小説『絆の決闘者と夜天の主』
作者:吉良飛鳥(自由気侭)

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 遊星、なのは、フェイトの3人の前に現れた謎の存在。
 闇の欠片とは違い、その容姿は3人に酷似していながらも何処か違う。

 何よりもその身から発せられる『闇の気配』は闇の欠片のソレとはまるで比べ物にならない。


 「………」
 『………』
 『………』

 故に3人の警戒レベルが一気に上昇するは道理。
 謎の存在達も此方を伺うようにしている。


 未知ゆえに下手に動く事は危険――


 微妙な膠着状態が出来上がっていた。












  遊戯王×リリカルなのは  絆の決闘者と夜天の主 クロス36
 『構成素体〜雷と力〜』











 「貴女は…?」

 「僕かい?僕は君達が砕いて亡き者にしようとした闇の書の防衛プログラム構成素体の一基。
  『力』を司るマテリアル……『雷刃の襲撃者』さ。」

 とは言え、何時までも様子見では埒が明かない。

 なので意を決して話しかけてみると、比較的冷静に返してきた。
 欠片達とは違って独自の人格が形成されているらしい。

 だからと言っても解らない事は多い。
 ただ、一つだけ聞き逃せない事が…

 「マテリアル…?」

 そう、闇の書の防衛プログラム――ナハトヴァールを構成していた一基だと言う事がだ。
 アレは間違い無く砕いたはずなのだから、普通に考えればありえないことだ。

 「そうさ。確かにナハトは君達の手で砕かれた。けど闇の書には元々備わっていた防衛プログラムが存在してた。
  管制ユニットの切り離しで僕達マテリアルは消滅するはずだったけど、幸運にも生き残ったんだ。
  只、僕達には肉体が無いから、外に出るに当たってお前の姿をコピーさせてもらったぞオリジナル。」

 「ソレは構わないけど…それじゃあ君達の目的は闇の書を復活させる事?」

 「察しがいいじゃないか。僕達の目的は闇の書の復活、そして『砕け得ぬ闇』を手に入れること。
  其の力を得て僕は帰るんだ、あの暖かな闇の中に…血と禍が渦巻く永遠の夜に…」

 「…!」

 予想通り、そしてそれ以上に危険な感じがする『砕け得ぬ闇』と言う言葉。
 フェイトもバルディッシュを握る手に力を篭め、身構える。

 「闇の書の復活はさせないよ、私とバルディッシュが此処で貴女を止める。」

 『フェイト、気をつけて。其の子今までの闇の欠片とは全然違う。格段に強い。』

 「分ってる、大丈夫だよアリシア。私は、負けないから。」

 アリシアから通信で『気をつけて』と言われ、『大丈夫だ』と答えながら気を引き締める。
 この双子の姉妹、己と同じ姿の相手が出てきても動揺は一切感じられない。

 「矢張り邪魔をするかオリジナル。ならお前を倒して僕は飛ぶ…覚悟しろ!」

 雷刃は既にやる気が充分。
 フェイトも其れは同様。

 「バルディッシュ。」
 「Yes sir.Crescent Form.」

 バルディッシュを近〜中距離戦形態である大鎌――『クレッセントフォーム』に変形させ構える。

 「ふ、お前は僕の『バルカフィニス』の錆にしてやるぞ。」

 雷刃もまた自身のデバイスを大鎌に変形し構えている。

 「行くぞオリジナル!砕け散れ、電刃衝!」

 「バルディッシュ。」
 「Plasma Lancer.」

 戦闘開始の合図は誘導射撃魔法。
 互いの魔法がかち合い、粉塵が上がるが其れを切り裂くように高速接近し今度はクロスレンジ戦。

 フェイトは言うに及ばず、雷刃もフェイトを模しているせいかクロスレンジが得意な様だ。



 ――ガキン!ガッガッガッ、ザン!



 鍔迫り合い、斬り合い、見事な剣戟が披露される。
 ガチンコの戦いであるにも拘らず、其れはまるで計算されれた演武のような印象すら受ける。

 「本当に私を写し取ったんだね、得意分野が全く同じ。」

 「同じ?其れは違う、僕にはお前には無い闇の力がある…行くぞ、ハァ!!」

 斬り合いの最中、距離が僅かに離れたところで雷刃が変身した。
 マントが無くなり、必要な部分のみのガードを施した速度を重視した姿。

 「ソニックフォームまで!?」

 「ふふ、驚いたかい?此れが僕の『スプライトフォーム』。このスピードについて来れるか?」



 ――シュン!



