小説『真弓が真由美になりました』
作者:みき(かとう みき◆小説部屋◆)

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

002◆1話◆事態を把握しよう

☆☆☆

――どうしよう。

 真弓正孝は悩んでいた。
 いや。
 今は真弓正孝ではない。
 その事に。
 悩んでいた。




 目覚めれば、見た事もない部屋だった。
 アラームを鳴らした携帯は、何だかキラキラしていた。ギラギラと云っても良い。
 12畳か、いや16畳はある部屋だった。フローリングの床に畳スペースがある。炬燵の上には駄菓子の袋と飲みさしのペットボトル。
 だらしなく炬燵で寝ていたらしく、その所為か少し寝違えたみたいに首の後ろが痛んだ。

 上体を起こすと共に肩から零れた長い髪は、赤に近いほど茶色い。それを思わず手のひらで掬い、恐る恐る引っ張った時は、内心悲鳴を上げた。

 窓にはオレンジのカーテン。まだ、早朝で射し込む陽射しも微妙な明るさだった。
 その壁際にベッド。大きめなシングルかセミダブルか。薄いピンクの毛布と羽布団らしき白が、くしゃりと乱れたまま放置されていた。

 ベッドの向こう、部屋の角にある机は、勉強机の様だった。乱雑に教科書やノートが重ねられていた。

 机の前方の壁を辿ればベッドに戻る。机の右の壁を辿れば扉があった。その途中にハンガーがいくつか。コートとダウンジャケット。セーラー服っぽい制服らしき服は何処かで見た事がある。有名な学校の制服だろうかと考えた。
 何故か隣にスーツ。
 剥き出しの洋服が後何着か無理矢理重ねて下げてある。

 扉が面した壁には恐らくは作り付けのクローゼット。作り付けの書棚。書棚には適当に並べられたマンガが数冊と箱や袋が適当に置かれていた。
 次にまた扉。

 そこで体勢を変えて背後を見やれば、テレビ画面とスピーカーのみ。

 壁と床、調度品は悪くない品に見えた。作り付けのクローゼットや棚の材質も艶消しの良いものに見える。かろうじて解るのは黒檀の勉強?机だろうか。
 特に物が溢れている訳ではない。逆に少ないくらいだったが、乱雑な印象が強い部屋だった。

 社会人なのか学生なのか微妙な印象も受ける。
 この乱雑さを見れば、卒業して就職したにも関わらず、制服や教科書を片付けていない……という事だろうか。


――どうしよう。

 また考えて、真弓は頭を掻き毟る。長い髪にビクリとして、頭から手を離した。
 畳についた手を見て、また固まった。

 爪がゴテゴテと飾ってあった。



 携帯をもう一度見れば、日曜日だった。
 何とかアラームとカレンダーを見る。カレンダーには特に何も予定は上げられていなかった。
 アラームは毎日かけられている様だった。

――存外、規則正しい生活なのか?炬燵は出しっぱなしなのに。

 そう考え乍ら、立ち上がった。先ずは奥の扉をそっと開いて覗き見る。

 廊下と、扉が左右に2つずつ見えた。
 廊下の長さは微妙だった。
 庶民的とは云えない広さ、しかし上流としては微妙。まあまあの金持ちなのは間違いないだろうが、ランクが判り難かった。

 そっと扉を閉めた。一応クローゼットを開けた。やはりクローゼットだった。大量の洋服やドレスがかけられていた。
 ドレスは一応フォーマルと云えるものもあったが、正直婦人服には詳しくなく、どの程度の物かは解らなかった。

 他の箱等覗けば、帽子やバッグ、靴がところ狭しと積んである。
 書棚の箱も同様だった。クローゼットに詰めたら、洋服が皺になるから追いやられたのだろう。

 何故か袋や一部の箱には本が入っていた。
 明らかに新品で固い内容の本は、恐らくはプレゼントか何かで、貰った本人はそのまま放置したと思われた。
 貴金属やアクセサリーは、特に目立つものは無く、どうやらドレスコードがフォーマルのパーティーに出る事は無いのではと見当をつけた。
 イメージとしては中流家庭の、裕福なお嬢さんのクローゼットだ。

 次の扉は脱衣場らしかった。当然、そこは浴室に繋がっていた。


 非常に苦悩したが、入った。

 頭は痒いし、髪はベトベトと絡みつくし、体も痒い。
 耐え難く不潔だった。


 疲れきったがサッパリとした。室内に時計は見当たらない。
 携帯を見れば7時になっていた。

 空腹を覚えていた。

☆☆☆

-2-
Copyright ©みき All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える