小説『鏡の中の僕に、花束を・・・』
作者:mz(mz箱)

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ふと、頭に良からぬ考えが浮かんだ。
“もし僕が死んで、奴と彼女が付き合ったらどうなるのだろう?その方が彼女は幸せなのかもしれない。彼女の笑顔はずっと続くのかもしれない。しれない。しれない。しれない・・・。”

なんとなくだが、彼女との間に距離が出来たのがわかる。けど、それをどうしたらいいのかわからなかった。必要最低限の会話だけがあった。まるで、僕が働き始めた頃に戻ったようだ。それが良からぬ考えを加速させる結果になっていた。
「あの・・・。千代田君?」
「何?」
「もう駅に着いたよ。」
僕は駅を通り越していた。まるで、気がつかなかった。それだけ加速の度合いが強かったと言う事だ。
「あ、ありがとう。」
「あのさ、今日うちに来るのやめる?」
こんな雰囲気で、彼女の家に行っても何かあるとは思えない。彼女はそれを嫌ったのだろう。しかし、奴は彼女を狙っている可能性が高い。どんなに雰囲気が悪くても、彼女と一緒にいなければならない。
それにはまずこの雰囲気を改善するべきだ。生まれて始めて、作り笑いをした。精一杯の笑顔。それはかなり不細工なものだった。
「ううん、行くよ。当然行くでしょ。」
おどけても見せた。
「何、その顔?そんなにうちに来たいの?」
距離が縮まるのを感じた。もっと、もっとおどけなければ。
「だって、それは約束でしょ〜。行きたいに決まってるでしょ〜。」
変な物の言い方。よくわからないが、これは彼女のツボだったようだ。無邪気に笑っている。再び二人の距離は元に戻りだした。
「お、お腹痛い。ご、ごめん。許して。」
「じゃ、行ってもいい?」
「あ、うん。もちろんだよ。」
この時はじめて知った。恋人たちの距離は、一日のうちに近づいたり離れたりを繰り返す。そうして相手の気持ちを知っていくのだ。いい所、悪い所、相手のすべてを知り、そして・・・。

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