 まるで消えるような高速、否光速移動。
 如何にフェイトの動体視力が優れているとは此れは目で追える速さではない。
 なれば当然、

 「バルディッシュ!」
 「Yes sir.Sonic Form.」

 フェイトも超高起動形態『ソニックフォーム』を展開。

 同じスピードの中に居れば相手を目で追う事も可能。
 戦いは人知を超えた光の次元に突入だ。



 ――ガガガガガガガガガ…ザッザッ、ガキィィィン!!



 結界内に響くのも武器のかち合う音だけで、其の使用者の姿を捉えることはできない。
 フェイトと雷刃は完全に光速の中で戦っているのだ。

 「クレッセント…セイバー!」
 「Crescent Saber.」

 「光翼斬!スラーッシュ!」

 結界内に迸る2つの雷光。
 共に光速移動をしている為に攻撃がクリーンヒットせず、所謂『削り合い』の様な戦いになっている。

 「ハァ!」
 「テヤァ!」

 どちらも譲らず。
 力もスピードも、使う技も互角。
 防御力はどちらも低く、1発当てれば其れが決定打になるが超速故に其れも無理。


 普通ならばこう言う戦いにおいては、大概オリジナルの方が『ミラーバトル』の状態に冷静さが無くなるものだ。
 だがフェイトはそうではない。

 この異常なまでの光速戦闘を、しかも己の写し身を相手取って行いながらも思考は極めて冷静だった。


 ――この子、確かに強い。技もスピードも私と同じ……だけど、何だろう、戦い方が少し古い…?


 並列思考のなせる業だが、フェイトが感じたのは『僅かな違和感』。
 ソレが何なのかはきっと説明できるレベルのものではない『漠然とした何か』。

 ソレが何なのかを確かめる為に、フェイトは有る技を使ってみることにした。

 「喰らえオリジナル!爆光破!」

 中距離で雷刃が放った砲撃魔法。
 フェイトが使う『プラズマスマッシャー』に酷似した技だ。
 ソレに対して

 「トライデント…スマッシャー!」
 「Trident Smasher.」

 右手に発生させたスフィアから三叉の砲撃を撃ち出し、更に雷刃の技とぶつかる直前でソレを合成させ一気に威力を上昇。

 技自体はかち合ったものの、単発砲撃の雷刃に対し、フェイトは着弾時の威力が3発分になる砲撃。
 爆風に煽られたのは雷刃のほうだった。

 光速移動で爆発そのものは喰らわなかったが、完全に今の一撃に度肝を抜かれていた。

 「な、何だ今の技!?ぼ、僕はそんなの知らないぞ…!」

 そしてこの反応にフェイトは『やっぱり』といった表情。
 同時に、

 『フェイト、聞こえる?』

 アリシアからの通信。
 アリシアも自身は戦闘行為が出来ない変わりに、時の箱庭でバックアップを行っている。
 皆が戦っている間もマテリアルや闇の欠片の解析を続けていたのだ。(アースラとは勿論連携しているが)

 「うん。アリシア、この子…」

 『フェイトも気付いた?うん、間違い無い。其の子は『地縛神事件』までのフェイトしかコピーしてない。』

 「やっぱり…」

 アリシアとの通信で、フェイトは自身の立てた仮説が正しかったと確信した。


 先ほど感じた漠然とした違和感、戦い方が古いと感じた理由は正にソレだった。
 雷刃はアリシアの言うとおり『地縛神事件』までのフェイトを模している。

 だからソニックフォームの亜種までも使える訳だが、逆にそれから先のフェイトは知らない。
 トライデントスマッシャーに対応できなかったのが其の証だ。

 「つまり今の私なら…」

 『あの子の知らない技が有る。知らない戦い方がある。今のフェイトなら負けないよ。』

 「うん。私は負けない。行ってきます…ありがとう、お姉ちゃん。」

 『!!うん、やっちゃえ!!』

 突然の『お姉ちゃん』呼ばわりに驚くも、エールを送って通信終了。
 再度雷刃に向き直り、構える。

 「く、クッソー…!何なんだよお前、僕のオリジナルのくせに僕の知らない技使って…!」

 「貴女が知らないだけ。私は…未だ止まらない!」

 「この…砕け散れぇ!」

 超光速移動で雷刃が迫るが、フェイトは動かない。
 それどころか目を瞑って待ち構えているようにも見える。

 「バルディッシュ。」
 「Yes sir.」

 「死ねぇぇ!」

 略ゼロ距離まで接近した雷刃の一撃が迫る。



 ――シュン…



 だが其の一撃は空を切り、



 ――ガスッ!



