小説『超短編集3『憂鬱サンタの優雅な休日』』
作者:加藤アガシ()

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何かを求めるのなら、何かを失われ続けなければならない。




【教室メランコリー】





在る所に、陰の薄いネクラな少年がいた。

名前は、もう私も忘れてしまった。

なぜなら、彼の名前を呼ぶ者は特にいなかったし、そもそも彼を呼ぶ必要もなかったからだ。

少年は、協調性だけが求められる檻のような学校において、忘れられた生徒だった。


そんな少年の唯一の楽しみは(いや、あるいは唯一の生きがいと言ってもいいかもしれない)、読書だった。



だから、少年はクラスメイトが楽しく外で遊んでいるときも、一人教室に籠り、ずっと本を読んでいた。


しかし、もしも仮に、クラスメイトが『一緒に遊ぼう!』などと声をかけたとしても(まず、そんなことはなかったが)、少年はソレを断り、一人で本を読むことを取ったはずだ。



少年はそういうタイプの人間だった。


それはある種、遺伝子に組み込まれたシステムのようなものなのかもしれない。

少年の意思とは関係しない、予めそう決められたシステム。


そのシステムが、少年に『友達』というものを一切与えず、いつも一人にさせ、本を読ませたのかもしれない。



しかし、少年はそのシステムにより(あくまでシステムは仮説の話だが)、その引き換えたる報酬を受け取っていたのも、また事実だ。



この世界の物事には全て裏と表があり、同時に損と得があった。


『友達がいないこと』に見合った報酬。


それを少年は手にしていたのだ。


まず、第一に少年は想像力が凄まじかった。


色々な空想をし、それを上手に表現することができたし(もちろん、それを発表し、受け入れてくれる人間はいなかったが)、大人顔負けの論理的思考判断をすることもできた。



さらに、あらゆるジャンルの本を読み漁ったお陰で、いつも学校で一位の成績を取っていた。(そのお陰で、クラスに打ち解けられない少年は、マヌケでやっかいな教師達から目を付けられることはなかった)


そして、特に少年が、特化した能力は、『人のココロを読み解く』ことだった。



言い換えれば、経験と、その想像力を駆使し、人の顔を見ることによって、おおよそ相手の思考を実にクリアに感じることができたのだ。



しかし、これはよくなかった。


想像力は使い方を間違えれば、簡単に人間のココロに恐怖を与え、そして何かを奪い去り、最後には死にへと追いやっていく。


そして、少年はクラスメイトが自分のことを馬鹿にし、笑い、あるいは気味悪がっていることを感じ取る。(事実はどうあれ、少年にはそう感じた)






あるいは、少年の被害妄想だったのかもしれない。

しかし、それはどっちでもよいことだ。


とにかく、想像力豊かな少年は、あっという間に『ソレ』に飲み込まれ、深く傷つけられた。

それはそれは止めどなく深く深く。



もしかしたら、自分は怪物なのかもしれない。

あるいは、見られない幽霊?


いや、違う。

僕は正常だ。

周りのクラスメイトが、奴らが『変』なんだ。


あいつらが怪物に違いない。

いや、幽霊か?



こういったどうしようもない観念にとらわれ、追い詰められ、

次第に、少年は狂っていった。



どうしようもない方向の想像力が、少年の心を壊したのだ。



大部分においてアッチにいってしまった少年は、『怪物』であるクラスメイト達を消すことにした。


自分にまだ『人間の部分』が残っているうちに。
そうすることが唯一、自分のなかで拡散されたものを回収する方法だった。


そして少年は考えた。


『怪物』である彼らを消すためには、どうしたらよいか?


論理的思考に優れた少年は、すぐに思いつく。


実に簡単なことだ。



その方法なら、すぐにクラスメイト全員、いや、全世界の人々、動物、事象、全てのモノを一瞬にして消すことができる。


その方法を思いついた瞬間、少年はすぐに窓から飛び出し、もう鳥になっていた。








何かを求めるのなら、何かを失われ続けなければならない。


少年は怪物達を消すことと、いや、もっと重い『ソレ』から逃れることと引き換えに、全てを失った。


その全てを。


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