小説『絆の決闘者と夜天の主』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 ――時空航行艦・アースラ内部


 「それじゃあ、ルドガーはこの世界には来ていないのか?」
 「そうなりますね。恐らくはダークシグナーでいた時間の関係でしょう。
  私がたった1日であったのに対し兄は17年間もダークシグナーで居ました。
  如何に闇が浄化されようとも、兄は再び蘇って生を受ける事はできなかったのでしょう。」

 新たな活動拠点の1つであるアースラ内部で、遊星とゴドウィンはこんな事を話していた。

 「時に遊星、君は確か…」
 「あぁ、マリエル・アテンザにデバイスの強化を手伝って欲しいと頼まれている。」
 「先程拝見しましたが、初めて見たデバイスをあそこまで修復するのは流石ですね。
  まぁ、高町なのはとフェイト・テスタロッサの力は間違いなく必要になるでしょう…頼みますよ遊星。」
 「分かってるさ。ゴドウィン、お前は…」

 やってきたのは転送ポートの前。

 「一度地球に。私は私でやる事があるので。」
 「……そうか、無理はするなよ?」
 「ご心配には及びませんよ。では…」

 そしてゴドウィンは、地球の何処かへと転送されていった。








  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス13
 『戦力強化の魔改造!』









 「う〜ん…一体どうすればいいのよ〜〜。」

 アースラ内部の技術室で眼鏡の少女、マリーことマリエル・アザンテは悩んでいた。

 「カートリッジシステムは確かに強力ですが……」

 同様に、デバイス強化に当たっていたリニスもぼやく。

 時の箱庭での会合の後、遊星の手によってなのはとフェイトのデバイス――レイジングハートとバルディッシュは完全修復を遂げた。
 が、この2つのデバイスは今のままでは自らの主と共に戦う事はできないと、強化を頼んできたのだ。
 で、本局からその手のエキスパートであるマリーが呼ばれ、バルディッシュの開発者であるリニスと共にデバイス強化に当たっているのだが、
 あろう事か2つのデバイスが提案してきたのは自らにベルカ式のカートリッジシステムを搭載してくれと言うもの。

 確かにベルカ式のカートリッジを搭載すれば、デバイスの性能も使用魔法の威力も格段にアップする。
 現実にカートリッジシステム搭載型のデバイスを使っているシグナムとヴィータが良い例だろう。(尤もこの2人の場合は基礎能力も高いのだが…)

 では何故マリーとリニスはこうも難しい顔をしているのか?

 答えはカートリッジシステムそのものにあった。

 カートリッジシステムは確かに強力だが、実は使用者とデバイスへの負担が可也掛かる。
 デバイスから術式まで全て古代ベルカ式のシグナムとヴィータの場合、かかる負担は殆ど無い。

 だが、レイジングハートもバルディッシュもミッド式のデバイスの上、使う魔法様式もミッド式。
 其処にベルカ式のカートリッジを組み込むと如何しても不具合が発生し、通常ならば気にもならない負担が一気に増大する。
 おまけに其れを使うのは僅か9歳の少女だ。

 なのはとフェイトなら、迷わずカートリッジ搭載を選ぶだろうが、技術者としては如何にも看破できないものがあるのだ。

 「「う〜〜〜ん……」」

 故に悩む。
 戦力は強化したいが、負担は見逃せない…堂々巡りのスパイラル状態だ。


 「すまない、遅れた……大丈夫か2人とも?」

 其処に遊星登場。
 デバイスとモニターその他を前に、云々唸っている2人の様子にちょいと心配にもなる。

 「あ、遊星さん。」
 「お〜〜待ってたよ遊星君〜〜。」

 因みにマリーは、修復された2つのデバイスを見て以来、遊星の技術力にすっかり惚れ込んでいたりする。

 「少しゴドウィンと話をしていて遅れてしまった。それで、何を悩んでたんだ?」

 「実はねぇ…






 ――マリー&リニス説明中






  と言うわけ。」

 「成程な。」

 2人の説明を受けて遊星も考える。


 ――問題は使用者とデバイスそのものへの負担だ。デバイスへの負担はフレーム自体を強化すれば解決するが…
 「マリエル「マリーで良いよ。」…マリー、強化プランを見せてくれるか?」

