【ネガティブサンタさん】
『まだ今ならやり直せるから、部屋から出てきて』
母親の字でそう書かれた手紙つきの食事を食べ終えると、三太はそれを自分の部屋の外に置く。
そして、すぐに部屋を締め、カギをする。
そして、パソコンの前に向かう。
『・・はあ』
増田三太はニート歴5年になる。
ま だ 今 な ら や り 直 せ る。
母親は馬鹿みたいにそう繰り返す。
『やり直せるわけないじゃないか・・』
三太の一番上の兄は、父と同じ弁護士の仕事をしている。
二番目の兄は、業界で有名なイラストレ―ター。
『俺は一体、何をしているんだろう・・』
三太は深夜、家族が寝静まると、枕に顔を押し付け、むせび泣く。
自分の無力さと、愚かさを呪いながら・・。
やり直せるわけがない・・。
三太が引きこもるようになったのは、高校2年の時のクリスマス。
当時、三太は学校でいじめられていた。
いつもひとりだった。
弁当はトイレで食べた。
しかし、そんな彼にも好きな子がいた。
もちろん、三太は自分みたいな奴が恋なんかしていいなんて思ってなかった。
自分なんかが幸せになっていいなんて思っていなかった。
そ う 思 っ て い た。
そう思っていたはずなのに!
・・靴箱にあった自分あてのラブレターを信じてしまった。
舞い上がってしまった。
そして、それから三太は引きこもるようになった。
社会にいられなくなったのだ。
そんな彼をミンナは『働かないのなら死ね』と言う。
死 ね と 言 う。
そして、三太自身も自分は死んだほうがいいと思う。
死 だ ほ う が い い と 思 う。
そんなある日、三太は夢を見る。
幸せな夢だ。
自分がみんなから必要とされる夢だ。
幸せ夢だ。
そして、その夢から目が覚めた三太の中で、何かがはじける。
何 か が は じ け る。
『自分が幸せになれないなら、人を幸せにすればいいじゃないか!!』
三太はやっと気付いた。
そして、三太は本当の意味で自分を殺すことにした。
『これは自分のための人生じゃない。人のための人生だ!!』
そして、クリスマスイブの夜。
三太は、ネット通販で買ったサンタクロースの衣装に着替る。
たくさんのセブンイレブンの袋に、ネット通販で買ったプレゼントを詰め込む。
長い間、締めていたカーテンを引き、窓を開ける。
三太は目を細める。
窓の外には、待ちくたびれた二匹のトナカイがいた。
『待たせたな!』
三太はそう言うと、5年ぶりに街へと繰り出した。
そして、髭面のサンタは、やさしい顔で笑う。
『メリークリスマス!』
今年は、サンタがやってくる。