小説『ファミリー』
作者:zebiaps(ZEBIAPS小説)

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『ここは・・・どこだろう・・・教室?』
聖弥はなぜかいつもの見慣れた教室を上から見下ろしていた。
しばらく見ていると、先生と美奈が入ってきた。
それを見た生徒達はヒソヒソ話し始めた。
その光景を見て、聖弥は半年前だと分かった。
美奈が転入してきた時だ。
「ええー、こちらが本日転入してきた大沢美奈さんです。では、大沢さん、自己紹介をお願いします」
「・・・大沢です。よろしくお願いします・・・」
いつも見慣れた美奈とは対象的に、この時の彼女からは暗い感じがした。
「じゃあ、一番後ろに空いてる席が一つあるから、そこに座って」
「・・・分かりました」
美奈が座った後、周りの女子達が美奈に一斉に話しかけた。
「どこの中学校?」
「歌手は誰が好き?」
「彼氏いた?」
しかし、美奈はどんな質問に対しても無言だった。
「・・・・・・」
そんな反応の美奈に女子達は呆れ、話しかけても無駄だろうと、前を向き、雑談を始めた。
『こんな頃もあったなー』
聖弥はこの光景を懐かしいと感じた。
もう少し見ていたいと思ったが、その願いは叶わなかった。
夢から醒めてしまった。
まだ目は開けない。
なぜか知らないが、いつも父と兄が沢山周りにいるのだから。
『愛里達に会いたい』
心からそう思った。
こういう時だからこそ、自分の心の支えになる人に会いたいという気持ちが強くなった。
頭の中に愛里、翔大、美奈の顔が浮かんだ。
心の中で彼らに手を延ばした。
その時だった。
腹に衝撃が走った。
「ぐあ!!!」
目を開けると憎しみに満ちた顔の父が腹に包丁を刺していた。
父は包丁を抜くと憎しみの顔がいきなり狂った表情になり、笑い声をあげてもう一度腹に突き刺してきた。
聖弥は腹に手を当てた。
温かい血が溢れ出してくる。
そうだ。元々死ぬつもりだったのだ。
これで良かったのだ。
でも、どうせなら一人で死にたかった。
誰にも心配かけずに、一人で死にたかった。
周りがボヤけてきた。
父が「あーはっはっはっは!!」と言って再び刺してきた。
これで俺は死ぬんだ。
皆、さようなら。
最期に会いたかったよ。
「キャー!!!!!」
看護婦の悲鳴が聞こえ、聖弥の意識は途切れた。

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