小説『デスゲーム』
作者:有城秀吉()

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「シタに何をした!」
 シタは法を破っていない。なのにどうして。
「彼のことはどうでもいい」
 どうでもいいわけがない。理由もなくこんなことをしていいはずがない。
「あなたが奥野に接触したことについて」
 奥野さん……?
「それがどうしたんですか。あなた、あの時来てたらしいですけど」
「彼を徒に巻き込まないで頂きたい」
「ひょっとして話聞いてたんですか? すいぶん奥野さんを贔屓するんですね」
 法野が少し眉をひそめた。
「私は彼も住人の一人として見ているだけです。彼らを巻き込まずに解決して欲しいと要求しているのです」
「あなたが今シタにしていることは違うんですか」
「これは指導者の正当な権利ですので」
 この暴君が権利を逸脱していると感じるのはわたしだけではないだろう。
 だがきっと、住人たちにはこれが普通で、当然なのだ。彼らはただ服するだけでいい、あるいは服する方が楽だと思っているのだから。
「それで、指導者様が言いたいことはそれだけですか」
「ええ。今後奥野とは接触を控えていただきたい、それだけだ」
「なぜ奥野さんだけ?」
 法野が目を逸らした。
「特に理由はありません」
 特に理由は無いけど特定の誰かとは仲良くするななんて、そんな理屈があってたまるものか。
小学生のいじめの方がまだ道理がある。
「聞いたところによれば、あなたは奥野さんと昔から仲が良かったらしいですね」
「それが何か」
 否定しないか。
「彼を捕まえないのは、だからですか」
「それもあります。いえ、むしろ彼に期待しているのです。彼がこの街を解放してくれないかと」
「さっきわたしに奥野さんを巻き込むなと言ったのはどうなるんですか」
「嘘ではありません。彼は現時点で住人たちからの心象は相当悪い。危険なことをして欲しくはありません」
「どっちなんですか」
「どっちもです。期待していますが危険なことに巻き込まれて欲しくない」
「本人には、言って……ないですよね」
「ええ。言ってしまえば彼は動いてしまいますから」
 ……。
 法野と奥野、、二人は似ている。互いに望んでいながら、互いを思って動けない。葛藤に挟まれて行動せず、泥沼。
なんて不器用。
「残念ですけど、わたしは奥野さんにも手伝ってもらおうと思ってます」
「やめてくださいと──」
「彼の意思です」
 法野が驚いた顔で少し身を引いた。
「彼はあなたの真意が知りたいと言っていました。それでもしあなたが救いを求めていたら、動くと」
「……聞いています」
 言い方でごまかしているが、盗み聞いただけだろう。屋根の上にいたとシタが言っていた、あの時。
「ですが、容認するわけにはいきません」
「いい加減にしてください」
「この反対に私的な面があるのは否定しませんが、他にも理由があります」
 本当は早く会話を切り上げたいところだが、どうせ他にも聞きたいことはある。
「先にも言ったように、奥野はかなり住人たちから警戒されています。彼が動けば住人たちはそれに反しようとしますし、彼と行動を起こせばあなたも敵視されます。動きづらくなりますよ?」
「なら、水面下で動いてもらえばいい」
「彼はそう器用ではありません」
「そんなの──」
「わかります」
 強い口調で言い切られた。
 人の案を潰して楽しいか。
「でも、そっちにも何も手立ては無いんでしょ?」
「……」
「だったら好きにやらせてもらっても」
 ダメだ、と言わんばかりに睨んでくる法野。
 本来ならわたしが責められる謂れは全くないのに。
「……わかりました、自力でなんとかすればいいんでしょう。その話はもういいです。どうせここで二人で話してもいい方法は出てきませんから」
 それよりも、ずっと気になっていることがある。
 これまで訊くタイミングがなかったし、今後もいつまた接触出来るかわからない。ここで訊いておかなければ。

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