 「OK。リニス、モニター出して。」
 「はい、此方になります。」

 モニターに映し出された強化プラン。
 カートリッジを組み込んだ場合のモノだが、確かに此れは言うなれば車のエンジンにニトロユニットを搭載するようなモノだ。

 しかし其処は遊星、すぐさま改善点を気付く。

 「成程な。だが、強化のパラメーター配分をこう変えてみれば。」

 そう言いながら、手元の端末のキーを叩き数値を変更する。
 あるところは今までよりも高く、あるところは低く。

 「…で、このフェイトの場合は此処は高く…なのはは寧ろ大幅に低くした方が……逆にこっちは大幅に上げて…
  デバイス自体にフレームには……バルディッシュは……で、レイジングハート……此れならば………
  よし、此れなら如何だ?」

 「す、凄いです…!」
 「この考えはなかったなぁ〜〜!」

 リニスとマリーは共に驚く。
 遊星が数値を入れ替えたプランでは、デバイスへの負担は先程のプランの1/10にまで軽減されていたのだ。

 「全ての能力を底上げするのは確かに強いが、あの2人の事を考えると長所のみを強化した方が良いと思ったんだ。」

 そう、遊星が書き換えたデータのパラメーター配分は言うなれば『一点強化』。
 欠点には敢えて目を瞑り、長所のみの大幅強化を目したものだ。

 この強化プランの根底には、嘗てシティで仲間である十六夜アキのD・ホイールを作成したときの事がある。
 練習用に組み立てたものは一般的な性能のものだったが、練習を見ている内にアキのクセなどが分かってきた。

 そして男女では当然筋力にも差がある。
 其処で遊星は、馬力と機体強度を犠牲に、軽くて扱いやすくスピードの出る機体へとアキのD・ホイールを仕上げた。


 今回のデバイスも同様のこと。
 なのはとフェイトが夫々どの様な戦い方を得意としているかは、事前に本人達から聞いていた。
 なのはは『中〜長距離砲撃型』、フェイトは『中〜近距離格闘型』だと。

 此れにあわせて数値を設定したのだ。
 勿論弱点部分は非常にもろいが、長所を徹底的に強化した事で結果としては戦力は大きく上がり負担は減ったのだ。
 それだけではない、

 「遊星さん、ひょっとしてバリアジャケットも?」
 「あぁ、2人の戦い方にあわせたモノを考えてみた。」

 リニスの問に答え、遊星は今度はデバイス起動時に着用するバリアジャケットのデータを弄り始める。
 そして出来上がったのは、これまたなんとも極端な代物。

 なのはのバリアジャケットは機動力を犠牲に防御力が極限まで強化され、逆にフェイトの方は防御力を犠牲に機動性が限界まで高められている。

 おまけにフェイトの場合は防御を完全に捨てることで更なるスピードアップが可能な第2形態とも言うべき数値まで設定していた。

 「す、凄いよ遊星君!でも、普通考え付いてもこんな極端な強化は行わないよ?」

 「マリーの言う事は分かる。だが、あの子達の場合、長所を徹底的に伸ばしてやった方がきっと上手く行くと思ったんだ。」

 こう言われては、どうしようもないだろう。
 なんせ、目の前にその『上手く行った結果』がデータ状態とは言え示されているのだから。

 「でも、此れで残る問題はフェイトとなのはさんへの負担だけですね。」

 リニスの言うように、デバイスへの問題は此れで解決。
 残るは使用者への負担のみ。

 此処でも遊星の頭脳は冴え渡る。

 「其れなんだが、例えば使用者の魔力の補助的な…サブバッテリーのようなエネルギー機関を搭載したら如何なる?」

 そもそも使用者への負担は、その強力さゆえに消費魔力も大きくなる事が原因だ。
 更に先程も言ったようにミッド式にベルカ式を搭載しているからこそ負担が大きい。
 だからと言ってミッド式のカートリッジなど存在していないし、また新たに作るのは手間がかかる。

