小説『絆の決闘者と夜天の主』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 アルカンシェルによって地縛神と闇の書の歪みが完全に消滅したのと同刻、時空管理局の上層部でも動きがあった。

 「アースラの面々と現地協力者によって闇の書の闇と邪神は消滅したらしい。」

 「なれば闇の書は危険な機能不全は無くなり、大いなる力のみが残ったのだな?」

 「そうだ。だが、あの娘の封印は出来ていない。何、高が小娘1匹、無力化するなど訳は無い。」

 其れは暗く悪意に満ちた会談。
 高みに見物を決め込み、危険には一切関与していないにも拘らず『力』を手にしようとする愚考。

 だから彼等は気付かない。
 自分達が手を下そうとする少女には最強の仲間達が居ると言う事に。
 遥か昔から存在していた邪神と、闇の書の闇を打ち砕く力を持った者達が居ると言う事に。

 「其れは無理だわ。貴方達には今この場で役職から降りてもらう事になりますから。」

 「少しばかり、やり過ぎたようですね。尤も闇の力を欲した者の末路などこんなものでしょうが…」

 そして何より、自分達に法の裁きが下るなどとは微塵にも考えて居なかった。













  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス29
 『未来へのきざはし』











 「レティ・ロウラン提督とレクス・ゴドウィン一佐?一体何の用かな?」

 現れたのはレティ・ロウランとレクス・ゴドウィン。
 突然の登場には驚いたが、あくまでも余裕の態度は崩さずに応じる所を見ると、まだ自分達が優勢と思っているようだ。

 「先程も言いましたが貴方達には今の役職を一切退いてもらう事がつい先程決定したので其れを知らせに来たのですが?
  まぁ、仕方ありませんわね。何の罪も犯していない管理外世界の少女の違法封印にロストロギアの不法所持計画。
  武装隊員の無許可出動、そしてたった今、八神はやてさんの殺害未遂も追加。叩けばまだ出そうね。」

 「出るでしょうね。ギル・グレアム氏から渡された計画の全容を見ると…呆れて物が言えませんが。」

 途端に会談を行っていた連中の顔が強張る。
 よもや完全に計画が漏れているとは思っても見なかったのだろう。

 「な、何の事だ?言い掛かりは止め給え!名誉棄損では済まんぞ!」

 それでも虚勢を張って、逆にレティ達を黙らせようとするが其れも無駄。


 「全く滑稽なものだ。所詮はプログラムに過ぎんと言うのに…それで持ち主の方は?」

 「徐々にだが闇の書の侵食が進んでいる。此方から手を打たずとも何れは命に関わる事態に陥るさ。」

 「と成れば当然守護騎士は主を守る為に魔力の蒐集に乗り出すだろう。」

 「ならば我等が下手に動く事はあるまい。当面は監視と静観を続ける方向で…
  すべてが整ったあとで闇の書もろとも我等が手中に納めれば良いのだ『正義』の名の元にな。」


 「「「「「!!!!!」」」」」

 突然聞こえてきた其れは紛れも無い自分達の声。
 何時ぞやの会合の内容そのものだ。

 「ざんね〜ん。アンタ等の会話はぜ〜んぶ録音させてもらってたよ。」
 「お父様を利用しようとした報いだ、せいぜい受け取れ。」

 其れを流したのはリーゼ姉妹。
 自分の主であるグレアムを利用されたのは許しがたい。
 逆スパイ活動は抜かり無く行っていた彼女達の怒りが、事が一段落したことで爆発した、と言ったとこだろう。

 「あぁ、誤魔化しは無駄よ?既に解析班が声紋照合を行っているから言い逃れは不可能。」

 更にレティが止めの一撃。
 声紋照合までされていたのでは最早言い逃れは出来ない。
 完全な王手、普通ならば、此処で降参するだろう。
 だが、力を欲し、物事の本質を見極められなくなっている連中はそうは行かない。

 「ならば君達を葬り、解析班も滅すれば証拠は無いと言うことだな?」

 「解析班の連中等は幾らでも替えが効く。居なくなったところで影響は出ん。」

 まさに自己中。
 己の保身と力への欲のみの考えに、レティは怒るよりも呆れてしまう。

 「此れが上層部…本当に呆れて物が言えないわ。リンディがアースラを独立機動隊にしたのは英断だったわ。
  リーゼ、今のも勿論録音しているわね?証拠は幾ら有っても良いんだから。」

 「抜かり無いよ。」

 「更にクロスケの方にもデータ送ってるから問題なし。アタシ等如何にかしてもアースラが残ってるって。」

 流石にレティも隙が無い。
 包囲網は既に完成していた。

 「何れにせよ貴方たちには少々痛い目に逢ってもらう事になりますがね。現れよ『陽光龍−アマツ』『月光龍−カグヤ』!」
 「グガァァァァ!」
 陽光龍−アマツ:ATK3000