 「がっ…!!」

 逆に背後から衝撃を受けた。
 やったのは勿論フェイト。

 雷刃の一撃をかわし、一瞬で背後に移動して蹴りを放ったのだ。

 「ゲホッ…な、何で今のを避けられるんだ?直前まで動かなかったら喰らったって…!!な、何だよ、ソレ!!」

 今の攻防に納得がいかず、背後に向き直ると、其処には姿を変えたフェイトが居た。

 「閃光瞬撃!」
 「Blaze Form.」

 バリアジャケットの形状は通常の『ライトニングフォーム』に近い。
 だが、腰周りのデザインが異なり、左腕にのみ展開してあった装甲が右手にも装着。
 そして最大の違いはマント。
 黒を基調としていたライトニングフォームとは異なり、今纏っているのは一切の混じりけの無い『純白』…






 ――ブレイズフォーム


 地縛神事件後にフェイトが考えた新たな戦闘形態だ。
 遊星が設定したバルディッシュの『ザンバーフォーム』をもっと効果的に使う方法は無いかと悩んだ末にたどり着いた答え。

 移動速度そのものはライトニングフォームとさほど変わらない。
 防御力も上昇している訳ではない。

 では、ソニックでスピードに回していた強化分を如何配分したのか?

 答えは簡単、『攻撃力』と『瞬間加速力』だ。

 ザンバーは強力だが、超速移動を繰り返すソニックフォームでは其の大きさがネックになり真価が発揮できない。
 基よりザンバーフォーム自体が『特定の技を使う形態』として設定したものなので当然なのだが。

 だが、それでもこのリーチと破壊力は使いこなせば間違いなく必殺であるのは確かだった。

 其処でフェイトが辿り着いたのが、親友であるなのはの戦い方だ。
 なのはは機動性に難があるが、一瞬の加速力だけならばフェイトと同レベルと言って良い。
 其の瞬間加速力を使って自らの得意な間合いを保持して戦っていた。

 ならばフェイトは如何だろう?
 常時の光速移動を捨て、速度強化を瞬間加速に限定したら?
 答えはもう言うまでも無い、完全な瞬間移動――テレポーテーションの域だ。

 一瞬の高速移動だけならばザンバーの大きさはそれほど問題にならない。
 それどころか相手の虚を衝いて強力な一撃をお見舞いできるだろう。

 光速連撃と並ぶフェイトの新たな戦術、究極の一撃離脱――ソレがブレイズフォーム。


 「な、そんな…そんなのありかよ!ひ、卑怯だぞオリジナル!僕の知らない形態まで!!」

 一方の雷刃は現れたときのクールな雰囲気は何処へやら。
 恐らくはこっちが本性なのだろうが、途端に子供っぽくなり喚く。…見た目は間違いなく子供なのだが。

 「くっそ〜〜!僕は負けないんだ!お前なんかーー!吹っ飛べ〜〜雷神滅殺極光斬!!」

 殆どヤケッパチの如く最大の一撃を撃ってきた。
 だが、頭に血が上った者と冷静な者では其処に絶対的な差が出来るは道理。

 「撃ち抜け、雷神!」
 「Jet Zamber.」

 同系統技で相殺。
 完全にフェイトのペースだ。

 「この…落ちろぉ!」

 爆風を突っ切るように突っ込んでくるが、ソレはもう通じない。


 ――シュン!


 又しても其の姿が消え、


 ――バキ!


 背後からの強烈な一撃。
 ザンバーの腹の部分での『峰打ち』の一撃だが、それでも威力は充分。
 強化された攻撃力は、雷神の身体をいとも簡単に吹き飛ばす。

 それでは終わらない、瞬間加速で吹き飛んだ先に移動しかち上げるように殴り飛ばす。

 更に、

 「ロック!」
 「Lightning Bind.」

 吹き飛んだ先でバインド拘束。
 模擬戦とは言え、なのはですら外す事ができなかったバインドに捕らわれては雷刃とてどうしようもない。

 「くそ、この…放せよ〜〜!」

 暴れようともビクともしない。
 完全に1サイドゲームだ。

 「そう言われて放す人は居ないと思うよ?それに闇の書の復活は、やっぱり無視できないからね。
  此れで終わりにする……行くよ、バルディッシュ。」
 「Yes sir.」


 終幕を宣言し、愛機に必殺の一撃を命ずる。
 6発のカートリッジが全てロードされ、ザンバーの刀身が巨大化。
 フェイトの身長の3倍以上になっている。

 「疾風迅雷!」
 「Sprite Zamber.」


 「スプライトザンバー!覇ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ブレイズフォームで放つ『ジェットザンバー』のバリエーション、『スプライトザンバー』。
 其の強化配分から破壊力は現在のフェイトの技の中では間違いなく最強の一撃。

 「え、あ…そんなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 ――ズバァァァ!!



