?」
燠破は、チッと舌打ちをする。
「そうか。あいつは今、あっちに行ってるんだな。仕方ない。海原、お前が出ろ。バックアップは、俺が行く。じゃあな。」
燠破は通話を切った。
燠破 彗燐、一方通行、海原光貴
結標 淡希、土御門 元春
彼ら五人を総称して『グループ』と呼ぶ。