小説『とある賢妹愚兄の物語 第2章』
作者:夜草()

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閑話 ラブ・プリンセス・ファンタジー 水関の戦い



注:この物語は3義姉妹の平穏な戦記物語っぽいのを淡々と書くものです。過度な期待はしないでください。



水関前 反魔王連合



漢の内部腐敗がきっかけとなって始まった黄巾の乱は、立ち上がった英雄達の活躍により終わりを迎えた。

しかし、乱が平定された後、時の帝アレイスターの謎の失踪により、ガクエントシ内では勢力争いが激化していた。

実権を掌握しようとトウカツリジカイのメンバーが血も涙もない政治の争いを繰り広げ――その混乱に乗じて1人の『魔王』が台頭してきた。

『魔王』はその圧倒的な力を振るい、トウカツリジカイを追い払い、最強の能力を持つ武将――アクセラレーターを味方に引き入れ、ガクエントシを支配する事に成功した。

だが、『魔王』の横暴に、待ったをかける英雄達――『反魔王連合』を結成した。


 

 


で、その『反魔王連合』の集結地、本陣の天幕から少し離れた所に、連戦連勝、負け知らずと巷で話題の義勇軍のベースキャンプが……


「ふんふんふふ〜ん♪」


丁寧かつ優雅に包丁を扱う様はまさに主婦の貫録の長女。


「詩歌さーん、人参刻み終わりました」


「ご苦労様です、美琴さん。次は鶏もも肉をお願いします」


どんどん大量の野菜を捌いていく速度は雷光の如しの次女。


「ううぅ……しいかー、目が沁みるー」


「ふふふ、インデックスさん、玉ねぎを切る時は……」


要領は良くなく、手つきもたどたどしいが一生懸命に包丁を振るう三女。


「さて、と」


およそ30人分。

しかし、一騎当千の彼女達には容易い事。

山のような野菜と肉を3人がかりであっという間に刻み終える3義姉妹。

そして、長女は直径1m以上はある巨大なフライパンの柄を握り締めると、微笑みながら軽々片手で持ち上げる。


「ふふふ、これで我が策成れり」


にこにこしながら、おたまで掬いあげた油をフライパンへ流し込むと、じゅわっと言う気持ちの良い音を合図に、長女は声を上げる。


「今ですっ!」


「「はいっ!!!」」


頷くなり、まな板の刻み野菜を次々フライパンへ投入する次女と三女。

長女はフライパン鍋を大きく煽った途端、色とりどりの野菜達が宙を舞って、見惚れるほど鮮やかな手捌きに、周囲の仲間達から歓声が上がる。


「さあ、いざまいらん! 戦国の|菜(ツァイ)!」


演武のようなフライパン捌きと、踊子のように軽やかなステップ。

長女が鍋を振るい、次女が卵を割り、三女が皿を並べていき……3義姉妹の鮮やかな連係プレイであっという間に仕上がったのは、できたてほかほかのオムライス。

そこに真っ赤なケチャップではないが、果物をふんだんに使って作ったソースで、


「『水関』っと――はい、完成です!」


さあ、皆で水関を食べちゃいましょー、との合図で皆さん一斉にいただきます。

一応、この世界は仮想空間で、この前に現実世界で食事をしたはずなので必要なさそうなものだが、定期的にご飯を食べないとステータス画面に提示された満腹ゲージがどんどん減っていき、力も減少、さらには空腹を錯覚してしまうという何ともリアリティなのだ。

だがしかし、


「……何だろう。これから戦争が始まんのに、すっげー気が抜けてくる」


これはベースキャンプ(軍営)であって、キャンプじゃない、ましてやキッチンじゃない。

緊張感皆無、ある意味頼もしいけれど、すっごく心配になる。

和気藹々|一家団欒(アットホーム)な風景を見て、前回、ご主人様から都落ちした一兵士は思わず頭を抑えた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



