学園テロ編 兄のできないもの
学園都市 外周部
魔術サイドからの襲撃者による正体不明の攻撃が街を急速に侵食していく。
治安を司る<風紀委員>と<警備員>はほぼ壊滅し、一部のメンバーはまだ動いているようだが、大半が死んでいる学園都市の機能をカバーできるほどではない。
幸いにして、攻撃を受けた者は意識を奪われてしまうので、暴動だの略奪だのパニックにはなっていない。
だが、それでもこのままだと学園都市は壊滅するのには変わりない。
<神の右席>、そして、<聖騎士王>の力は、どちらか片方だけでも街を破滅させるだけのものを持ち、また、原因不明の能力者の暴走が各地で起きている事から、今の学園都市が過去例を見ないほど最悪の状態に見舞われているのは、気付いた者なら誰でも分かる。
しかし、学園都市の防衛網は、<警備員>や<風紀委員>といった“表”と、“裏”がある。
そう暗部だ。
今、街中を駆け廻っている非正規の<猟犬部隊>と同じく闇に潜みし者達。
むしろ、彼らこそがこの街の守護者だと言っても良いかもしれない。
(ちっ、アレイスターのヤツ。一体何を考えていやがる。ただでさえ学園都市存亡の危機だと言うのに、外周に侵攻部隊まで控えているとは手の抜き過ぎだぞ)
その1人、土御門元春。
彼は、都市機能が正常に戻るまでの間、街の外で待機しているであろう戦力不明のローマ正教の侵攻部隊を絶対に敷地内に入れないよう食い止めなければならない。
正直、手が足りないのだが、裏の最深部へ住まいし、異能を使うプロの少数精鋭部隊は、もう既に別件で借り出されていてそれどころではない。
協力者はいないし、状況を打破できるスペシャルな兵器や魔術もない。
だが、
(この街には舞夏がいる)
裏の世界など何の縁もなく、ただ家政婦を目指している義妹の事を、彼は思う。
文字通り身体をはり命をかけて戦う理由はそれだけで良い。
(その他全てを裏切っても良いが、俺はアイツだけは絶対に裏切れない)
警備機能が完全に失われたゲートを潜り抜け、単身、土御門は学園都市の外へ出る。
陰陽道を極めた魔術師として、
役にも立たない能力者として、
目的は1つ。
大切な者のいる世界を守るために。
病院
それは不幸な不幸な事故。
何重もの安全装置に、最新の軽量化素材、全自動の速度管理プログラム、などといった耳聞こえの良い謳い文句の保証付きの安全で楽しい遊園地のアトラクション―――になるはずだった。
たった1回の誤作動。
試運転だと言うのに、最大加速で、制限されているはずの限界速度を大幅に上回り、
科学が生み出した最新鋭の機材は、それこそジェット機のような速さを叩き出し、
その勢いで敷かれたコースから外れてしまい、そのまま地面に激突した結果は―――この通り。
コンクリートの破片を撒き散らし、乗車していたある姉弟がグシャグシャに押し潰されてしまった。
「おい! 輸血のストックはまだか!」
病院に運ばれた時には、もうすでに姉の方は口がきけぬ状態で、咄嗟に姉に身を呈して庇われた弟は辛うじて意識がある程度。
それでも医者達は彼らを救おうとした。
消えつつある生命の灯火を―――しかし、
「2人に適合した血液のストックが1人分しかありません……!」
この姉弟の血液型は、B型の……Rh−。
大手術を成功させる為には大量の輸血が必要だ。
しかし、この特殊な血液型を病院側は2人分も用意する事は出来なかった。