 其の強烈な1発が雷刃を縦一文字に斬りつける。
 …スプライトフォームで防御力が皆無の雷刃はこの一撃でダメージは限界突破だろう。

 「ふぅ…」

 フェイトもまた攻撃を終えて通常のライトニングフォームに戻る。
 ブレイズフォームは長時間の運用は中々難しいようだ。

 「く…くっそ〜〜〜。やってくれたなオリジナル〜〜!!」

 で、完全にやられた雷刃の方も通常形態に強制換装。
 地面にへたり込んで半分ベソ掻きながらフェイトを睨み付けている。


 ――シュゥゥゥ…


 「えっ!そんな、や、やだやだ消えたくない!!」

 そして訪れた活動限界。
 許容量を超えたダメージで雷刃は其の身を保つ事ができなくなったようだ。

 「やだやだ〜〜!!僕は消えたくない〜〜!!砕け得ぬ闇を手に入れて僕は飛ぶんだ〜〜!消えるなんて絶対やだ〜!!」

 「え〜っと…」
 『…如何したモンだろうね。』

 嫌だ嫌だと駄々をこねる其の姿は子供そのもの。
 クールに決めようとしていた姿は微塵も無い。

 ソレにフェイトは戸惑い、通信してきたアリシアも困り顔。

 「くっそ〜〜!いい気になるなよオリジナル!マテリアルは僕だけじゃないんだ、他の誰かがきっと砕け得にゅっーーー!!」

 「噛んだ…」
 『噛んだね。てか随分粘るねこの子も…なのはと戦ってたのは潔く消えたよ?』


 おまけにセリフを噛むとか、最早子供通り越して単なる『アホの子』全開。
 殆ど消えかけてるのに口が減らない。

 「チクショー!お前なんて、オリジナルのくせに、へいとのくせに!!」

 「『あーーー…』」

 もうフェイトもアリシアも何も言えない。
 と言うか、自分と同じ姿をしたのが『此れ』と言うのはなんとも微妙な感じだ。

 雷刃の残る部分は、もう肩より上ほどしかない。

 「ふ〜んだ!僕は絶対復活するからな!!最後に!」

 「『未だあるの!?』」

 「お前のかーちゃんデベソ!!」

 『サンダーレェェェェェイジ!!』



 ――ドガシャァァァァァン!!



 「にゃ〜〜〜!!!」

 最後のセリフと同時に結界ぶち破って強大な雷が降り注ぎ、この一撃で雷刃完全消滅。

 『誰がデベソですってぇ…?』

 その一撃を放ったのは全く別の場所に居るプレシア。
 何でか雷刃の最後の一言が聞こえてしまったらしい…恐ろしいまでの地獄耳だ。


 「さ、流石母さん…」
 『お母さん凄い…』

 娘2人も、その地獄耳と超長距離大威力魔法には驚く他ない。


 『アリシア、フェイト…其処にナニか居たのかしら?』

 「え、え〜とね…」(汗)
 『い、居たんだけどお母さんの一撃で倒されちゃった…』(汗)

 『そう…なら良いわ。闇の欠片は未だ出現しているから、くれぐれも気を抜かないでね?』

 「『り、了解。』」(大汗)


 ――プッ


 「……ねぇ、アリシア。母さん…人間だよね?」

 『そう、だと思う。……多分。』

 突然の母の一撃と通信に驚く、寧ろ驚くのが自然と言えるだろう。



 ともあれ雷と力の戦いは、最後に大魔導師の謎の介入があったとは言え雷の勝利。


 ただし、


 『フェイト…』

 「うん。母さんだけは絶対に怒らせないようにしよう…」

 金色の双子姉妹に『母を怒らせるべからず』の意識が植え付けられてしまったようだ。











 因みに…


 「今の魔力はプレシア女史か?…見事なものだ。何れ、手合わせをお願いしたいものだな…」

 別の場所で白黒の二色仮面をつけた変な闇の欠片を滅殺した烈火の将がこんな事を言っていたとか…















   To Be Continued… 



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