小説『鏡の中の僕に、花束を・・・』
作者:mz(mz箱)

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無理をしてオシャレにしようなどと考えてはいけない。中途半端にやってもおかしいだけだ。僕の家のリビングの扉もそうだ。なぜかステンドグラスが嵌っている。やや和風よりの我が家には、かなり不釣合いなものだ。そして、それが僕を苦しめた。
朝陽が、玄関から射し込んだ。それが徐々に家の奥へと、奥へと向かい、リビングのステンドグラスに届いた。つまり、リビングは暗闇ではなくなった。
テーブルに僕の姿が映る。と言う事はだ、奴が来る。しかし、僕はこの時夢の中の住人だった。奴の存在を忘れたかのように、深く眠っていた。
「ふわああ。」
あくびをした。このあくびは僕ではない。奴だ。眠っていた僕が映っていたから、はじめ奴も眠っていた。しかし、僕とは違いすぐに目を覚ましたのだ。
あくびをしてから、鼻、唇が隆起した。それから右手を天に向かって伸ばした。手首をコキコキと動かす。関節のなまりを取っているらしい。それから左手。
奴はかなり用心しているのだろう。ここまで現れても、まだ何もしなかった。両手をテーブルにつき、上半身を出した。その姿はまるでプールから出てきたかのような姿だった。ここまで現れたら全身を現すのだと、誰もが思うだろう。しかし、それはなかった。もしかしたら、奴は鏡の中から完全に出られないのかも知れない。
両手を挙げた。そして、何度か呼吸をしタイミングを測った。
僕は相変わらず夢の中だ。
いきなり後頭部を押し付けられた。顔が潰れる。が、それも一瞬だ。感じた。顔が冷たい。昨日と同じだ。僕は向こう側に攫われている。
「うわっ。」
寝起きにこの冷たさはこたえる。心臓が縮み上がった。
「死ね。」
奴は一言、淡々とした口調で言った。

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