小説『時の罪』
作者:裏音(雨月夜ノ歌声)

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【1.死神と人間】

ある日、紅蓮は森にいた。町から離れた小さな森。その中心には、鍵を作った人間の住んでいた神殿があった。
人々は言った。「時間を自由に行き来できる鍵を作れるのは、神か天使だけ」と。
でも紅蓮はそうは思わない。神と天使以外に、時間を自由に行き来できる者を知っているから。
「…ねぇ、いつまでそこにいるの?」
神殿を向いたまま喋る。紅蓮の後ろから、一人の青年が現れた。風が止まった。
「やっぱり気づいてたか」
青年は青い瞳に、紅い髪。そして、スーツを着ていた。何故かその青年からは、重い空気が漂っていた。
「当たり前だよ。一体何年、一緒にいると思ってるの」
紅蓮は振り返らずにそう言った。青年は苦笑している。風は止まってるはずなのに、何故か青年の髪がなびく。
「何年って、たったの4年だろ」
「人間には、とっても長い時間なんだよ…」
紅蓮は今年で14。4年ということは、青年とは10歳の頃に出会った計算になる。
青年は紅蓮の横に並ぶと、空を見上げながら続けた。
「そうとも限らないと思うけどな。だってお前らは、鍵を持ってるだろ?」
「私が鍵を使ってないの、知ってるでしょ? 楼」
少し怒ったように、楼を睨む。楼は、わかったとでも言うように、軽く手をあげた。
「嗚呼…それもそうだな」
風が吹いた。そして、急に楼の姿が無くなる。紅蓮は、すぐさまその姿を目で追い、探した。
「神殿の上、楽しいぞ」
紅蓮が目を上に向けると、楼が空を飛んでいた。真っ黒な羽を羽ばたかせて。
「死神が、そんな神聖な場所に行っていいの?」
死神。そう、楼は紅蓮と一緒にいる死神なのだ。一緒にいる理由は、紅蓮の過去にあるようだが。
「神聖、神聖って、神殿だから神聖って思うだけだろ?」
それも最もな話。紅蓮は、小さくため息をつくと、ずり落ちてきた眼鏡を直した。
実際のところ、紅蓮自身も、神殿を神聖な場所とは思っていない。ただの、邪魔な建物。
そして紅蓮は、飛んでいった楼を追うように神殿へと入っていった。

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