小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 宿に戻ったアランたちは、揃って寝台に横になった。経費節約のためと二人一部屋で頼んだが、きちんと二人分の寝台が用意されていたのは嬉しかった。
「やっぱ岩の上に藁むしろより、ふかふかの寝台だよなあ」
 何度も寝台の上で跳ねながらヘンリーが言う。おそらく修道院でもこうした子どもじみた態度を取っていたのだろうなとアランは思った。
 ふと、ヘンリーがこちらを向いた。
「なあ、アランよ。お前、本当にあの婆さんの話に乗る気か?」
「うん」
 苦笑を浮かべながらうなずいた。ヘンリーの言わんとしていることがよく理解できたからだ。つまり、『騙されてんじゃねえの?』と。
 自分たちの懐具合を見事に言い当てた占いババは、あの後こう話を持ちかけてきた。
 ――あたしの知り合いに、ちょっと変わった事業をしている人間がいてね。そいつが腕に覚えのある奴がいたら紹介してくれと言っていたのさ。その点、あんたたちなら問題ないだろ?
「怪しいぜ」
 ばっさりと言う。
「そりゃあ金が稼げるなら願ったりだけどよ。あの婆さんの知り合いだ。どうもまともな仕事とは思えないんだよなあ」
「腕に覚えがあるってことは、何か力仕事? それとも何かを採取してくることなのかな? モンスターの巣に行ってこいとか」
「その予想、当たってるかもしれないぞ。第一な、知り合って間もない人間に対して、所持金をあっさり見抜いて暴露した上に、儲け話まで持ちかけるなんて、どう考えても普通じゃないぜ」
「うーん。ヘンリーが『普通じゃない』って言葉を使うと、何か違和感があるね」
「やかましいわ」
 アランは微笑んだ。
「でも、あのお婆さんは別に何かを企んでいるようには見えなかったよ。そりゃあかなり変わった人ではあったけどさ。悪い人じゃないんだよ、きっと」
「そりゃあ甘すぎるぜ……と、言いたいところなんだが、お前の眼力は馬鹿にならないからな。アランが悪い人じゃないって言うんなら、きっと本当に悪人じゃないんだろう。けどよ、それとこれとは別だぞ」
「うーん……」
 腕を抱え、しばし考える。ヘンリーの言うことは一理あるが、残金が心もとないのも事実だし、占いババの厚意を無下にするのも気が引ける。奴隷時代に鍛えているから、多少の無茶は乗り切れるはずとアランは考えた。
「とりあえず、一度行ってみようよ。引き受けるか断るかは、そのとき決めよう」
「わかったよ。じゃ、今日はもう寝ようぜ。久々に街を歩いて疲れちまった」
 着替えもそこそこに大の字になる。すぐにヘンリーの寝息が聞こえてきた。場所を選ばず熟睡できる特技がここでも発揮されている。アランもまた寝具の中に潜り込み、心地良い疲労感に任せて目を閉じた。
 

 翌日。
 占いババから渡された地図を頼りに二人はオラクルベリーの街を歩いた。
 手書きのそれは意外に精密で、おかげで道に迷うことはなかったが、歩けば歩くほどアランとヘンリーの表情は曇った。
「おい……本当に大丈夫なんだろうな?」
「う、うーん」
 さすがのアランも自信なさげに唸る。
 彼らが今歩いているのは、街の裏路地であった。陽が差さずじめじめしている上に、道が異様に狭い。大人ひとり通るのがやっとで、場所によっては壁と壁の間を横歩きに進まなければならないほどだった。手に持った地図が両脇の壁にこすれてがさがさ音を立て続けている。
 苦労して進むことしばし。ようやくひと心地つけるような場所に出た。小さな民家一軒分ほどの空間に、ぽつんと一箇所、地下への階段が設置してある。四方はほぼ遮られ、薄暗い。西側の壁に錆びた鉄の扉があるところを見ると、かつてはきちんとした入り口があったのだろうと思われた。
 扉どころか看板すらもなく、ただ地下階段の入り口が鎮座するだけの光景に、ヘンリーは顔をしかめた。そして隣に立つ親友を横目で見て、大きくため息をつく。
「その顔……やっぱ入るんだろな、お前はよ」
「ねえヘンリー、何か感じない?」
「は? 感じる?」
「うん。不思議な感じ。モンスターみたいな威圧的なものじゃなくて、もっと大らかな気配って言うのかな。人間にしては変な感じだ」
「マジかよ。勘弁してくれ」
「行こう、ヘンリー」
 言うなり歩き出すアラン。ヘンリーは天を仰ぎ、彼の後について階段を下りた。

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