小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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 地面を荒く削ってできた階段を下りる。「こほん」とアランは軽く咳をした。
 何やら砂埃が舞っている。壁に備え付けられた松明の光に照らされ、細かな粒がきらきらと舞っていた。
 奥で声がする。呻き声のようだ。
 『かしの杖』を抱えながらアランは走った。折れ曲がった道の先は広場になっていた。天井は高く、時折細かな砂が落ちる。漂っていた砂埃の正体はこれだったのだ。
 その真下、ちょうど広場の中央に、大きな岩が転がっていた。呻き声はその下から聞こえてくる。
「おーい、おーい」
「だ、だいじょうぶ?」
「おおっ。助けに来てくれたのか!」
 アランが駆けつけると、岩の下で横たわっていた男が歓声を上げた。初めアランは、男の下半身が丸々下敷きになっていると思い顔を青くしたが、男はあっけらかんとした表情で言った。
「帰ろうとしたら上から岩が降ってきてなあ。ご覧の通りの有様で動けなくなっていたんだ。ああいや、心配するな。わしがはまったのはちょうど窪みになったところ。運良くぺしゃんこにならずに済んでるよ。ただ抜け出そうとして腹がつかえてしまってなあ」
「えっと。お薬を作っているしょくにんさん?」
「いかにも。まさかお前さんのような小さな子が来てくれるとは思わんかった。勇気のある子じゃ」
 下敷きになったひげもじゃの男に言われ、アランは苦笑しながら頬をかいた。
 男は逞しい腕を伸ばし、下から岩を押し上げる仕草をした。
「お前さん、ちょっと手伝ってくれんか? もう少しでどかせそうなんだ」
 見ると、少しだけ岩が浮いている。地面の凹凸を利用すれば、確かに転がしてどかせることができそうだ。アランは言われたとおりに岩に手をかけた。
「いいか? いちにのさん、で行くぞ。それ、いち、にの」
「さんっ!」
 渾身の力を込める。ぐら、と岩が傾いたかと思うと、次の瞬間には大きな音を立てて岩は転がった。「ふぃー、助かったわい」と言いながら男が立ち上がる。
「ありがとう、礼を言うよ。ずいぶん力持ちなんだなあ」
「ううん。そんなことないよ。おじさんが力持ちなんだ」
「はっはっは。……おっと、こうしちゃいられない。急いで帰らなければ。ではな、坊主! お前も早く戻るんだぞ!」
「あっ、おじさん!」
 言うが早いか、男はあっという間に走り去っていった。小太りな体型に似合わない俊敏な動きだった。あれでどうして岩の下敷きになったのか、もしかしたら結構どじな人なのかもしれない。
 くすり、とアランが笑ったときである。
「うわああっ」という男の悲鳴が洞窟内に響き渡った。アランは『かしの杖』を握り、慌てて駆け出した。
 階段のふもとで男が立ち止まっている。彼の前に立ち塞がっていたのは――
「おおきづち……」
 顔を強ばらせるアラン。
 武器である大きな木鎚を振り回しているのは、まさしくおおきづちだった。
 がつんっ、と威嚇するように地面を叩く。相変わらずの力だった。
 しかも一匹ではない。三匹。上へ登る階段を塞ぐように立っている。
「こりゃあ……まいったな。さすがに今のわしでは三匹同時は……」
「さがって、おじさん」
 決意の表情でアランが前に出る。男は驚きの声を上げた。
「まさか、戦うつもりか?」
「うん。この子の仲間とは一度、戦っているんだ。……まけちゃったけど」
「それなのに戦うつもりなのかい、お前さん!?」
「うん。だって、にげてばかりじゃ、お父さんをがっかりさせちゃうから。それにおじさんも守らないとね」
 アランは身長よりも大きな『かしの杖』をおおきづちに向けた。
「……今度こそ、まけないよ!」
 おおきづちがいきり立ったように襲いかかってきた。

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