「どちらか片方しか救えないのか……」
医者は頭髪を引き千切んばかりに頭を掻き毟る。
例え医者でも、人間だ。
正解が決して出ない問い。
選ぶこと自体傲慢過ぎて誤りなのだ。
だが、時間内に答えを出さないと、『2人とも見殺しにする』という選択肢を選んだ事になってしまう。
そう、選ばなければならない。
「先、生……」
身体中、まんべんなく。
背中から指先まで、鋭い痛みで満たされていた。
感覚という感覚が痛みにすり替わり、執拗に自分の形を刺激する。
だが。
それさえ、徐々に遠のいていく。
この痛みは、自分をこの世に留めている唯一の鎖。
この鎖を手放してしまえば、激痛から逃れられる。
「…お…願………です」
だけど、その声が引き留めた。
「せ、先生っ! 子供の意識が!」
「なっ、……君!」
どくん、と心臓が高鳴った。
痛みに抗うにはあまりに小さな、しかし、無視する事は決してできない声。
―――生きている。
良かった。
ああ、本当に良かった。
あの時、事故に遭い、意識を失う寸前で、神様に祈った。
自分の無事を、そして、何より弟の無事を。
周囲の人間達の会話の内容を、少女は意識していない。
ただ、意識の外で、確かに身体は聞いていた。
まともに、思考が働かないけど、自分達のどちらかしか生きられないのは分かった。
だから、弟の意識が目覚めつつある事を知り、安堵した自分は、ゆっくりとこの痛みの鎖を手放さそうとした。
けれど、神様に祈っていたのは少女だけではなかった。
「先生、お姉ちゃんを助けてください」
ファミレス
<神の右席>。
世界最大宗派ローマ正教の闇の闇の闇の闇の闇の闇の闇の闇の闇の果てに沈んでいる魔術サイドの最大深部の名前。
20億の信徒の中でも知っているものは一握りであり、例え知っていたとしても『知るに相応しくない人物』だと判断された場合は即刻処刑されるほどの秘匿されているローマ正教の中の最終兵器。
その内の1人で、科学サイドの頂点――学園都市全域の都市機能を麻痺させた狂信者が、『前方のヴェント』。
「痛みを感じるヒマなくグチャグチャの塊にしてやんよッ!!」
じゃらじゃらと鎖を揺らしながら、有刺鉄線付きのハンマーを無造作に振り回す。
標的との距離は、軽く5m以上も離れていて、1mを超す得物でも届かないはずだが、
ゴッ!! という爆音と共に風の塊が右から左へ広範囲にわたって突き抜ける。
空気を喰い、壁を破り、細かい残骸を中心に呑み込み、透明ではなく鈍色な風の鈍器。
当たれば身体は肉片を飛び散らせ、血霧を飛沫かせながら砕け散るだろう。
その重たい鉄球のような鉄槌が、上条当麻に横殴りの嵐のように打ちかかってきた。
しかし、それは所詮、幻想だ。
ドン!! と、風の鈍器は、当麻の右手に触れた途端、逆に弾けて消える。
無秩序に乱舞されたハンマーから生み出される風の塊は、真っ直ぐだけでなく、右や左からカーブを描くなど複雑な軌道で迫り来るが、当麻はそれらを右手で殴り、まるで風船を割るかのように簡単に破裂させていく。
あらゆる異能の力を打ち消す<幻想殺し>に、触れて殺せなかった幻想はない。
「……ッ!!」
しかし、それでも上条当麻は中々攻め切れずにいた。
如何に己の右手が異能の天敵だろうと、手が届く範囲にしか効力はない。
だが、このヴェントまでの5mの間合いを詰められない。
(ちくしょう! ズレてんのは分かってんのに釣られちまう……ッ!!)
