小説『時の罪』
作者:裏音(雨月夜ノ歌声)

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【プロローグ】

この世界は、普通とは違っていた。

どこがどう違うって言われたら、あんまりはっきりとは答えられない。
見た目は普通。行動も、全部普通だから。
だけどあえて言うならば…この世界の時間は、鍵が動かしているということ。

鍵。それは、人々の生活の必需品。誰もが使う便利な道具だ。
鍵の使い方は、まず鍵を正面に向ける。そして、自分の行きたい時間を言う。
そうすれば、その時間へ飛ぶことができる。飛ぶのは自分だけであるから時間が狂うことは無い。
勿論、鍵が無くても、時間は進む。ただ、早く事を終わらせたい。前の失敗を直したい。
そう思うから鍵を使うのだ。鍵を使わなかったら、普通の世界と同じように時間は進む。
けど一人だけ、この世界の住人でありながら、鍵を使ったことのない少女がいた。
名を、紅蓮(ぐれん)と言った。真っ黒な真珠のような瞳に、滑らかな青い髪。
普通に見れば、とても美しい容姿だ。本人はあまり気にしていないが。
紅蓮はいつも鍵を使わない。何故だか本人も分からないし、考えたことも無い。
分からないのに、使わない。でも紅蓮は、特に不満もなかった。
何故なら心が強かったから。鍵は、心の弱い者が使うと思っているから。
鍵。それは、人々の生活の必需品で有り、

―――人間の時間を狂わすものでもある。

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