 其処で遊星が思いついたのは、使用者の魔力消費を抑える為の機関の搭載だ。
 此れからエネルギー供給がなされれば、使用者への負担は魔法使用時の反動のみに抑える事ができるだろうと考えた。

 「確かに其れはそうだけど。超小型の無限エネルギー機関でもないとそんなのは無理だよ。」

 「超小型の無限エネルギー機関ならある。」

 「「え!?」」

 遊星は、上着のポケットから自作した通信機を取り出すと、其れを解体し中からあるモノを取り出してマリーとリニスに見せる。

 「それは…もしかしてモーメントですか?」
 「これが?」

 其れを見たリニスはすぐにそれが何なのかを理解する。
 以前に沙羅が『時の箱庭』の動力として造ったものと良く似ていたのだ。

 一方マリーは、話には聞いていたが実物を見たのは初めてで、興味津々と行った具合。


 「俺が居た世界では、あらゆる物がこのモーメントの動力を使っていた。
  モーメントは無限のエネルギーを生み出すものだ、此れを搭載すれば良いんじゃないか?」

 「無限のエネルギー装置があるなら…!」

 マリーは早速、そのデータを入力し、再度計算をする。


 その結果は、

 「行ける!行けるよ遊星君!其れを搭載すれば、使用者への負担は95%も軽減される!」

 予想以上の結果をたたき出した。

 「そうか。お前達もそれでいいか?」

 最終確認はデバイス本人(?)に。

 「「Yes」」

 勿論レイジングハートもバルディッシュも拒否などはしない。
 2機にとって、前のダークシンクロとの戦闘でマスターと最後まで一緒に戦えなかったのは屈辱でしかなかったのだから。

