小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 振り返る。そこには舞い上がった粉塵が見えるだけで、モンスターの姿はない。だが気配を敏感に捉えたアランが、咄嗟に松明を掲げた。その光に闇が切り取られ、ちょうど立ち止まった敵の姿を浮かび上がらせる。
「キュキュルル!?」
 戸惑ったように甲高い声。体はとても小さく、両手で抱えられるくらいしかない。特徴的な顔付きに、見るも眩しい銀色が映える――
「って、あれ『メタルスライム』じゃんか!」
 ヘンリーが叫ぶ。興奮した様子だった。
「こりゃ珍しいモンスターだ! こんなところにいたんだなあ」
「そうなのかい? 色は違うけど、姿形はスライムと変わらないみたいだけど……」
「知らねえのか? メタルスライムはな、倒した者に大きな力を与えるって信じられているんだよ。滅多に逢えないモンスターだ。倒せば縁起が良いんだろうぜ、きっと! よしアラン、奴が戸惑っているうちに仕留めちまおう!」
「頭!」
 ほくそ笑むヘンリーの隣で、ブラウンが警告の声を上げた。すでに、メタルスライムの姿は松明の光から逃れてしまっている。
「ピキィーッ!?」
 背後でスラリンの悲鳴。咄嗟にチェーンクロスを構え振り返ったアランは、小さく呻いた。一瞬でアランたちを抜き去ったメタルスライムが、スラリンに襲いかかっていたのだ。
 同じくらいの大きさにも拘わらず、メタルスライムは大口を開けてスラリンを頭からかじっている。スラリンは涙目で叫んだ。
「いたいいたいいたいよー!」
「スラリン! 待ってろ、今助ける!」
 チェーンクロスを振るう。わざと狙いを外した威嚇の一撃が地面を抉った。メタルスライムの動きが止まり、こちらをじろっと見る。
 スラリンから引き剥がすため駆け出したアランの姿を捉えるなり、メタルスライムはスラリンから離れた。そのまま凄まじい速さで走り、あっと言う間にチェーンクロスも届かない間合いに逃げる。
 すんすん、とすすり泣くスラリンを抱えてホイミをかけながら、アランは呆然とつぶやいた。
「凄い……何て速さだ」
「ま、この頭抜けた素早さが奴らメタル属の真骨頂なんだろうがよ。ますます仕留めてみたくなったぜ。アラン、奴は俺に任せてくれ!」
 ヘンリーはくさりがまを構えるなり、ひとりメタルスライムに突進する。この辺りの猪突猛進さというか、後先考えない無鉄砲さは子どもの頃から変わらないらしい。
「うっ……うっ……」
「スラリン、大丈夫かい」
 頭の部分にうっすらと歯形が残っている。大きな目に涙を浮かべるスラリンを、ブラウンは容赦なくおおきづちで小突いた。
「いたい!? ブラウンいたい!?」
「うるさいわ」
「ちょ、待つんだブラウン。さっきのはひどくないかい?」
「頭、よく見て。べつにそこまでいたくない」
「え?」
 ブラウンに諭され、もう一度スラリンの体を見る。ホイミをかけたためか、歯形はすぐに目立たなくなった。本人も泣いてはいるが、一応元気だ。
「遊ばれただけ」
 と、ブラウン。すでに戦闘態勢を解いた彼女は自分の得物でヘンリーたちを指す。
「あっちも。あの『メス』はひさびさの人間に興奮して、うわー、ってなってるだけ」
 冷静にブラウンが指摘した通り、メタルスライムはヘンリーの周りを高速で周りながら挑発を繰り返していた。何度か斬撃は当てていたようだが、その何倍も空振りをさせられているヘンリーはすでに肩で息をしていた。奴隷時代を生き抜いた彼だ。体力にはそれなりに自信があるにも関わらず、である。
「くそーっ! いい加減倒れろよっ! この銀ぎら野郎!」
「キュルルルッ!」
 ヘンリーの言葉に激昂したのか、メタルスライムの動きが激しさを増す。素早さだけでなく防御力と耐性もずば抜けて高い種族だ。単なる体当たりだけでも相当なダメージとなる。
 援護に行かないと、そう思ったアランの胸の中で、ふとスラリンが一声鳴いた。今までと少し違い、怒ったような声音である。――実際、彼は怒っていた。
 同じスライム属にいいように弄ばれて、天真爛漫な彼も腹に据えかねたらしい。いつの間にか泣き止んだスラリンはアランの胸から飛び降りると、そのままメタルスライムに突進していった。
「もうおこったよ! みんなをばかにするな!」
「待て、スラリン!」
 アランの制止を振り切りスラリンが走る。メタルスライムには及ばないものの、その足は意外に速い。
 スラリンの姿に気づき、こちらを振り返ったメタルスライムが口をすぼめた。まるで龍が火を吐く間際のように息を吸い込む。
「――、メラ!」
「呪文!?」
 驚愕するアランの前で、メタルスライムの口から小さな火の玉が飛び出す。狙いはまっすぐ、スラリンだ。
 脚力を最大限に使ってスラリンの前に回り込み、かばう。目前に迫ってくる火の玉を睨みつけた。気合一発、自らの拳でメラの呪文を叩き落とす。
「くっ……!」
 耳に微かに、皮膚が焼ける音が響いた。
 歯を噛みしめ、チェーンクロスの柄を握る。驚いたように目を見開いたメタルスライムに向け、アランは吼えた。
「はあああぁぁぁっ!」
 渾身の力と集中で放った一撃は、矢のように空気を切り裂き、直後、メタルスライムの硬い体を弾き飛ばした。

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