小説『デスゲーム』
作者:有城秀吉()

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「そして夜な夜なその幼子の柔肌に無慈悲なムチを狂気の笑顔とともに打ち込んでいる、と?」
「お姉さん、子供達が怖がるから怖い顔で怖いこと言って自分で青ざめるのやめてくれる?」
「ああ、あなたたちそんなに怖がらなくていいのよ。半分冗談だから」
 身を引く子どもたちに優しく言う。
「半分?」
 木苺が何か疑問を呈したが無視する。
「で、どういう経緯で保護してるの?」
「きいが?数板?の花壇の作成者っていう話はしたよね? きいはその花壇のお手入れのために定期的に中央に通ってるの」
「ああ、その花壇を手入れしてる時に会った子供たちを無差別に保護してるってこと?」
「ううん、そんな卑猥なお姉さん(ロリコン)みたいな真似してないよ」
 無差別に保護、っていう文句が卑猥に聞こえたらしく、すごく嫌な顔をされた。
なんだ、木苺にも意外に純粋なところがあるじゃないか。
「見捨てる子と連れてく子の選別くらい、するに決まってるでしょ、お姉さん?」
 いや、やっぱりこの子怖い。後ろの牢屋が意味深に感じる。
「選定基準は?」
「その時の気分しだいだよ?」
「あぁ、あなたの気分一つでいたいけな子達の一生が左右されるというのか……!」
 膝をついて神を仰ぐような大げさなポーズをとって言った。
「お姉さん、現実で演劇とかやってたの?」
 隣の子が可愛く首を捻りながら聞いてきた。が、わたしがそれに答えるより早く、木苺が口を挟んだ。
「違うよ、お姉さんはね、変なんだよ」
「いいえ、わたしは至って平凡です」
「変でしょ。こっちに来たその日にはもう飛べるようになるお姉さんは」
 少なくとも平凡じゃない、と尻すぼみに呟く木苺。
「あれ? わたしそのエピソード、あなたに言ったっけ」
「お姉さん、いつかの試合の後のインタビューで答えてたじゃない」
 そうだったか? まあ、言った方より言われた方が覚えてるっていうのはよくある話だから、きっと言ったのだろう。
「よく知ってるね。もしかして木苺ちゃん、わたしのファン?」
「……ううん、違う」
 あ、そう。
「がっかり?」
「いや、ファンだったら困ってた」
 どこの世界でもファンはありがたいと同時に怖い。
「心配しなくても、きいはファンになる方じゃなくてなってもらう方だよ」
「まあ、それもそうか。この街だって、あなたのファンで出来てるようなものだし」
 わたしとしては少し皮肉も込めて言ったのだが、
「うん。ここにはきいを称えてくれる人しかいないんだよ、お姉さんを除いてね」
 木苺は満面の笑顔で誇らしそうに胸を張った。しかしどういうわけかすぐに哀しそうな顔をした。たった一瞬だったけれど。
「はい、みんな食べ終わったらカップとお皿真ん中に集めて〜」
「「「「は〜い」」」」
 木苺の号令に、子供たちと一緒に返事をする。
テーブルの真ん中にティーカップと少し汚れた数枚の皿が重なって集められた。
「さて、お姉さん」
 木苺がテーブルを立ち少しニヤリとして言った。
「フォースとはまた違った芸で、この皿をあそこの皿洗い機に入れてくれない?」
 私の左側──キッチンに置いてある洗浄機を指差す木苺のその提案に、子供たちが「わあ!」と楽しそうな期待のこもった歓声を上げた。
 思わずひるむ。こういうの、苦手なんだけど。しかしどうもこれは断れなさそうな雰囲気だ。
わたしを見る子供たちの瞳と木苺の憎たらしいニヤケ顔を見比べて逡巡していると、
「その様子を見ると、出来なくて困ってるっていう感じじゃないね、お姉さん?」
 その何かを確信した上で煽るような言葉に子供たちの瞳はいっそう輝きを増し、「やっぱり!」と歓喜の声が上がる。
 森野木苺という女は純粋な人間を操るのに長けているようだ。なんというハイル木苺(ヒットラー)。
この場は逃げられないようだ……。仕方がない。やるのならしっかり子供たちを喜ばせてあげようじゃないか。
「じゃあ木苺ちゃん、洗浄機の蓋を閉めてきてくれない?」
「自分で閉めたら?」
 即答で非協力的宣言とはなにごとか。
「だってお姉さん、自分のショーでしょ? きいは自分のことは自分でやれって教わったよ?」
 お姉さん、非常識人なの? という言葉が後ろに隠されているような気がしてならない。
 ああもう憎たらしい。いやらしく人を貶めないとあなたは生きていけないんですか?
「人は一人では生きていけないとも習いませんでした?」

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