小説『マスター、お腹減ったんでちょっと出掛け……すいません、ガンド撃たないで!』
作者:モアイ()

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       第二幕   マスター、それは自業自得です。






遠坂凛がサーヴァント召喚の儀式を行い、アーチャーにガンドをしこたま打ち込み掃除を命令した翌日。


簡略な説明では凛が悪鬼羅刹の類のように思われるであろうため、

ガンドを打ち込まれ、掃除をするよう命令された責任はアーチャーにあったことを明記しておく。








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「これでいいのだ〜、これでいいのだ〜、フンフンフフフン、フフフンフン〜」



場所は遠坂邸のキッチン。

鼻歌歌うは昨夜腹の虫のせいでマスターにしこたまガンドを打ち込まれ、

瓦礫の山が生成された部屋の掃除を命令されたアーチャー。



彼は今現在料理中のようだ。



…………サーヴァントとは、わかりやすく言えば伝説に残るほどの偉業を成し遂げた英雄であるはずなのだが、しかし。



「よし。できればお米が食べたかったが、まあいい。さて、食べるか」



昨夜の腹の虫に始まり口ずさむ鼻歌のチョイス、キッチンにておそらく自身の物であろう朝食を用意する姿。



とても英雄とは思えない。



良く言えば庶民的、はっきり言えば情けない印象の三枚目と言ったところか。



初めて会ったはずの相手の家のキッチンで、まるで自宅のように振る舞っているところを見ると、

神経はかなり図太そうであるが………。



ガチャリと。



ドアを開けるはこの家の主にして、アーチャーのマスター。



魔術師、遠坂凛である。



顔を見る限り、寝起きは良くはないようだ。


というよりも、完全に不機嫌である。




「ムグムグ、あっ、おはようございます。マスター」


「ええ、おはよう。アーチャー。あなたはなにをしているのかしら」



「なにって、朝飯食ってます」



ひょっとしたら目の前で勝手知ったる他人の家を文字通り体言しているアーチャーが原因かも知れない。



「ところでアーチャー。あなた一体どうやってその朝食を作ったのかしら?」



「冷蔵庫からバターを、棚からジャムとパンを持ってきて〜、あっマスターも食べます?」



「私はいいわ。朝は食べない主義なの。……………いや、そうじゃなくて」



「マスター、朝食を食べないとどうなるか知ってるか?」



「いや、朝食を食べるか食べないかの話じゃなくて」



「太り易くなる。」



「アーチャー、あんた話し逸らそうとしてるでしょ」



「なぜバレた!?」



「あら、そうだったの」



「嵌められた!?これが世に言う孔明の罠か……………」




こんなものが孔明の罠なら、世界には一体どれほど時代に名だたる名軍師となれる人間が居るのだろうか……。





「さて、アーチャー。私の家のキッチンを勝手に荒らした言い訳は思いつくかしら?」



凛は言う。もちろん、指をアーチャーに向けながら。




「昨日の掃除でお腹が減ったからです、マスター!」




「言い訳するなッッ!!!!!」

「それじゃなに言っても意味な…アッーーーーー!!!!」











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昨夜と同様、アーチャーにしこたまガンドを打ち込んだ凛は穂群原学園への道を歩いていた。


ちなみに、アーチャーの話しを聞いたからか今朝はトーストを一枚食べ、

それをどや顔で見ていたアーチャーに再びガンドを打ち込んだのは余談である。



−−−あ〜、少しだるいわね。ガンド撃ち過ぎたかしら。−−−



てくてくと歩きながらふとそんなことを思う。


周りからは熱の篭った視線を送られていたりするが、さも他人事のように歩き続ける。


遠坂凛、学園などの表向きでは容姿端麗、文武両道、才色兼備の優等生……を演じているからこその視線である。


その実態は………………アーチャーへの対応で推して量るべし。


さて、そのアーチャーは今どこに居るのか。


(マスター、お腹減ったんでちょっと実体化してあそこの屋台)



(………ガンド)



(なんでもないです。このまま霊体のままマスターに着いて行きます。だからガンドは勘弁して下さい本当に!!!)





…………………………。


なんとも情けない内容ではあるが今のアーチャーを説明するにはちょうどいいだろう。


サーヴァントは魔力供給を断たれると霊体、つまり幽霊のような状態となり大概の無機物を通り抜けることができるようになり、

その状態でもマスターと意思を通わせることができる。


魔力消費を抑え、聖杯戦争中の護衛として常に身近に待機させることにうってつけの状態である。


そして今、アーチャーは霊体となり凛と共に学園へ向かっている。


ようやくサーヴァントらしいことをしたんじゃないか、このアーチャーは?


(ところでマスター)



(なによ、バカーチャー)



(なんすか、そのバカーチャーって人をバカにしたようなバカ丸出しなバカっぽいそれは?)



(聞きたいのはそれだけ?バカーチャー)



(…………今はそれだけでいいっす。それでなんすか、バカーチャーって)



(マスターをバカにするようなことをするバカ丸出しのバカっぽいアーチャーのこと。お似合いだと思うわよ、バカーチャー)



(………………………)



(どうかした?バカーチャー?)



(言い返そうにも反論の余地がないことがすぐわかったっす…………)



(そんなあんたにピッタリの四文字熟語を贈るわ。)

















(自業自得よ、バカーチャー)









この時の勝ち誇った心境がこぼれ落ち、なにも無い場所でにやけてしまい、

友人に心配され恥ずかしい思いをすることを彼女はまだ知らない。






そんな彼女、遠坂凛にこの言葉を贈ろう。









………自業自得、と。






-2-
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