ハンマーは囮(フェイク)。
衝撃波を生み出すのは、ヴェントの下と長い鎖で繋がった十字架のアクセサリ。
ギラリと不自然な光を放つ十字架の縦横無尽な軌道になぞるように風の塊は誘導される。
それが受けに回り続けている理由の1つ。
攻撃回数こそそれほど多くないが、ハンマーと鎖の動きはそれぞれ異なり、
上から下に振り下ろされたと思えば、鎖はカーブを描き、
真横にハンマーが振るわれたと思えば鎖は下から上へ向かっている。
『攻撃のモーション』と『実際に飛んでくる攻撃の方向』がそれぞれズレているのだ。
少しでも視角を騙されれば、反応が遅れて身体を切断されてしまう。
それでも、少しずつ進んでいくが、
「やっさしいわねー」
あっさりと。
ジリジリと距離を詰めていく当麻を嘲笑うかのように、軽々後退し間合いを広げながら、ヴェントは、囮のハンマーを2度、3度振り回し、本命の鎖をじゃらんじゃらんと揺らす。
危うくハンマーが舌の鎖を掠め、ピアスを引き千切りそうになるが、ヴェントはそんなスリルを逆に楽しむかのように、オレンジ色の火花を散らせる。
「そんなに見ず知らずの人間が心配かしらー?」
そして、その攻撃の対象は、上条当麻ではなく、その軌道と同じく無秩序。
ヴェントは『例え日本という一国家を潰してでも上条兄妹を殺せるなら問題ないのだ』。
「テメェ!!」
「んーふふー? 今更熱くなってどうすんのよ。学園都市が今どうなってっか分かってんでしょ。私が他人を気にするような性格なら、最初からあんな真似はしないわよん」
「くそっ!!」
もし、上条当麻がこの風の鈍器を後ろに逸らせば、背後のあちこちに転がっている仮死状態の上条当麻とは無関係の店員や客がいる。
さらに、直接攻撃を受けなくても、壁や天井、柱にぶつかれば、建物にダメージが溜まり、いつか全壊してしまう。
そうなれば、ファミレス店内にいる人間は全員生き埋めだ。
ただでさえ好き勝手に動き回り、自由自在に逃げ回れる事の出来ない狭い場所だと言うのに、人質を取られて、行動を縛られてしまう。
ヴェントはそれが分かっているからこそ、無軌道に、無秩序に、無差別に、風の鈍器を放つ。
当麻の体は、野球のノックのように右へ左へ翻弄され、<幻想殺し>では防げない壊れたテーブルや床の破片に血塗れになっていく。
そして、一歩前進すれば、向こうは二歩後退する。
絶望的に埋まらない2人の距離。
(くっ、こんな所で手間取っている余裕なんてねぇっつうのに!!)
これは、上条当麻が諦めた時、終わる戦いだ。
今は何とか堪えているが、焦りに精神が溺れていく。
あの<聖騎士王>とかいう怪物が詩歌に迫りつつある。
もしかしたら、もう激突しているかもしれない。
―――いや……
もし、
妹も仮死状態だとしたら、
出会った瞬間に、殺されている。
「ああああああああああぁぁぁッ!」
既に顔中血だらけだった。
おかげで、泣いてもそうと分からない。
生きている限り足を踏ん張らずにはいられず、
戦っている限り手を伸ばさずにはいられず、
けれど、進まない限り胸は張り裂けそうだった。
「ぎゃははははははっ!! たっのしぃーい!」
愚兄をあしらいながらヴェントはニコニコと微笑み続ける。
哄笑と共に、鎖の先端に付けられた十字架がチカチカと、2度3度にわたって点滅が続く。
そこで、ヴェントは、あてが外れたと言った調子で眉を顰める。
「なるほどなるほど、<幻想殺し>、って言ったっけ? その右手、報告に遭った通り効き目抜群みたいねぇ。所々に織り交ぜている私の本命が全く効いてないわー」
ヴェントは“今まで受けてきた事のないほどの直接的な敵意”を浴びながらも、興味深そうに目を細める。
「ま、でも、これで終わりっと」
ゴッ!! と、一層強く風の鈍器を振り落とす。
狙うは上条当麻のすぐ手前の床。
床材がめくれ上がり、大量の木片へと変貌し、鋭い破片となって当麻の体に襲い掛かる。
「ぎっ、アァああああああッ!?」
1ヶ所を刺されるというより、全身を叩かれた。
手足に鋭い痛みが走り、内臓が爆発したように苦い唾液と嘔吐感が押し寄せ、膝がかくりと落ちた。
破片が転がる店内の床に跪き、けれど、倒れる事だけは拒絶した。
荒い息を吐き、朦朧とする頭を振って、必死に意識を回復させる。
「オイオイ、私をブン殴るんじゃなかったのカナ? 早くしないと、アンタの妹は死んじゃうわよー」
「俺は――、俺は――、絶対に詩歌を殺させねぇ」
