「お、おい。」
くたびれたスーツを着たサラリーマンが言った。
「ね、ねえ？」
今度は二人組の若い女の子が言った。皆、線路の一点を見ている。それが一人、また一人と増えていく。最後には歓声が上がった。
それには美園も興味を覚えずにはいられない。覆っていた掌を外し、皆と同じ方向を見た。
「え・・・。」
あまりに信じられないものに、それ以上言葉を継げない。ただ、喜びの表情を浮かべるだけで精一杯だった。
「なんて事だい。」
美園の隣にいた婦人も驚いている。そう、電車の下から人が現れたのだ。
「痛てて。」
顔や腕、足を擦りむいている。履いていたジーパンも破れている。けど、生きていた。
「大丈夫ですか？」
駅員は駆け寄り、ホームに上げてくれた。
「あ、はい。なんとか・・・。」
「念のため、救急車呼びますね。」
「大丈夫ですよ。擦りむいただけみたいですから。」
「でも。」
駅員は困惑した。この状況で、そのまま返すのは良策とは思えない。そんな駅員に美園も賛同した。
「ダメだよ。病院に行かなきゃダメだよ。」
美園は泣いていた。それを見てまで断れない。半ばしかたなく、駅員の申し入れを受け入れた。
「あ、じゃ、すみません。呼んで下さい。」