 「クェェェェ!」
 月光龍−カグヤ:ATK2500


 更にゴドウィンがエースたる2体のシンクロ龍を召喚。
 加えて、

 「「シルエットロック!」」

 リーゼ姉妹がバインドで上層部の輩を拘束。
 此れでは逃げることなど不可能だ。

 「き、貴様等一体何を…!」
 「こ、こんな事をしてただで済むと思うのか!?」

 「思っていないわ。でも、既に伝説の三提督に話はついているの。……手加減しなくて良いそうよ?」

 肩書きを頼りに威圧を試みるも意味なし!
 自分達よりも遥かに権力も管理局への影響力も有る『伝説の三提督』の後ろ盾が有るとなれば万事休す。
 どうやっても失脚は免れないだろう――ついでに此れから起こるであろう事態も。

 「では覚悟は良いですね?」

 「お父様を利用してくれた礼は…」
 「た〜〜〜っぷりさせてもらうよ…?」

 「速攻魔法発動!」

 「「バーサーカーソウル!!」」

 …死刑宣告が下された。






 ――少々お待ちください






 「ドロー…モンスターカード。」

 「カノン!」
 「スティンガー!」






 ――少々お待ちください






 「モンスターカード。」

 「「ダブルブラスト!」」






 ――もう少しだけお待ちください






 「モンスターカード。」

 「ミラージュ…!」
 「アサルト!!」






 ――大変お待たせいたしました






 「…追撃できるのは攻撃力1500以下ではなかったかしら?」

 「リーゼ姉妹は2人で攻撃力3000なので、単体では1500なのですよ。」

 無茶苦茶な理論だった。

 「まぁ、不穏分子を一応とは言え摘み取れたのですから善しとしましょう。」

 「そうね。それでも此れでスタートラインというところだけれどね。」

 「最高評議会は今は未だ無理でしょう。ですが何れは…」

 「そうね。取りあえず彼等の護送と処理をするべきね。」

 上層部は潰したとは言え、未だその上の『最高評議会』の存在がある。
 異常な寿命を保っている評議会構成員は一筋縄ではいかないだろう。

 深追いは禁物。
 今は上層部を抑えたことで善しとしておくことにした。

 「そう言えば、行方不明だった武装局員が各地で発見されているらしいわ。」

 「地縛神が倒されれば、捕らわれていた人の魂は解放されます。恐らくは皆無事でしょう。」

 「ホント凄いわね彼。不動遊星君……一度正式な形でお礼に行かないとね。」

 今回の『地縛神事件』の最大の功労者であろう不動遊星。
 直接的に会った事は無くとも、レティは遊星に対して可也高い評価を下していた。








 ――――――








 ――時空航行艦アースラ


 戦いを終えた遊星達一行は、アースラに戻って一休み中。
 はやてもぐっすりと眠っている。

 「奇跡と言うならば、正に此れは奇跡と言うのだろうな。」

 その休息室で、リインフォースは自身の事を話していた。

 「奇跡?」

 「あぁ。主が覚醒した段階では、私とナハトは切り離されていたが、私の機能損壊は深刻なものだった。
  例え防衛プログラムを砕いても、時が経てば新たなナハトを再構築してしまう事は確実だ。
  故に、全てが終わった後に、書の完全破壊をお前たちにしてもらう心算だったんだが…その必要は無くなった。」

 「如何言う事だよ?」

 防衛プログラムの凶悪さは、先刻の戦闘で嫌と言うほど分かっている。
 更にその暴走がどれだけのものであるかも。

 其れの再構築を防ぐために、安定状態の今、書を砕くと言う考えは、成程理に適ってはいる。
 だが、其れが必要なくなったというのは今一理解が及ばないところだ。

 「私は、邪神に取り込まれて一度は消滅したんだが…」

 ちらりと遊星を見やる。

 「ん?」

 「遊星、お前が私を『シンクロチューナー』として蘇らせてくれたお陰で私と壊れた防衛プログラムは完全に切り離された。
  もう、私の中にナハトを再構成してしまう異常な防衛プログラムは存在していない。
  どうやら、其れ等『負の機能』は全て、邪神に取り込まれたらしい。」