状況は最悪だとも分かっている。
それでもやらずにはいられなかった。
「どんな無理だって、俺が、詩歌を犠牲にする理由がどんなに立派だとしても、そんなクソッたれな幻想はぶち殺してやる!」
興奮と苦痛の大波に翻弄され、頭が回らなかった。
しかし、たとえ搾りカスだとしても、上条当麻の大事な部分は変わらない。
そして、
「ふん……」
当麻が吠えた時、ヴェントの嘲笑の温度が下がり、
「……それは、姉の命を救う為でもか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……私の弟は、科学によって殺された」
ヴェントは語る。
「遊園地のアトラクションの試運転(モニター)で誤作動を起こしたおかげでね。幼い私は弟と一緒に、2人揃ってグチャグチャの塊になった。科学的には絶対に問題ないって言われてたのよ! 何重もの安全装置、最新の軽量強化素材、全自動の速度管理プログラム! そんな頼もしい単語ばかりがズラズラ並んでいたのに!! 実際には何の役にも立たなかった!!」
未だに当麻の身体機能は正常に働いておらず、混乱している。
それでも、ヴェントを見ない訳にはいかなかった
当麻は戦闘中なのに、動揺したように瞳が揺れる。
「B型のRh−。今、私の中に流れている血は、病学的にはとっても珍しいモノだって医者は言ってたわ。輸血のストックもそうそう簡単には見つからない。じゃあ、病院に運ばれた私達姉弟はどうなったと思う?」
彼女の口から言葉が吐き出される度に、店内の闇が濃くなっていくような気がする。
当麻はその闇に抗うように深呼吸を繰り返し、なのに、それでも徐々に敵意が薄れていく。
「2人分の輸血なんて用意できなかった。方々に連絡しても1人分しか集まらなかった。それまで死にかけのまま待ち続けた私達は、医者達から絶望の話し声を聞いたわ。どちらか片方しか救えないって。そして私だけが生き残った! お姉ちゃんを助けて下さいって、そう言ったあの子はそのまま見殺しにされたんだ!!」
ひょっとしたら、彼女は別の話をしてるんじゃないかと思ったし、そう思いたかった。
けれど、上条当麻自身こそが、それが幻想ではないと認めてしまっている。
「上条当麻。アンタの言う通り。どんな理由があろうと弟が犠牲になるのは間違ってんだ! 血が足りなければ回せば良かったのよ! 何なら私の血を全部回しても良かった!! なあ、上条当麻、そう思うだろ?」
ああ、駄目だ。
否定できない。
上条当麻はそう感じてしまった。
「だから、テメェは……」
「ええ、もう言わなくても分かるでしょう? 私が、世界を統べる<神の右席>を利用してでも科学を潰したいほど憎んでんのよ! 私は弟を見殺しにした科学が嫌い! 科学が憎い! 科学ってのがそんなに冷たいものなら、全部ぶち壊してもっと温かい法則で世界を包んでやる! それが弟の未来を食い潰した私の義務だ!!」
ヴェンドは、逆だった。
どちらも根本は一緒であったのに、大切な愛する者の生死がその運命を枝分かれにした。
妹に生かされ、『疫病神』をやめた上条当麻とは逆に、ヴェントは弟に生かされ、『疫病神』になった。
もし、上条当麻が、三沢塾で上条詩歌を失っていたとするなら、間違いなく魔術を嫌い、魔術を憎み、魔術の全てをぶち壊そうとしていただろう。
今、目の前で対峙しているのは、違う道を選んでしまった己だ。
「最後のチャンスだ」
そして、その言葉は淡々と、けれど、ふざけた調子は一切ない。
ヴェントもまた気付いたのだろう。
いや、最初から分かっていた。
だから、己と置き換えた上条当麻に失敗した道を歩ませない事で、ヴェントは納得しようとしている。
当麻は、断頭台に頭を差し出すように項垂れてしまう。
頭で考える事ができても、それはあくまで想像に過ぎない。
嘘だと思えば、あれは空想だったといつでも逃げる事ができる。
しかし、上条当麻は割り切る事ができずに、正面から受け止めてしまい、共感してしまった。
「今、この場で大人しく殺されろ。そしたら、この学園都市を壊滅させても」
一瞬間を置いてから、ヴェントはもう一度当麻に最初と同じ選択肢を与える。
「妹の命は助けてやる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「―――っ」
当麻は、自分の鼓動が跳ね上がったのを感じた。
そして、手が震えだす。
(……くそ……!)
