小説『鏡の中の僕に、花束を・・・』
作者:mz(mz箱)

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駅のホームは人で溢れていた。ほとんどの客がドリームランドの貸切りを知らなかったのだろう。そこにいた客が一斉に帰ろうとしたせいだ。
「すごいね。」
「そうだね。これじゃ、ここにいない方がいいよね。」
僕たちは、今ホームと改札を繋ぐ階段の前にいた。つまり、一番人が溢れるところだ。辺りを見回し、どこか空いている場所がないかを探す。すると、ホームの端にわずかだか空いている場所を見つけた。
「あそこ、空いてるよ。」
「ホントだ。ただ、あそこだと乗り換えは面倒だね。」
僕が見つけた場所は、電車の一番後ろの車両に乗る事になる。確かに乗り換えはかなり面倒くさくなる。なぜなら、多数降りる客が邪魔して、乗り換えのホームにスムーズに行けないのだ。彼女はこれで何回か、電車に間に合わなかったらしい。それを気にしているのだ。
「痛っ。」
誰かが彼女にぶつかった。
「大丈夫?」
「うん。」
「やっぱり、あっちに行こうよ。・・・それにさ、今日はずっと一緒なんだから、乗り換え間に合わなくてもいいよね?」
「だね。」
僕の言葉が力を持った。彼女とホームの端に向った。
「ふう、ここはだいぶマシだね。」
「そうだね。」
次の電車が来るまで、まだ時間がある。となると、空いていたこの場所にも人が多くなってくる。気がつけばホームの白線ギリギリまで、追いやられた。
「結局、どこも同じになったね。」
今にもホームからこぼれ落ちそうだ。僕は彼女がホームから落ちないようにと、少し前に立ち押さえ続けた。
「ありがとう。もう、ホントに早く電車来ないかな?」
「だね。このままじゃ事故が起きちゃうかも。」
腹筋が軽い痙攣をしている感じだ。
その時、やっと待望の電車がやって来た。これで、この痙攣から解放される。そんな事を考えながら、彼女の顔を見た。
電車はまだ勢いが残っている。割と早い。だからこそ、彼女を気遣い、彼女を見ていた。だから、気づかなかった。

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