遡る事1時間前。



反魔王連合軍大本営。



「ではこのわたくし……コンゴウミツコが、連合軍の総大将になってさしあげますわ♪」


金ぴかに光る衣装を身に纏い、不自然なくらいサラサラヘアーを颯爽となびかせたミツコが、キヌホとマアヤを両脇に従えながら、高飛車なお嬢様っぽく、口元に扇子をあててそう宣言した。

この会議の主な出席者は、

マナビヤノソノの雄、ミツコ、その武将キヌホとマアヤ。


「なら、我々は後方支援をやらせてもらいけるわよ」


ネセサリウスを治めるローラ、その補佐ステイル。

ネセサリウスの客将アマクサシキ代表のカオリ。


「まだ序盤だしぃー、私達は中盤で頑張るゾ☆」


トキワダイを統治するミサキ、その配下六花衆。


「じゃあ。私は」


ミサワジュクのアイサ。

そして義勇軍の3義姉妹、詩歌、美琴、インデックス、その仲間、クロコ、カザリ、ルイコ―――で、おまけの兵士が1人。

なんと、ほとんどが女の子である。

というか、あそこの会議中だというのに煙草を吹かしている不良神父を除いて、今まで会ってきた知り合い全員性別は女。

自分達の記憶から選出されているのだそうが、何故こうまで偏っている?

一応、この世界は戦争物であるはずなのだが、血や汗など生々しいものではなく、この軍略会議も、何故か女子のお茶会のように思えるからあら不思議|(でも、どこか黒い)。

とりあえず、ゲームクリアしたら製作者のアンケートにはもう少し役割を考えろと書いておこう、と一兵士は思う。


「ならば、誉れある先陣は、詩歌様方にお願いしますわ」


 

 


そんな訳で始まった城門攻め。

総大将マナビヤノソノから援軍をもらっているも、城を落とすにはその3倍の兵力が必要である。

つまり、連合軍内でも最小の勢力である自分達は貧乏くじを引かされてしまったわけで、今までの賊連中とは違う軍兵相手に、さあ、どうしたものかと悩む―――



「やってきたな連合軍っ!」



―――はずだと思っていたのだけどなぁ………



「万の軍勢が押寄せてこようともっ……」



どん!! と“開け放たれた”城門の前に立つ漢一匹。



「この滾る根性がある限り、1人たりとも通さんっ!!!!!」



バウーン!! と特撮的な効果音と共に、暴走猪将軍――グンハを中心にカラフルな爆発が巻き起こった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「おい、どうして門の前に1人で突っ立ってんだよ。こういうのって、普通、自分の陣地に引き籠って、それを俺らが挑発何やらでどうにかして抉じ開けるのがセオリーなんじゃねぇの!?」