詩歌が魔弾に撃たれてしまった事を思い出してしまったせいだ。
脳裏にあの時の光景が甦る。
決して忘れる事の出来ない失敗が容赦なく当麻の心を飲み込もうとする。
だから、
(……やっぱり、できねぇ……)
上条当麻は思う。
とてもじゃないが、できない、と。
そう――――
「―――、」
ヴェントが誰かの名前を零し、両手でハンマーを構え、上体を逸らして大きく振りかぶる。
ドンッ!! と。
瓦礫を舞い上がらせるほどの勢いでハンマーを叩きつけ、鎖の十字架が天井から流星の如く地面へ―――
「―――詩歌を『疫病神』にさせるような真似は、死んでもできない」
ゴッ!! という轟音が響く。
明かりのない廃墟のようなファミレス店内に、鉄のような匂いが充満した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ごぱっ、という水っぽい音が、暗いファミレス店内に響いた。
血の塊が、ぼたぼたと床にこぼれていく。
上条当麻―――のではない。
だが、間違いなく鮮血だった。
当麻は右手を頭上へ、風の鉄槌を打ち消した姿勢のまま固まっていた。
「ごっ……」
口元から吐血するヴェントの姿を呆然と見つめながら。
(何が……)
当麻の目の前で、彼女は体をくの時に折り曲げ、口に両手を当てて、ごぼごぼと短く咳き込み、その度に、指の隙間からぬめぬめした赤色の重たい血液がこぼれていく。
「が、は。ああ」
ふらふらした動きで、1歩、2歩と後ろへ下がる。
その仕草に、これまでの余裕はなかった。
演技しているようには見えない。
本当に苦しんでいるように思える。
「……っ!?」
けれど、その血走った目は訴えていた。
―――この裏切り者! テメェの命惜しさに妹を見殺しにするのか! と。
当麻はその視線に押され、この決定的なチャンスに踏み込めずにいた。
それでも、違う、と叫びたかった、が、
「ぐ、ァァあああッ!!」
その前にヴェントはぐるりと方向転換すると、見当違いの方へ有刺鉄線を巻いたハンマーを振り回し、ごばっ!! という重たい破壊音と共に壁に大穴を空ける。
ヴェントはそちらへまるで酔っぱらいが千鳥足を踏むようにふらつきながらも走る。
「待て―――っ!?」
追いすがる当麻に、殴りかかるような乱雑で暴力的な動きで、2発、3発と牽制を放ちながら、彼女は建物の外へと飛び出して行ってしまった。
「……、」
正直、追うべきなのか、逃げてもらって助かったのか、よく分からない状況だ。
(なん、だったんだ?)
ヴェントは建物の外から、この店ごと当麻を押し潰すような事はしなかった。
他の客に気を遣うような性格をしているとは思えないし、当麻の事を裏切り者だと憎んでいる。
おそらく身に起き大変に対処するのが精一杯で、他の事まで頭が回っていないのだろう。
愚兄は、降りかかってきた新たな問題を、少しずつ整理していく。
<神の右席>。
『前方のヴェンド』。
ローマ正教。
そして、<聖騎士王>。
つづく