――まっ白な空間の中、彼女は一人焦っていた。
西洋人形を何倍も美しくしたような顔は焦りとは無縁な無表情を装っていたが、心臓がオーバーヒートするんじゃないかというくらい鼓動が速くなっていたし、何より挙動が不審だった。
何かをブツブツと呟いては、手にした剣をガンガンその辺の柱へと打ち付けているし、立派な純白の翼は意味も無くバッサバッサと荒ぶっていて、どう考えても近づける雰囲気ではない。
「これは怒られる……」
やっと聞きとれた言葉がこれである。
彼女は何かしでかしたらしい。
何かをしでかした彼女はしばらく考え込んで、まるで職人が一本一本丹精込めて作ったような金髪をわしゃわしゃと掻き毟ると急にスッと背筋を伸ばして開き直ったように凛々しいオーラを纏った。
「やるしかない、これはやるしかないです」
それだけ言うと彼女は後ろを振り返る。
そこには見渡す限りの黒い何かが蠢いていた。
日本人なら卒倒するようなその何かは、どうやら年季の入った家庭によく出没するアレではないらしい。
もっとでかく、禍々しい何かであった。
そう、まるでゲームにでも出てくるようなクリ―チャー。
彼女は一人、その大群と対峙すると、どこから現れたのか、新しい二本目の剣を左手にぎゅっと握って一言。
「……本っ当、貴方達は何年経ってもゴミ以下ですねぇさっさと死んでください」
一言にしてはやや長い。
彼女はこちらに向けて突撃し出した気持ち悪い物体達を面倒臭そうにただ見据える。
また大目玉食らうんだろうなぁ、などと考えつつ、彼女は自分の仕事に取りかかるとした。