一兵士Tは叫ぶ。

非常に勇猛だが、勇猛過ぎて無謀。

将軍としては残念なくらいに失格だ。

しかし、残念ながらあの漢は|常識(セオリー)の通じる相手ではないのだ。


「さあっ! かかって来い! 来なければこっちから行くぞ!!」


「ええーっ!? ちょっとこのゲームどうなってんだよ!?」


しかも、守将のはずなのに、関を放棄してこちらに突貫。

そのまま、一兵士Tのいる一団に、その『金剛爆斧』を振り下ろし、


「すごいパーンチ」


「パンチじゃねぇし―――ぐおっ!」


ドバーン!! と軍勢を一振りで薙ぎ払った。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



そうして、当初予定されていた城門攻めではないものの、連合軍と魔王軍との戦が始まる

亀の子のように籠っていなければならないはずの将、グンハが飛び出し、馬も使わず高速移動であちらこちらで土砂を舞い上げ、地割れを起こしている。


「さぁーっ! 皆のものこの『赤風』に続けーっ!」


さらにもう1人の将、ヒナが偃月刀を携え、第2陣として門から飛び出す。

侵略する事火の如くといった調子で、一気呵成に連合軍を攻め立てる。

空城の計ではないけれど、今の水関はすっからかん。

これでは、簡単に関を落とせてしまう。

この猪突猛進タイプの2人を守将に据えた魔王軍の失態である。

と、思いきや、攻撃は最大の防御というのか、案外連合軍は攻めあぐねており、中々戦況は芳しくはない。

今現在、乱戦で、小康状態といったところで引いては押すの繰り返し。


「このままだとジリ貧ですね……―――よし! ここはあの秘密兵器を投入しましょう!」


義勇軍の大将、詩歌は決断。


「美琴さんはカザリ、ルイコ、クロコを率い、マナビヤノソノ軍と協力して将グンハの足止めを! 何なら後ろで暇そうにしてるトキワダイに押し付けてもOK」


「よし!」


主将の1人である美琴と頭角を現しつつある副将3人を連れて、出陣。


「インデックスさんは、アニェーゼ部隊を率い、同盟軍ネセサリウスのステイルとカオリに援軍を仰ぎ、将ヒナをお願いします!」


「うん!」


もう1人の主将のインデックスと黄巾の乱で仲間にした、アニェーゼ、ルチア、アンジュレネを連れて、出陣。

最後、詩歌はくるっと新しくコンクリートジャングルで仲間にした者達へ、


「そして、準備万端ですか―――」


「バッチリだよ、ってミサカはミサカは愛機から手を振ってみる」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「はっはっはー、この『赤風』と人馬一体となったヒナ様を止められるものは存在しないさね! 命が惜しくばそこをどきなーっ!」


真っ赤な|機械馬(バイク)を駆り、次々と連合軍を轢いていく爆速のヒナ。

このまま一気に連合軍総大将を狙―――と、その時だった。


「ん? 何だ……まるで、地鳴りのような音が―――」


『赤風』に乗っていて気付きづらかったが、地面が揺れている。

一端止めて、震源地かと思われる方角へ振り返ると





ドドドドドドドド――――ッ!!!!!





「うわぁぁぁあああっ!?!?」

「助けてくれえぇぇええええ!?!?」

「ば、化物だぁぁああああ!!」


兵達の怒号が聞こえる。

そのような小さな音を全く気にも留めず、『化物』は大津波のように走る。


「さあ、命が欲しければ、道を開けなさいっ!!」


自分達を止められるモノなど、同じ化物以外ありはしない。

彼女が敵軍に警告を発するのは何故?

機体が傷つくからではなく、相手が跳ね飛ばされるからだ。

自分の邪魔になるからではなく、怪我をしたくなかったらどけと警告しているのだ。


「行きますよ、ラストオーダー! ミカ、イモウト、19090号!」


詩歌がその先頭の一機の上に立ち、前方に群がる魔王軍を見下す。


「はっはっはー! 南蛮のコンクリートジャングルからやってきたミサカ軍のお通りだーっ! ってミサカはミサカは『|駆動鎧(ゾウ)』で魁となって1番乗りを目指してみる!」


と、詩歌を頭の上に乗せているのは、義勇軍がここに来る前に可愛いモノを捜して三千里。

詩歌のセンサーに反応して、寄ったコンクリートジャングルで食べ物で|懐柔(ゲット)したミサカ軍の王――ラストオーダーの愛機の、地元で『ゾウ』と呼ばれるどこにも動物らしさのない武骨で巨大なパワードスーツ。


