小説『ドラゴンクエスト? 〜天空の花嫁〜 《第一部》』
作者:wanari()

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「ゴースさんの話だと、『カギの技法』はこの洞窟の一番下、宝箱の中に保管されているそうよ」
「宝箱……もしかして、カギの開け方が書かれた本がはいっているのかな? どうしよう、僕は字が読めないよ」
「そこは心配要らないわ。私がいるし。それに、『カギの技法』はもともといろんな人が自由に使えるように編み出された技だと聞いているわ。だったら、小さなアランでも身に付けられるような仕掛けがしてあるかもしれない」
「この洞窟みたいに?」
「そういうこと。さ、行くわよ。宝箱に辿り着くまでが大変なんだから」
「うん。チロル、君もいいかい?」
「にゃう!」
 とうぜん、と言わんばかりにチロルが自信満々に返事をする。
 ゴースの部屋を出て、アランたちは洞窟の地下を目指した。良く響く足音を聞きながら、アランはかつてサンタローズの洞窟を冒険したときのことを思い出していた。あのときも不安と期待と興奮に胸を躍らせて歩いたものだ。今の自分は、あのときより少しは成長できたのだろうかとアランは自問してみる。
 途端に、『おおきづち』から味わった苦い経験が脳裏に蘇る。
「アラン? どうしたの」
「ううん。何でもない。この先は僕にとってぜんぜん知らないところだから、気をひきしめなきゃって思ったんだ。それだけだから、心配しないで」
「頼もしいわね。本当にアランって、たくさんの冒険をしてきたのね」
 ベラが褒める。その口調には慈しみの響きが籠もっていた。アランは少しだけ笑ってから、すぐに表情を引き締めた。階下に降りる階段に差し掛かったときには、腰に提げていた剣を引き抜き、両手に構えたまま慎重に歩を進めた。
 チロルが首元をアランの足首にこすりつける。早く行こうよ、と急かしているようだった。
「わかってる。チロル、敵のけはいがわかったら教えて」
「にゃ」
 階段を下りきった。ドワーフの洞窟の特徴なのか、壁面は滑らかに整えられている。道は左右に一つずつ。奥に向かって緩やかに湾曲している。
 うぅー、とチロルが唸り始めた。直後、足音が耳に届いてきた。いや、足音だけではない。ばさばさ、と羽音らしき物音まで聞こえてきた。アランが剣を構え直す。
「待って。静かに」
 ベラがアランと、そしてチロルの頭に手を置いた。
「この音……モンスターは一匹だけではないわ。それに羽根の音もする。いけない、『メラリザード』が混じっているかも」
「メラリザード?」
「呪文を使うモンスターよ。その名の通り、メラの呪文が使えるの。連発はできないみたいだけど」
 アランはぶる、と肩を震わせた。レヌール城でビアンカが見せた呪文はアランの記憶にも新しい。あれが自分の身に降りかかると考えると、ぞっとした。
「やりすごしましょう。さいわい、モンスターたちは道の片方に固まっているみたい。反対側の道を進むわ。喋らないで、静かにね」
 うなずく。気配を探るためか、ベラが先頭に立って歩き始めた。彼女は隠密行動が得意なのか、見事に足音ひとつしない。アランはチロルの柔らかな毛並みを胸に抱いた。どうやら彼女は臨戦態勢に入っているらしく、歩くたびに爪が地面をこすって音を出していた。
 ううー、と再びチロルが唸る。頭を撫でながら「しずかに」とアランは言うが、珍しく彼女は黙り込む様子を見せなかった。モンスターが近くにいるから気が立っているのかと思い、そしてふと、顔を上げたときである。
 ――目の前に逆さまになった『つちわらし』の顔があった。
「うわああっ!?」
 チロルを思わず取り落とし、悲鳴を上げる。同時に主人を守ろうとチロルが『つちわらし』に襲いかかった。
「にゃああっ!」
「ギヒィィ」
「ちょ、アラン!?」
 いきなり勃発した戦闘にベラが大いに慌てた。彼女の背中に自らの背中を預け、アランは激しく鼓動する自分の胸を必死になって鎮めた。ベラが嘆息する。
「もう、あれだけ静かにしてって言ったのに」
「ごめんなさい……。あんなに敵が近づいていたのに気づかなくて。ベラが前にいてくれたから安心しちゃったみたい」
「…………」
「……。もしかしてベラもまったく気づかなかった?」
「ごほん」
 咳払いをひとつ。彼女は年長者の威厳を持って言った。
「とにかく、こうなっては戦闘は不可避だわ。アラン、囲まれる前に勝負を決めるわよ」
「うん。でももう囲まれているみたい」
 気まずそうにアランが言う。その言葉通り、細い通路の前後にモンスターは回り込んでいて、完全に挟撃の状態となっていた。威厳をかなぐり捨て、ベラはヤケになったように叫ぶ。
「中央突破!」
「うん、わかった」
 チロルを従え、アランは地面を蹴った。

 アランの剣技、チロルの素早い攻撃、そして何より複数の敵を一度に薙ぎ払うベラの呪文によって、アランたちは何とか包囲網を脱した。油断なく背後を警戒するアランの側で、ベラが大きく息をついている。
「だいじょうぶ? ベラ」
「え、ええ。何とか。実を言うとね、本格的な乱戦って初めてだったから。情けない話だけど……ふぅ。うん、もう大丈夫よ」
「ベラでも初めてのことがあるんだね」
「それはそうよ。妖精の村は、まあ、今はこんな状態だけれど平和なところだし、あなたのような人間の子と一緒に冒険するようなこともないし。だからこそ頑張らないとね」
 むん、とベラが拳を握り、アランは微笑んだ。
 洞窟は、さらに奥に続いている。

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