 「よし、それじゃあ強化を始めるとしようか。」

 そして数時間後、この3人によって2つのデバイスは新たな姿と力を得るのだった。








 ――――――








 さて、遊星達がデバイスに魔改造を施している頃、アースラの別の部屋では、八神家となのは、フェイト、アリシアがまったりと過ごしていた。

 尤もシグナムはなのは、フェイトの両名と模擬戦をしたかったのだがデバイスが使えないので渋々諦めたのだった。


 「うおぉぉぉ!このシュークリーム、ギガうめぇぇ!!」
 「ホンマや。こんな美味しいシュークリームは初めてや!」


 で、皆で仲良くティータイム。
 なのはが持参した『翠屋特製シュークリーム』にはやてとヴィータは絶賛感激中。

 いや、声にこそ出さないがシャマル、ザフィーラもその美味しさに驚いていた。

 「流石だな店長。」

 普段翠屋でバイトをしているシグナムだけは、相変わらずの桃子の腕前に感心していた。


 あの会合以降、なのは達はすっかりはやて達と打ち解けている。
 はやてとの仲は勿論だが、なのははヴィータと、フェイトはシグナムと特に仲が良い。

 「そう言えば、なのはちゃんとフェイトちゃんのデバイスって、強化しとる最中なん?」

 「そうだよ?」
 「遊星も手伝ってくれるって。」

 「へぇ〜そうなんや……ってちょいまちや。遊星も手伝ってるん?」

 「ふぇ?そうだって聞いたよ?」

 「あっちゃ〜〜〜…」


 遊星もデバイスの強化に参加と知って、はやては額に手を当ててうなだれる。

 「「はやて?」」
 「はやてちゃん?」

 其れを勿論、なのはもフェイトもアリシアも心配する。
 はやてがこうなった理由を察しているヴォルケンズはそうでもないが…


 「なのはちゃん、フェイトちゃん先に言うとくわ……きっと2人のデバイスはトンでもない性能になっとるで…」

 「「?」」

 「遊星の事や、きっとクロノ君が使ってる標準的なデバイスよりも5世代は先の性能に改造しとるやろな…」

 「「えぇ!?」」

 「いやな?前に家の家電が壊れた時に遊星が修理してくれたんやけど、トンでもないオーバーテクノロジーの産物が出来とったで?」

 「そ、そう言えばお母さんがお店のオーブン修理してもらった時、性能が今売られてるどのオーブンよりも高性能な物になったって…」

 「バルディッシュ…どうなるんだろう。」

 さすがに少々不安になるらしい。

 「案ずるなテスタロッ…フェイト。遊星の腕は確かだ。この私が保証する。」

 「まぁ、こう言う工学関係で遊星の右に出る奴なんてそうそういねーんじゃねーか?」

 その不安はシグナムとヴィータで吹き飛ばす。
 遊星の技術力の高さは、ジャンクパーツからD・ホイールを組み立てたという実績から折り紙つきだ。

 「ヴィータちゃん…」
 「シグナム…」

 「まぁ、ちょっと私の言い方も悪かったけどな。遊星の腕にかかったらそんだけの性能になる可能性があるって事や。
  ま、どっちにしろ究極的な『魔改造』になる事だけは間違いなやろうけどな…」


 数時間後、このはやての言葉の意味を、なのはとフェイトは知る事になるのだった…








 ――――――








 ――地球・海鳴市:八神宅周辺



 「おかしいねロッテ…八神も騎士達も、イレギュラーも居ないなんて。」

 「だよな…何処に行きやがった?」

 はやての家の近くでこんな事を話している2人の女性。
 が、その頭には『ネコミミ』、腰からは『ネコ尻尾』が生えている辺り普通の人間ではない。

 彼女達は時空管理局提督の1人『ギル・グレアム』の使い魔であるリーゼ姉妹。
 主の命を受けて八神家を監視しているのだ。

 しかし此処最近、この家にはやて達が居ることは稀で、監視が充分に出来ない事が続いていた。


 「まさか騎士達に気付かれた…?」
 「あのイレギュラーの蟹頭が何かしたのかも…」


 「ある意味正解で、ある意味不正解ですね。」


 「「!!?」」

 突如背後から聞こえてきた声。
 その声には聞き覚えがあった。

 「おまえ…」
 「レクス・ゴドウィン…何してるんだよ?」

 「貴女達に様があったので。」

 「「?」」

 「単刀直入に言います。今すぐ八神はやての監視を中止しなさい。」

 「なに!?」
 「何だと!?」

 突然のゴドウィンの一言に、リーゼは警戒する。

 「彼女達は自らの手で『闇の書』を処理するつもりで居ます。
  管理局の狂った正義が入り込む余地はありませんよ?」

 「狂った正義だと!?」
 「お父様の目的を愚弄する気か?」

 「いえ……ですが彼、ギル・グレアム自身が管理局に利用されているかもしれないのですよ?」

 ゴドウィンはグレアムの過去も知っている。
 故に彼が闇の書封印の為に練った計画も知っているのだ。

 只悪いのは、それが最高評議会に知られてしまった事。

 結果グレアムは利用される形で、闇の書封印計画の全権を任されたのだ。


 「お父様が利用だと…」
 「勝手なことを言うなぁぁ!」


 だが、誰よりもグレアムを慕うこの2人には、ゴドウィンの言葉はグレアムへの侮辱としか聞こえなかった。


 叫ぶと同時に、2人でゴドウィンに攻撃開始。


 「やれやれ、ネコを素体としている割に頭は固いようですね…仕方ありません。
  ならば、力ずくで聞いてもらうとしましょう!……『デュエル』!!」

 其れに溜息を吐きながら、ゴドウィンはデバイスを起動。

 「頼みますよ『太陽の神官』『赤蟻アスカトル』!!」

 2体のモンスターを召喚し、戦闘を開始した。
















  To Be Continued… 

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