「いえ、ここで一番乗りを果たすのはこのミサカ9982号です!」

「何! ミサカ10032号だって負けていられません!」

「ミ、ミサカ19090号も……」


文字通りの鎧袖一触。

その鉄の塊が十数機も、自動車にも負けない速度で進軍し、弓も剣も弾き、どんどんと魔王軍を蹴散らし、あるいは踏み潰し、撥ねていく。

まさに騎馬軍団ならぬ、天下無双の駆動鎧軍団。

このままいけば関を破壊してしまうかもしれない。


「何呆けてるんだよ! 皆! 早くアレを止めるんだ!」


呆気にとられたもののヒナは即座に命を出す。

しかし、そこへ、


「ここから先は通さないんだよ、ヒナ」


「ぐっ、貴様は義勇軍のインデックス」


身長の倍はありそうな蛇矛を振り回す、インデックス。

その武勇はガクエントシにも聞こえている。


「この『赤風』、止められるものなら止めてみな!」


爆音を轟かせて突撃。

いくら怪力を持っていようが、その小さな身体でこの爆速のヒナは止められない。

誰もが宙高く跳ね飛ばされる未来を予想した、


「それは想定済みだ」


轟!! という炎が酸素を吸い込むと同時に、ヒナの行く手を阻むように火柱が噴き上がり、作り出すのは巨大な人型。

この戦う炎の軍師――ステイルの必殺戦術、『|赤壁巨人の計(イノケンティウス)』。


「ちょ、待ていなのよステイル!? このままじゃこっちの守備が手薄過ぎてやられちゃうーっ!?」


優先度の低い自軍の大将など放置して、同盟軍のあの子の元へ。

そう、これがこの男のあり様で―――


「この子は僕が守―――「だらっしゃーっ!」―――ぐはっ!?」


だけど、同じ火属性で炎の扱いなら誰にも負けない焔の将、ヒナとは相性が悪かったのかいとも簡単に突破され、この突貫暴走娘に努力虚しく轢かれてしまう。

ガタイは良いが文化系の彼は、そのまま竹トンボのように回転した後、地面に落下。


「よーしっ、とっとと道を開けやがれーっ!」


不敵にヒナは笑う。

例え力が互角だろうと、速さと重さはこちらの方が上。

ただし――――過保護な保護者が一人とは限らない。



「―――<唯閃>!」



インデックスの背後から『赤風』以上の速度で飛び出した人影。

そう、一騎当千と名高いアマクサシキの猛将、カオリ。

その超神速の抜刀術は音さえも置いてけぼりにし、『赤風』にうっすらと一筋の線が……


「また、つまらぬものを斬ってしまいました」


爆発。

ちゅどーん、とギャクチックにヒナの身体が宙を舞い、そこへ目がけて蛇矛が、



「|三毛猫粉砕撃(スフィンクスアタック)なんだよっ!!」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



水関での第一戦は、(グンハを押し付けられた)トキワダイと(援軍を最優先したため)ネセサリウスが大打撃を受けたものの義勇軍の反則的な活躍により、連合軍の勝利となった。

だが、まだこれは初戦。

何故なら次の虎牢関には最強の将――アクセラレーターが控えているのだ。

と、その前に、


「痛っててて……」


前回、都落ちして一兵士になり下がり、初っ端、グンハの一撃で吹っ飛ばされた上条当麻。

ボロボロになりつつも彼は立ち上がり、この戦場の荒野――あの家庭的だけど、どちらかと言えば魔王側じゃね、みたいな自軍へ自分の足で戻る。


(けど、今更俺が必要なのか……)


今の義勇軍には、桃園の三義姉妹とそれを支える軍師に武将、アニェーゼ部隊に、さらには鋼鉄の駆動鎧軍団――ミサカ軍。

それに、いつの間にネセサリウスとも友好な関係を築いていた。

そんな中で自分のような武将でも軍師でもなく、足止めすらもできなかった人間が必要なのだろうか、と。


「そこのお兄さん、ちょっと待って欲しいんだけど」


不意に後ろから声をかけられる。

振り向くとそこにいたのは真っ黒い衣装に身を包んだお姉さん。


「……え、っと、俺に何の用ですか?」


「ねぇ、私達の軍にスカウトされて欲しいんだけど」


「俺を!?」


驚く当麻に、クスクス笑うその表情を隠すように手に持った黒い芭蕉扇を揺らしながら、スーパー軍師――セリアは言う。

私達は、謎のシスコン軍、略してシン。

この世界で、自分達は最終的に勝利する運命であると。

そして………



「お前には我々の仲間になる資格がある。それに、この世界を制するにはお前にしかない力が必要だから」



つづく

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