 思いもよらない事実だった。

 全くの偶然。
 幾ら遊星でも此れを予想していたとは思えない。

 仲間を救うと言う遊星の意志が奇跡を引き起こしたのだろう。

 「マジかよ…!じゃあオメェは消えなくていいんだな!?本当に本当だな!?」

 「あぁ、私が消える必要は無い。一固体の命として生きる事が出来る。」

 ヴィータの、否、騎士達の顔に安堵が浮かぶ。
 リインフォースの生存=書の呪いを完全に超えた事を意味していたから。

 「良かったな…」

 「あぁ、お前のお陰だ遊星。だが…」

 「如何した?」

 喜びの中、リインの表情が僅かに曇る。
 決して『最悪』を告げるようなモノではないが。

 「一度消滅し、再生した影響か、一時的にだが私は持てる力の全てを失っている。融合機能ですらな。」

 「「「「!!!」」」」

 「そんな…!」
 「どうして…?」

 まさかの力の消失という事態には驚く。
 見た目にはそんな事は分かる筈も無い。

 「恐らくは暴走したナハトは私の多くの機能にまで影響を与えていたのだろう。其れが纏めて邪神に吸収されたせいだろう。
  時間をかければ何れ元に戻るが、無限転生機能を失った状態では流石に時間がかかる。
  尤も、シンクロチューナーとなれば本来の力を使うことは可能だけれどな。」

 「シンクロか。必要なら言ってくれ。」

 「必要が無い状態が続くなら其れが一番良いがな。」

 「確かに。」

 こんな話をしながら、デバイスのメンテをしている辺りは流石遊星だ。
 手は動けども、人の話はちゃんと聞くのだから凄い。

 「何れにせよ、無限転生機能が無くなったと言う事は、私達の時間もまた有限になったと言うことだ。
  もう、主が死んだからと言って、新たな主を探して彷徨う必要も無い。
  私達は、我が主と共に限り有る時間を生きる事が出来るようになった。」

 皮肉にも、一度は消滅したからこそ得る事が出来た『限り有る時間』。
 無限に転生を繰り返し、望まぬ戦いをしてきた5人にとって其れは何物にも変えがたいものだ。

 「限り有る時間、か。人は何時か死ぬ。だからこそ今を懸命に生きる。
  人が生きる上で一番大切な事だ――忘れてしまいがちだけどな。」

 「その時間の中で主には沢山の幸せを感じて欲しい。勿論お前達にもな。」

 遊星の言った事に同意するように言い、騎士達に微笑む。

 「無論だが…私達以上にお前もまた幸福になる権利が有るということを忘れるなよ?」

 「シグナムの言うとおりだ。アタシ等の中でイッチ番幸せにならなきゃならねぇのはお前なんだからな!」

 だが、騎士達もリインフォースこそ幸せになるべきだと言う。
 勿論リインフォースもその心算ではいる。

 「無論だ。普通の生活と言うものを知らないが故に色々と苦労することはあるだろうが、頑張ってみるさ。」

 眠るはやての髪を撫で、微笑を向ける。
 その存在を、改めて確かめるように。

 「最後の夜天の主、八神はやて。私達5人、この身朽ちるまで貴女と共に在ります。時間が許す限り…ずっと。」

 シグナム達もはやての周りに集まって跪く。
 はやてが起きていたらきっと止めるだろうが、これは騎士の誓い故に譲れない。

 「我等ヴォルケンリッター、夜天に集いし群雲となりて貴女をお護りします!」

 シグナムが力強く言い、誓いはより強固に。
 はやてと騎士達の絆はきっと砕けることは無いだろう。

 「あ〜〜〜!私たちも忘れちゃ駄目なの〜〜!」

 「私達もはやての友達〜〜!!」

 「な、なのは、アリシア空気読んで…!」

 誓いを立てた騎士達に自分もと飛び出すなのはとアリシアをフェイトが止め一気に賑やかになる。
 近くで騒ぎが起きているのに起きない辺り、矢張りはやては相当に疲れたのだろう。

 「遊ちゃん。」

 「母さん…」

 そんな中、沙羅が遊星に話しかける。

 「お疲れ様。頑張ったね。」

 「そんな…俺1人の力じゃない。一番頑張ったのははやてとリインフォースだ。俺は其れを手伝っただけだ。」

 労う沙羅だが、遊星は何時も通り自分1人でやった事ではないと、仲間が居ればこそだと言う。
 そんな息子の姿に、少し笑みを浮かべ、

 「それでもよ。貴方の存在が皆に大きな影響を与えているの。貴方が紡いだ絆こそが勝因。だから、ね?改めて…お疲れ様、遊ちゃん。」

 手を伸ばして、自分よりもずっと背の高い息子の頭を撫でる。
 恐らく初めてであろう母からのそれに、遊星は少しだけくすぐったそうにし、

 「あぁ……ありがとう母さん。」

 そう返した。




 日付は既に変わっている。

 あと5、6時間で夜が明けるだろう。


 アースラが続けていた『準警戒態勢』も解除され、艦内部も落ち着いている。
 クロノとリンディをはじめとしたアースラスタッフも今は休憩しているはずだ。






 後に『地縛神事件』と呼ばれる事になる一連の騒動は、こうして幕を閉じたのだった。















   To Be Continued… 

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