小説『デスゲーム』
作者:有城秀吉()

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「ショーはしなくても生きていけるよね、お姉さん?」
 あんたがしろって言ったんだろうが! と言ったら「きいは提案しただけで、やるって言ったのはお姉さんだよ?」とか笑顔で言ってくるに違いない。
 どうしてもこの女には口で勝てる気がしない。
「いやだなあお姉さん、そんな泣きそうな顔しないで。冗談だよ?」
 あなたほど冗談もほどほどにしろという言葉が似合う人をわたしは見たことがありませんよ。
「「「お姉さん泣かないで」」」
「ありがとう子供たち。あんな女になったらダメだからね」
木苺はクスクスと笑ってキッチンに向かい、洗浄機の半透明の蓋をスライドさせて閉め、そのまま洗浄機の横に立っている。
「では子供たち。よ〜く見ててねー」
 黙って頷き、息を飲んで皿とカップに集中する子供たち。
 思わず微笑んでしまう。
洗浄機の方からロリコン、と聞こえた気がするが、きっと気のせい。
「まず、カップとお皿を、フォースで浮かせます」
 今更だが一応言っておくと、もちろんこれはフォースではない。ジェダイのように手をかざす必要もないし。
「そしてこれを、洗浄機に向かって移動させていきます」
「えー、ぶつかっちゃうよ〜!」
「お皿割れちゃうよ!」
 ヒーローショーでヒーローを応援するように子供たちはきゃいきゃい喚く。
 皿が洗浄機のすぐ前、木苺の真横に来た所で止める。
 木苺は意外にも、真剣な表情で浮いた皿を凝視していた。
「では行きます」
 目を閉じて、はぁ〜、と遠くからハンドパワーを込めるフリをする。思わせぶりにためると室内が静まり返りった。子供たちの誰かがゴクリと唾を飲む音が聞こえた時、「はっ!」と気合を込めるフリをして一気に、目にも止まらぬような速さで洗浄機の方へ動かした。
 一瞬の間があって、小さく陶器の割れる音がした。
 ……え、割れる音?
「「割れた!」」
「でも、お皿もティーカップも無いよ?」
 子供たちが洗浄機に近づいていく。
 その横では、木苺がこちらを睨んでいた。
「お姉さん、中には何も無いんだけど。お皿、どこにやったの?」
 木苺は空(・)の洗浄機を開けてみせた。子供たちは周りを見回している。
「あっれー、おかしいなぁ。その中にあるはずなんだけどなぁ」
 ああ、我ながら非の打ち所のない棒読みだ。
「……まあいいか。でも、音は間違いなく聞こえたから、もう皿は割れてるんでしょ?」
「あ、それあたしも聞こえた!」
「「「あたしも!」」」
 ああ子供たち。君たちは素直過ぎる。
「お姉さんが人探しに必死と言えるほど一生懸命なのはわかったんだ」
「そ、そう。もういますぐにでも会いたい人なのよ」
 でもね、と誰の声か一瞬わからないような低い声が聞こえた。
「あれ、わたしがこの子たちのために中央の市場で買ってきたものなんだ」
 まあ、この世界で買うっていう行為はありえないんだけど、今それを言ったら火に油だろう。
「ああ、市場ね。うん、わたしが同じの貰ってきてあげ──」
「あぁ?」
「──てもダメですよね。そりゃあね。思い出が詰まってますもんね、ええ」
 顔が怖いよ木苺ちゃん。ああ、お願いだから牢屋には入れないで。
 わたしの願いが届いたのか、怒りの形相はすぐに引っ込み、笑顔が戻ってきた。
 ああ、その顔の方があなたらしいよ。
「お姉さん」
「ん?」
「しばらくこの街の奴隷になってね」
 うん、あなたらしいよ。

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