小説『デスゲーム』
作者:有城秀吉()

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なかなか苦しめられたが、最後は一対一。相手は本気になった街の主。負けても不思議ではないが、わたしには根拠のない自身が満ち溢れていた。
 ……子どもを抱いているからかもしれない。
 それに、彼女には言いたいこともある。さっさと決着をつけようじゃないか。
「うん、決着つけよっか、お姉さん」
 その声は割と近くからした。
 穴の上に、木苺が立っていた。
「楽しかった? お姉さん」
「楽しかったよ、とってもスリルがあって」
 でもさあ、と少し間を空け、続ける。
「さっきの話じゃないけど、子どもたちも楽しませなきゃ。隠れさせるよりも自由に飛び回らせるべきだったんじゃない? わたしが子どもたちのいたドームに入ったとき、彼女らは待ってましたとばかりにはしゃいでいたんだけど」
「でもそれじゃ勝てないもん」
「あまり変わらないでしょ。最後にあなたが立ちふさがるのは同じなんだし、みんなが楽しくないと」
「きいは勝ちたかったんだもん」
「街のために街の主に少々の傲慢さは必要だと思ってるけど、それはただのわがままだと思うよ」
「見解の相違だね」
「あなたとグループ組んだら間違いなく音楽性の違いで解散してたと思う」
 ……。
「「意見があったね」」
 二人でくすくすと笑う。
 そしてわたしたちは、同時に動き出した。


─────────

 遊び終えると、木苺は楽しそうな表情を見せた。
 しかしハッとして、すぐに照れ隠すようにしてふてくされた。
「あ〜疲れたわ。お姉さんお茶にしない?」 
「そうだね、疲れた」
 お互い疲れ果てた体を引きずって子どもたちに支えられるようにふらふらと煙突屋根の家に入った。
 家に近づいた時に気づいたのだが、この家、お菓子の家がモチーフになっていた。
このセンスにはちょっとついていけないが、ここが子供たちのお気に入りなのだという。
 たしかによく使っているようで、子供たちのと木苺の席、来客用の席、ときちんと決まっており、入るなり子供たちがテキパキと準備してくれた。
ただ、木苺の弟子だという子供達と一緒にケーキを食べている木製の角テーブルの後ろには迷い込んだ子供が二人は入りそうな牢屋が圧倒的な存在感を醸していて、少なからず恐怖を感じた。あれはきっと木苺の心の闇に違いない。だからわたしはあえて何も聞かなかった。
べ、別に怖くて聞けなかったとかじゃないから。違うから。
「そ、そう、誰にでもダークサイドはあるのよ!」
「フォースを身につけてから言いなよ、ジェダイのお姉さん」
 真正面に座る木苺の冷静なツッコミにハッとする。
「フォース!」
 誤魔化しに叫ぶと、子供達が驚いて一斉にわたしの方を向いた。彼らの顔の動きに一瞬遅れて、テーブルの中央に立ててあったシュガースティックの一本が、ひとりでにわたしの手に収まる。
「「「おお〜」」」
 子供達から歓声が上がる。
「お姉さん、ジェダイなの?」
 右側の列の隅──つまり隣の子がキラキラした目でわたしを見上げていた。
「違うわよ。そのお姉さんはジェダイじゃない。手癖も運も悪いジャー・ジャーがお似合いなのよ」
「お姉さん、ジャー・ジャーなの?」
「あなたたち、こんな性悪女といてなんでそんなに素直なの」
 やっかいすぎて泣けてくる。
「でも器用だね、お姉さん」
 木苺は何かを聞きたそうにしているが、わたしは目を合わせない。それを見る子供達は不思議そうな顔をしていたが。
「そういえば、この子達の年齢は?」
「全員ここに来てまだ二年未満の子達」
 つまり、ほぼ見た目と違わぬ年齢。
「木苺がお世話してるの?」
 まさか都合のいい労働力として無理に働かせているんじゃ──
「何か失礼なことを考えているみたいだけど、きいは?数板(かずいた)?の前でオロオロしてた子達を保護して面倒見てるだけだよ、お姉さん」

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