小説『超短編集3『憂鬱サンタの優雅な休日』』
作者:加藤アガシ()

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【ネガティブサンタさん】




『まだ今ならやり直せるから、部屋から出てきて』


母親の字でそう書かれた手紙つきの食事を食べ終えると、三太はそれを自分の部屋の外に置く。


そして、すぐに部屋を締め、カギをする。

そして、パソコンの前に向かう。


『・・はあ』


増田三太はニート歴5年になる。


ま だ 今 な ら や り 直 せ る。


母親は馬鹿みたいにそう繰り返す。



『やり直せるわけないじゃないか・・』



三太の一番上の兄は、父と同じ弁護士の仕事をしている。


二番目の兄は、業界で有名なイラストレ―ター。



『俺は一体、何をしているんだろう・・』



三太は深夜、家族が寝静まると、枕に顔を押し付け、むせび泣く。


自分の無力さと、愚かさを呪いながら・・。

やり直せるわけがない・・。



三太が引きこもるようになったのは、高校2年の時のクリスマス。

当時、三太は学校でいじめられていた。

いつもひとりだった。
弁当はトイレで食べた。

しかし、そんな彼にも好きな子がいた。

もちろん、三太は自分みたいな奴が恋なんかしていいなんて思ってなかった。
自分なんかが幸せになっていいなんて思っていなかった。

そ う 思 っ て い た。


そう思っていたはずなのに!
・・靴箱にあった自分あてのラブレターを信じてしまった。

舞い上がってしまった。


そして、それから三太は引きこもるようになった。

社会にいられなくなったのだ。

そんな彼をミンナは『働かないのなら死ね』と言う。

死 ね と 言 う。


そして、三太自身も自分は死んだほうがいいと思う。


死 だ ほ う が い い と 思 う。




そんなある日、三太は夢を見る。

幸せな夢だ。

自分がみんなから必要とされる夢だ。

幸せ夢だ。


そして、その夢から目が覚めた三太の中で、何かがはじける。


何 か が は じ け る。


『自分が幸せになれないなら、人を幸せにすればいいじゃないか!!』



三太はやっと気付いた。

そして、三太は本当の意味で自分を殺すことにした。




『これは自分のための人生じゃない。人のための人生だ!!』





そして、クリスマスイブの夜。


三太は、ネット通販で買ったサンタクロースの衣装に着替る。

たくさんのセブンイレブンの袋に、ネット通販で買ったプレゼントを詰め込む。


長い間、締めていたカーテンを引き、窓を開ける。

三太は目を細める。


窓の外には、待ちくたびれた二匹のトナカイがいた。



『待たせたな!』


三太はそう言うと、5年ぶりに街へと繰り出した。


そして、髭面のサンタは、やさしい顔で笑う。





『メリークリスマス!』




今年は、サンタがやってくる。


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