小説『マスター、お腹減ったんでちょっと出掛け……すいません、ガンド撃たないで!』
作者:モアイ()

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      第五幕   マスター、贅肉(ぜいにく)は余裕の現れだと思うのです。





(アーチャー、気付いてる?)



穂群原学園、2年A組の教室にて遠坂凛は少しばかりの緊張を滲ませながら、自身のサーヴァントたるアーチャーに呼びかけていた。


しかし、傍からみればただぼんやりと窓の外を見ているようにしか見えない。


その整った容姿ゆえに、幾人かの生徒が熱を持った視線を向けるほどの芸術品とでも言うべき、しかし周りからすればいつも通り。


さすがとも言える猫かぶ……ゲフンゲフン、演技である。


普段のアーチャーとの漫才じみた会話からは考えられない。


そして……。


(………アーチャー、アーチャー……?)



そして…………。


(………………バカーチャー…?)



そして…………?



(あ〜、あの雲ソフトクリームみたいだなぁ〜。あっちはシュークリームに見えてきた)


(……………………)




相も変わらず普段通りの、悪い意味でさすがなボケッぷりを晒すバカーチャー、もといアーチャー。



(………………………………………………………ガンド)



(ひっッ!…………ああ、気付いているさマスター)



マスターの呼びかけに気付かないでなにに気付けるとおっしゃるのだろうか、この腹ぺこバカーチャーは…………。



(…………そう、なら私が何について聞いたか答えてみせて)



少なくとも凛は疑っているようだ。


いや、疑わない方が心配ではあるが。


(あれでしょ、朝からずぅっとマスターのことを探るように纏わり付いている気配のことでしょ)



思いのほか真面目な答えである。



だが、しかし。


その答え方はよろしくない。


(あら、キチンと気付いていたのね)



(えぇ、これでもサーヴァントですから)



(なら、なんで気付いた時すぐ伝えなかったのかしら)





(…………………あっ)



こうなるからである。



(いや、その、マスターなら伝えなくとも分かると思いまして……)



(それでも伝えるべきだと思うわよ?サーヴァントとしては)



(すいまっッせんしたああああぁぁぁ!!!!ガンドは、なにとぞガンドだけはご勘弁をおおぉぉぉ!!!!!)



(…………そうね、ガンドだけは勘弁してあげる)



(あ、ありがたやああぁぁぁ!)



(うっさい。落ち着きなさい、バカーチャー。多分こいつはサーヴァントだと思うわ)



(そうでしょうねえ〜)



(だから放課後、学校に残って様子を見るわ)



(……………夕飯は?)



(………なしよ)



(………そんな殺生なあああぁぁぁぁ!!!)



(べつにいいじゃない。あんたの言った通り、ガンド’だけは‘勘弁してあげたんだから)


(お、おお、おおおおおおぉぉぉぉ!!!!!!)



これは完全に、バカーチャーが悪い。






なお、この漫才じみたやり取りのあいだ、凛の表情は崩れず芸術品とも言える状態を保ち続けていた。





大した猫かぶりである。








〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





凛side




(……そして、時は動き出す)






(なに言ってんのよバカーチャー)


(なんだか言わなきゃいけない気がして)




………わざわざ夕暮れも過ぎて夜になっても学校の屋上にいる意味わかってるのかしら、このバカーチャーは。



そもそも聖杯戦争の最中なのにシリアスが足りな過ぎるだろう。



ガチガチに緊張されるよりはマシなのかもしれないが、ふざけ過ぎな気がしないでもない。



他のサーヴァントが来るであろうこの状況でだ。



今度ふざけたことを言ったらどうしてやろうか?




……………………私も私でこの状況でこんなことを考えるようになってしまった。



これもバカーチャーの影響に違いない。



今度はふざけたら、なにも言わずにガンドを撃ち込んでやろう。そうしよう。



(……………マスター、ちょっち質問いいですか?)



(なにかしらバカーチャー?)



(え〜とですね……とりあえず魔力練らんで下さい)



あら、意外とばれるもんなのね。



言われた通りに練るのを止める。



ふぅ、とバカーチャーはため息をつく。



……………ため息をつきたいのはこちらの方だ。



腹の虫で言葉を遮る、勝手にキッチンを漁る、マスターをバカにしたような態度。


これらを悪意なくやってのけるのだ。



天然、という奴なのだろうか。



はっきり言って天然が美点になるのは女だけだろう。



男のそれは、単なる欠点だ。



(確かこの聖杯戦争、魔術に関係ない一般人に目撃されたら抹殺するのが暗黙の了解、でしたっけ)




…………………………。



……バカーチャーが真面目な話をすると飛び跳ねる心臓に自分でも驚きだわ。



もう私の中ではバカーチャーはバカーチャーで固定されてしまっているのだろう。



しかも、多分もう覆らない。


……………全然うれしくない事実だわ。


ともかく、それは置いといて。



(いえ、違うわ。目撃された時には騒ぎにならないようにすればいいだけよ。まあ、大半の魔術師は殺すでしょうけど)


(俺はもし目撃されたとしても一人くらいなら記憶も消さないでほっといても大丈夫だと思います)



………はあ?


(なに言ってるのバカーチャー!?魔術は秘匿されるべきものだって教えたはずでしょう!?)


(例えば、白い服を着て杖を持ったツインテールの女の子が呪文を唱えたら桃色の光線が杖から出てきたって話を聞いたとしましょう)


(………例えがやたらと具体的ね)


(気のせいです。………ぶっちゃけ、魔術を見られて周りに話されたとしてもこの例え話を真面目に話したような反応しかしないと思いますよ。頭の心配をされるか笑われるか)


(だから、見られても記憶を消す必要はないと)



言われてみればそうかもしれないが、しかし。



(アーチャー、それは心の贅肉(ぜいにく)よ。捨てなさい)



心の贅肉は合理的な思考の邪魔になる。


(贅肉がついていると鈍くなるわ。鈍い思考で生き残れるほど甘くないわよ、聖杯戦争(ころしあい)は)


(………マスター、俺は贅肉は余裕の現れだと思うっすよ?それに………)



(………それに?)



(ガリガリな体型より、ちょっとムチッとした体型の女性の方が俺は好みっす)



ハァ、全く。

このバカーチャーは。



(そう、ならなおのこと贅肉を落とさないと)



……………私のペースが乱れるったらありゃしない。




凛sideend




(ちょっ、どういうことっすかマスター)



(うっさい、バカーチャー)


(マスター、ガンドは!ガンドはやめてッ)



どうにも賑やかで和やかなやり取りではあるが、しかし。









「いい夜だな、そこの嬢ちゃんもそう思うだろう?」





第五次聖杯戦争、最初の闘いの幕開けは、すぐそこである。

-5-
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