「ふんッ」
あれから数分経ったにも関わらず、いまだに頬を膨らまして一人怒っている賢太。
一見すればツンデレな女の子が嫉妬しているような感じの絵だが、実際はキレやすい高校男児がゆとりの同級生に鉄拳制裁した後というだけである。
その横で友人三人は赤くなった頬をさすりながら賢太の顔色を窺っていた。
「ううう〜賢太の奴まだ怒ってる……」
「激怒って奴だな」
「激怒ぷんぷん丸だろ」
「黙れやゆとり共」
更に賢太の機嫌を悪くする三人。
正確には郁葉は怒られた事を素直に反省しているそぶりを見せているのだが、残りのメガネは激怒だの、ごつい奴はぷんぷん丸だの火に油を注ぐ。
一連の行動とは無関係だった竜樹もさすがに居心地の悪さに辟易し始めたので、とりあえず三人をフォローする事にする。
「落ち着けよ、また周りに怒られるぞ?ん?」
「あぁ……クソ、イライラする」
どうにかして賢太の機嫌を取ろうとするが、いつも上手くはいかないものだ。
何はともあれ、殴られる心配は今のところなさそうだ。
郁葉はホッと一息ついて窓の外を見る。
真ん中に座っているのでちらちらと隆弘と昂矢のアホ面が視界に入ってしまうが仕方ない。
今は夜、外の景色は真っ暗である。
高度何千フィートからじゃあ下の景色が見えないというのも無理は無い。
「……あん?」
ふと、そんな真っ暗やみの中に何かが見えたような気がした。
まっ白い何かと真っ黒い何かが……追いかけっこしている、そんな光景が。
郁葉は一瞬自分の目を疑ったが、その真偽を確認する前にその異様な光景は消えてしまった。
見間違えか?いや、そんなはずは無い……あれは一体……
「おいコラロリコンぺド野郎」
ふと隆弘が郁葉に話しかける。
「違う、可愛いものが好きなだけだ……ってそうじゃねぇ、おいやべぇぞ隆弘、今トンデモねぇのを見ちまったかもしれねぇ……!」
ドドドドドドドドドと鬼気迫る様子で訴える。
「なんだ、薬でもキメたのか?」
「お前俺の事嫌いだろ……違ぇよ、UFOだよ!しかもドッグファイトしてたぜありゃあ」
むしろお前が薬やってるだろと言われそうな隆弘に説明する。