小説『Zwischen??Detectiv?』
作者:銀虎()

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(怖狂色)
「くっそ。」
楓は、地団駄を踏んでいた。
日ごとに溜まる身の毛もよだつ贈り物に天はすっかり怯えている。
学校でも物事に過剰な反応を示し、見るからにげっそりと疲れていた。
楓は登下校を共にしたいのだが、警察側から「ウィリアムスの模倣犯の可能性が高いので、異性との行動は危険。」と指摘が有り天が嫌ったのでそれもできない。警察側も過剰と言えるくらいのパトロールをしているので、紅葉を使うこともできず。まさに、手も足も出せず指をくわえているだけと言えるくらいだった。
「くっそっっ。」
昼間の鮨龍、割烹着を着た壱と向き合うように、楓は愚痴ていた。
「わっちらの出る幕じゃなかろう。」
壱は淡白に言うと、出前寿司を握る。
「でも、あんな木偶の坊の集団では。」
楓は出された熱い番茶を飲みながら喋る。
「まぁの、いつもは、ぬしが出し抜く側じゃから。」
鮨桶を二つ作ると、その桶にラップをかける。
「紅葉を、見張らしても。補導されるだけだし。」
地団太を踏み自分の非力さを呪う。
「ランチのちらしでじゃったけ。」
あっけらかんと楓に壱は聞く。
「あぁ。」
直径20センチほどの深い桶に、酢飯をもろと上に手際よく、ネタを乗せていく。
長い刺身包丁がきらめく調理場。
「親父、出前出来たぞ。」
調理場のアナゴをあぶりながら、壱はおく声をかける。すると、
「おう。」
年季の入った白髪交じりの角刈りの見るからに職人と言った。風貌の壱の親父さんが出てきた。
「4丁目の大岡さん。」
「ん。」
この親父さんは口数か少ない。
鮨桶を入れた岡持ちを持って、親父さんは出ていく。
「で・ぬしからわっちの家に来たのは、何の用じゃ。」
ちらし寿司を、楓の家の前に置く。
「ぬしのことじゃ、ただ愚痴る為にここに来たわけでなかろう。」
手ぬぐいで手をふく壱は、楓を見る。
「万策尽きたわけじゃないからね。」
ちらし寿司に適当に醤油を振り、箸を付ける。
「一人でやるには、策がなさすぎるけど。」
ちらし寿司を口に運ぶ、酢飯にませこまれた柴漬けの歯応えがおいしい。
「わっちらは、何をしたらいいのじゃ。」
自由に動ける日を教えてもらいたい。
「成人式とかで、この時期わっちの稼業は忙しいからの。多くはないぞ。」
包丁の汚れをふき取りながら答える。
「それでもいい、僕に翼猫は扱いきれないから。」
壱はそう聞くと、片眉を挙げながら一枚のカードを渡す。
「それがここの営業の日程じゃ。多少の変動はあるにしろ。そうそう変わらん。」
カードを受け取りしみじみと見ると楓は、
「十分だ、ありがとう。」
ちらし寿司を、もう食べ終わっていた。
「ぬしは、ホントに早食いじゃのう。見た目からは想像できんわ。」
桶を受け取り、流し台につける。
「よく、言われるよ。八百円だよな。」
楓は、八枚の百円玉を取り出すと壱に渡す。
「まいど。」
家では、鮨龍から出た。
家に帰り、携帯のスケジュール表に壱の動ける日を書き留める。
そして、天に電話をかける。この数日天は学校を休み、家に閉じこもっている。
4コール後留守番に通じる。
「天、大丈夫。ぼ・楓だよ。」
そうふきこむと、電話は通じた。
「何。」
天の疲れた声。もう息をするのもめんどくさそうだ。
「心配だから。」
楓は、恥ずかしい言葉を毅然と言う。
「男の声がもう怖くてしょうがねぇって。」
正直な言葉が、楓の携帯から流れる。
「まだ続いてるの。」
楓は、優しい声で言った。
「今日は、サイズにぴったりのストーカーのご趣味で俺の趣味じゃない服が大量に。」
泣き疲れた様な声が楓の耳に入る。
確か、昨日は下着だったと思う。かなりきわどい奴。
「楓ぇ、」
天は疲れた声で呼びかける。
「なにかな。」
楓は抱きしめる様な声で言った。
「お前が犯人じゃないよな。」


長い沈黙。ぶれる楓。
「何言ってるの。」
楓はやっとのことで、そう言葉を吐きだした。
「だって、服のサイズとか、俺の趣味とかがわかって、住所も知ってる。奴なんてさ。」
それなりの、信憑性のある推理だけど正解のはずはないだって僕はやっていない。
「僕くらいだから。」
きつい言葉は決して出さぬように心に戒めながら、楓は言葉を連ねる。
「最初の気持ちの悪い恋作文に、書いてあった。細かい癖も、お前なら知っている理解の内だろ。」
天の言葉に、楓は真意を探る。携帯を持っていない方の手を強く握りしめながら。
「そんな事言われたって、僕は手を引かないよ。」
天は、疲れたため息が聞こえる。
「僕を疑いたいなら、疑えばいい。僕は、やっていない。犯人を捕まえて、半殺しにしてやる。」
天は、疲れ果てた声で
「なんで、そんな必死なんだよ。」
その言葉にも、楓は、毅然とした声で言葉を放つ。
「お前が、大切だから。友人として、」
強い言葉は続く。
「たとえ殺されても、お前を見捨てたくない。」
恥ずかしい台詞は止まらない。
「世界がお前を見捨てても、僕は見捨てない。」
終止符の言葉が、
「誓約書を創ってもいい。」

雨策 楓 暴走すると止まれない。
「殺されるかも、冗談じゃないんだぞ。」
天は、突き放すように言った。
「友人を見捨てて生き残ろうとするほど、僕はリアリストじゃない。」
天は、ぐったりとした声は少し軽くなった。
「お前も、一歩間違えば・・・だな。」
皮肉のように笑った。
「まぁね。今度家に上がらして。明日にでも、」
楓は、にっこりとした声で言った。
「命が惜しくないのなら来いよ。」
楓は、その皮肉にも笑って答えた。そして、電話を切る。
楓は、椅子に座る。背もたれが深くきしむ。そして、引き出しから煙草の箱とマッチそれと、小さな円柱形の蓋つきのクッキー缶を出す。蓋をあけると煙草の灰と蚊取り線香の灰が重なり溜まっていた。
煙草のHBという外国銘柄
眼は、策略が巡る電光の炎が灯っていた。

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