小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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「ねえ」
 荒い息を整え、次の動きに入りながら、アランはスライムナイトに問いかけた。
「君は、他のモンスターとはまったく違うんだね」
「どうでしょう」
 アランの一撃をはじき返し、スライムナイトは数歩下がる。鎧兜のせいでどのような表情を浮かべているのかはわからないが、その動きは最初に比べると若干鈍っていた。
「私はただ仲間を守り、強き意志に触れる、それだけを目指してここまで生きてきました。あなたが、その生き方は他と違うと言うなら、そうなのでしょう」
「やっぱり変わっているよ。君は」
「ならば逆に問います。アラン、あなたはなぜ魔物とともに在ろうとするのです」
 剣先をアランの眉間に向け、スライムナイトは言った。アランはしばし考え、自分が思ったこと、感じたことをそのまま口にする。
「僕はずっと父さんと二人だった。その父さんが死んで、自分の力でどれだけのことができるか考えた。でもそういうときって、いつも誰かの、何かの導きがあったんだ」
 わずかに剣先を下げる。
「僕一人でできることなんて知れている。でも僕の力を必要としてくれる人や、僕の力で新しい道を歩くことができた者たちも確かに存在する。モンスターたちと一緒に旅をしているのも、彼らが僕と歩くことを選んでくれた以上、自分にできる限りのことをしようとしているだけだよ」
「そうですか」
「ああ。きっと父さんも、そうやって自分の旅を続けてきたんだと思う」
「アラン。もし私が、今この場であなたの行く末を断ち切ると言えば、どうしますか」
 わずかの沈黙が降りる。スライムナイトはゆっくりと剣を大上段に構え直した。
 アランもまた、体をしぼるように鋼の剣を後ろに引く。抜剣の要領で、すべての力を込めた一撃を放つべく、構える。
「僕は負けない。必ず父さんの意志を成し遂げる。そのときまで、僕は倒れるわけにはいかない。だからたとえ君が相手でも、僕は全力でぶつかる。断ち切らせないよ。僕は生きて、この道を歩くんだ」
「よい気迫です。ならば私も全力で応えましょう。……これが最後の一撃です。我が渾身の剣、受けてみなさい」
 周囲の殺気が一段と濃くなった。
 もはや空気さえ肌を刺す痛みを与えそうなほどの重苦しい雰囲気のなか、アランは静かに瞑目した。
「ねえ、君。僕は負けるつもりはないけど、君を滅ぼす気もないよ」
 スライムナイトの剣先がわずかに揺れた。
「あなたの心、この剣にて見させていただきます」
「うん。……行くよ」
 刹那の沈黙。
 直後、アランとスライムナイトは獣のような咆哮を上げた。傍目に見てもわかるほど全身に力を込め、そして走る。
 互いの間合いに一瞬にして入り込んだ。
 突進の勢いを生かし、一撃を放つ。剣の軌跡が白刃となって交差した。
 力が拮抗したのは、刹那のことだった。
 ――やはり、君は他のモンスターとは違う。自らの信じるところに真っ直ぐで、そして優しい。
 柄を握る手から腕、肩、胸、脚、全身あらゆるところに走る衝撃の中で、アランは確かに感じ取った。
 スライムナイトの剣に自らの体を近づけるように、さらに一歩踏み込む。
 ――だから伝えよう。これが僕の意志。
 怖れず、勇気と信念を持って前に出る。
 前進の圧力に耐えきれず、スライムナイトが体勢を崩す。
 アランは吼えた。
「僕は、必ず成し遂げてみせる!」

 きぃぃぃいいいぃ……ぃ……ん……

 長い余韻を残し、鋭く、高い金属音が草原に響き渡った。
 誰も、何も言わない。ただただ息を呑んでいる。
 激しい動きにはためいていたアランの外套が、自らの重みでふわりと落ちる。身じろぎせず歯を食いしばっていたアランは、溜まっていた息を少しずつ、ゆっくりと吐き出した。
 顔を上げる。
「なるほど」
 達観したような静かな声がかけられた。
「それが、あなたの意志というわけですね」
 ざん! と一本の剣が地面に突き刺さる。――アランに弾き飛ばされた、隻腕のスライムナイトの剣であった。
「よく理解しました。この身をもって。私の負けです」
 振り上げていた剣を下げ、アランは体を起こした。スライムナイトはゆっくりと歩き、自らの剣を地面から引き抜く。それを鞘に収めると、再び彼はアランの前に戻ってきた。
 そして――
「おお……」
 ヘンリーたちが静かにどよめく中、隻腕のスライムナイトは深々と頭を垂れた。騎馬たる大きなスライムとともに、アランの前に跪く。
「我が身はその意志とともに。このスライムナイト、今よりあなたの剣となり盾となることを、ここに誓いましょう」
 魔物の騎士、忠誠の言葉だった。
 息を整えていたアランはしばらくの間スライムナイトをじっと見つめていた。自分でも驚くほど心の中が凪いで、穏やかになっている。こんな気持ちは初めてだった。
 考え込む必要はなかった。ただ自分の感じるままに彼の忠誠を受け入れ、そして告げる。彼にとって、自分にとって、重い意味を持つ言葉を。
「よろしく頼む。君の名は――ピエールだ」
「はい。我が主」

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