第四幕 マスター、そんな目で見ないで欲しいです。
「さて、そろそろバカーチャーの真名を教えてもらいましょうか」
遠坂邸のリビングにてテーブルに肘を付き顔の前で手を組んだツインテールの少女が、180センチ後半のバランスの取れた身体をしているがしかし、どこか間の抜けた糸目の男に声をかける。
言わずもがな、少女は遠坂凛であり男はバカーチャー、もといアーチャーである。
なにげに初めての容姿の描写である。
「はい、そうっすね………………」
「……………………バカーチャー、とりあえず夕飯食べたんだから鯛焼きガン見してないでとっとと真名を言いなさい」
少しばかり食べ物に対する執着が強すぎるんじゃあなかろうか、このバカーチャー。
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凛side
「ハァ!?」
「マスター、まるで猫に追いかけ回される犬を見るような、そんな目で見ないでくだせぇ」
いや、無理ね。
数十分前に固めた’どんな英雄でも驚かない‘なんて決意が粉みじんに吹き飛んだわよ。
ロビン・フットだとか、ないだろうけれど那須与一だとか、
天地がひっくり返ってもこいつの性格からは考えられないけれどヘラクレスだとか想定してみたけれど……………。
「いくらなんでも未来の、しかも平行世界の英雄って、ねぇ?」
「一応召喚された時からこの服装だったはずっすけど……………」
そんなバカーチャーの言葉に服装を観察してみればポロシャツにジーンズ、その上にフード付きの薄手のジャンパー。
確かに言われてみれば少なくとも現代の格好ではある。
「なんで言われるまで気付かなかったんすか、マスター」
なぜかと言われれば、それはもちろん………
「腹の虫。なにか文句は?」
「…………………………」
正直に答えてみせれば冷や汗をダラダラと。
指摘すればきちんと自覚を持つのはいいことね。
「そんなことよりバカーチャー、私が信じられないのは時間軸じゃなく場所よ場所」
平行世界。このことに関してはかなり詳しい。
いや、遠坂の当主としては詳しくなくてはならない。
なぜならば、私の。遠坂の悲願は。
魔法……’平行世界の運営‘にいたることなのだから。
「あんたのいた世界には魔術があったんでしょ?」
「正確には呼び名と理屈が違うって感じみたいですけどね」
「それじゃ、冬木って地名にあった?」
「無いですね、多分」
これだけ聞ければ十分ね。
「はっきり言えば、平行世界って言うよりは異世界ね。違いがありすぎるもの」
ただ、少し気になるのは………
「聖杯って異世界から英雄を呼び出せるのかしら?」
「マスター、細かいことは気にしたら負けです」
「あんたはもっと気にすべきよ、バカーチャー」
「まぁ、強いて言えばマスターのうっかりで偶然……ぐらいしか思いつかないっす」
「なによ、私になにか問題があったって言うの?」
「パラシュートなしのスカイダイビング」
「うっ……………」
これだけはなにも言えないわね…………。
「ま、まぁ。あんたの言う通り気にしない方がいいわね、うん」
「ところで作戦とかどうするんです?その為に真名を知りたがったんでしょ?」
……なん……だと……。
「嘘でしょ…………………バカーチャーが、
真面目な話を振ってきた……………なんて…………」
『ぐぎゅるるるるるる』
「腹減ってきたんで早く話終わらせたいんですけど」
「よかった……本当によかった………心配させないでよ、バカーチャー!!!」
いきなり真面目になったから心臓が止まるかと思ったわ。
「マスターが俺のことどう思ってるかよくわかったっす……………」
なんだかバカーチャーがしょんぼりしてるけどまぁ、いいわ。
「作戦ね………正直お手上げね。ぶっちゃけガンドで後方から援護くらいしかやれそうに無いし」
そもそもセイバーを召喚した時のことしか考えていなかったし、銃を使った闘い方なんて専門外もいいところよ。
「とりあえずは他のサーヴァントと闘う時にはよほどのことがないかぎり死なないように回避中心に闘えってだけね」
サーヴァントには知名度による補正がつくらしいから、そもそもこの世界の出身でないバカーチャーはかなり不利になるだろうし。
「わかったかしら、バカーチャー?」
「あいあい、マスター。死なないように回避中心に闘うんすね」
同意も得られたようだし、特に話すべきこともないし………………
「そろそろ寝るわ。おやすみ、バカーチャー」
「マスター、ちょっといいすか」
「なに?しょうもないことだったらガンドよ」
「いや、真名を名乗ったのにバカーチャーのままなんで……マスター、話はまだあるんでその指降ろして」
「それで?なによ」
「フゥ…いや、俺って真名で呼ばれた方が相手に情報与えないんじゃないかって思って」
「バカーチャーにしては気が利くわね。でも意味はあるわ」
「………どんなっすか」
「あんたの話を聞く限り、あんたの闘い方はクラス名からは読めないわ。だから、ね」
「なるほど、さすが優等生を演じて居るだけあるっす」
「だ か ら 、演じてるって言うなッッ!!!!!」
「アッーーーーーーーーーーー!!!!」
実際は’樫屋修三‘って名前がしっくりこなかったっていうのが理由の七割を占めているのは秘密だ。